「テレプシコーラ 2部」はあまり感心したことではないけれど、
立ち読み専門で、コミックを買う気になかなかなれないでいたのでした。
なんでかなあ、と思ったんですけど、
あまりに待たせるんですもん。
完結したらまとめて読もう、そう思いながら、
実際に終わってしまうと、
なんだかすぐに買って読む気になれなかったんですよね。
しかし、買って通して読むと立ち読み(すみません~)で
バラバラに読んでいた時には気にしていなかったことに
気が付く。
毎号立ち読みしていたつもりでも、作者都合につき休載というのが
あると、つい、次の号を読むのも忘れていたりして…。
2部と1部の違いはもちろん、
1部では主人公とおなじくらいの重要人物だった
千花ちゃんがいないこと、
と、
悪人がいないこと!ですよ(笑)。
1部では空美がいて、千花がいて、
どうしようもなく、悪であるものが描かれていました。
千花を執拗に陰でおいつめていた同級生。
アルコール中毒の父親と、母親らしい気遣いもあるとはいえ、
小5の空美に悲惨な仕事をさせていた母親。
篠原姉妹を目の敵にする五嶋先生。
小悪であったかもしれませんが、彼らによって
主要登場人物である三人はつねに緊張状態に
やられていた気がします。
六花の場合は母親でさえも、姉だけを贔屓するという
点において悪でした。いや、贔屓されプレッシャーをかけられつづけた
千花にとっても。
ところがですね、
2部にはいやなやつらはひとりも出てこないんです。
山岸凉子の人間観が変わったのかと思うくらい、徹底していますよ。
1部ではそのガサツな言動で六花を傷つけるだけだった
茜ちゃんは、あいかわらず言葉は乱暴ですが、
「サバサバしているいいやつ」として描かれています。
ローザンヌでずっと風邪に翻弄されつづけた六花が
熱を押してでも準決勝に出たいと願ったとき、
茜ちゃんが味方になってくれたのです。
また、六花のクラシックをみて率直にその実力に
驚きを隠せないほど、このひとは実力というものに
まっすぐに気持ちをあらわすようです。
(主人公だけではなく、脇役も成長したのか?)
1部では貝塚バレエ教室で贔屓されている篠原姉妹、
という観方をついしてしまい、指導者らしくなく、感情的なふるまいが
目立っていた五嶋先生も妊娠中で気持ちが穏やかになっているのか、
それとも人間的成長があったのか、
「六花ちゃん 私には見抜けない範疇の生徒だったのね」
と六花のオリジナルのDVDを見て認めています。
ほんとうに今回いやなやつはひとりもいなかった!
いやなやつを描かせたらピカイチの山岸さんにしてなんたることだ、
と思うが間違ってますか(笑)。
ローザンヌですから、熾烈な場所取り争いもあるし、六花の善意は無視される場面も
多かったのですが、あとからあのときはごめんね、みたいなフォローが入ります。
読後感が爽やかなのは、六花が認められ、ついに開花したというハッピーエンドだからではなく、
作者の人間観が変わったのか?というくらいみんないい人だからではないでしょうか。
そんなこともないか(笑)。
連載を読んでいるときの興味の中心はもちろん、
空美=ローラ・チャン?
でした。
読者はやっぱり、というより私はやっぱりあの空美であった方が
物語としての整合性がつくんじゃ?という気持ちですから、
空美にしとけ!
と思っていましたが、はっきり、
そう、私が空美ですよ、ともし、ローラ・チャンが離せないはずの
日本語で言ったら、うれしくないだろう。
六花ちゃんはさかんにローラ・チャンと空実ちゃんでは容貌がちがいすぎる、
といいますが、そうですか?
いまどきは化粧で相当印象を変えられますよ?
ローラの翳を落とすほどの長く黒々としたまつ毛だって、若い人のいう、
「ツケマ」
じゃないのか。ローラはそんでもって細面じゃないですよ。けっこうエラ張りさんです。
鼻ペチャだった、と、六花は主張しますが、鼻も成長しますから。
(なんとなくローラが整形というのを認めたくない気がする。みにくいあひるの子が白鳥になったと
考えた方が人生は薔薇色である。第一、あの美智子先生の姪ですよ?美人に育ってもおかしくないじゃないか)
そうだ、まわりにはいやなひとはいませんが、
空美の容貌を内心とはいえ謗るときの六花ちゃんだけはちょっといやなやつかも…。
六花ちゃんのなかでローラ=空実が確定した瞬間です。
「コッペリア」のなかのスワニルダを踊るローラ。
その衣装はかつてコンクールで姉の千花がオーダーしてつくった
ものと酷似していました。六花が洋書をヒントにオリジナルをオーダーしたものなのになぜ。
しかし「スワニルダ」よりも印象的だったローラの踊りは、
熱で思うように体が動かなくなってしまった六花の振り付けでもう一度
踊る場面ですよ。
なぜここでそんなことをするのか。
小学生の頃の空美はそういう子じゃなかった。
ルルベがままならない六花にワンポイントアドバイスをして走り去ることは
ありましたが、
自分を守ることだけで精一杯で誰にも関わらず、バレエだけしかなかった。
千花ちゃんはバーレッスンで空美ちゃんをものすごく意識しているのに、
スーッとして自分の世界に入っている…。
ローラもふだんはわれ関せずですが、いくつかの場面で冷たい表情は崩さないまま
六花に救いの手を差し伸べているのです。
しかしこの場面は助ける、だけではなく、
六花の振り付けを超絶技巧をもつローラが踊るという、
1部で読者が夢見た(と思われる)待ってましたのコラボなのです。
おいおい、日本語だよこれ。
ここでも、あれ~?と思わせるわけですよ。
また、六花のオファーカードをめぐるやりとりを背中で聞いていたと
思われるローラが、
表彰式で突然舞台に出て、とまわりの(言葉の通じない)大人たちに言われて混乱しているときにも、
「早く出て!」と叫んでいます。
これは六花は知らないエピソードです。
読者のみなさんが決めてね、と、作者から言われたような気がします。
六花ちゃんがふりつけた「ひきこもり」
箱の中でさまざまなポーズをとるという斬新なアイディア。
こういうアイディアを作者はどこから得るのか、という方に
興味が向きます。
「シンデレラ」を踊る六花。
1部は物語としての流れが激しく、バレエのポーズや踊りの場面は
これほど多くはなかった気がします。
コンテンポラリーの課題もクラシックも、
そのポーズも表情も六花の成長が伝わってくるような
丁寧な描き方だった気がします。
(だから物語がなかなか進行しなかったのか…まとめて読むと
進行しないなーというイライラは感じませんでした)
あの1部の最後の「ひとりのコリオグラファー(振付師)の誕生」という言葉には、
すこし言い過ぎ?と思ってしまったのですが、
2部の六花に腑に落ちた思いです。
つづきはそれぞれが考えればいいの、という突き放した終わり方こそ、
考えたら山岸凉子的ですね。山岸さんのなかにはきっとローラも六花もいるのでありましょう。
ではまた~











