『キャンディとチョコボンボン』とこの『おじゃまさんリュリュ』
で大矢ちきさんの72年~75年にかけての
少女マンガ家としての作品をすべて収録しているというのが
凄いなあ。たった2冊なのか。
私が小3~6年の間のことだよ。「りぼん」は近所の
床屋さんの姉妹と遊んでいたので、当然のように
毎月そこで読んでいたんだが、
途中から「デザイナー」の連載がはじまり、そうなると
自分で買いたいじゃないですか。
買ったり買わなかったり(レギュラーのマンガ本があって、
予算の限界があるからだ)したのですが、
この「おじゃまさんリュリュ」と併録の「この娘に愛のおめぐみを!」
とくに、「この娘に~」の方はたぶん、
学年が上になってからの連載だった分よく
憶えています。
(漫画文庫は初出一覧がないものが多いので、
ちょっと不便~)
若い身空でいまでいうホームレスのスー・アリス
(この名前も一度聞いたら忘れられない)が
御曹司との結婚を夢見て旅立ちます。
で、少女マンガのお約束といってしまえばそれまでだが、
全身を洗って髪もきれいに整えてもらったら、
「鏡の中の美人はだあれ」
である。主人公の名が「アリス」であるから、
これはもちろん、あれだ。
それにしても点描の見事さよ。
三十数年ぶり以上で読んだのに、このコマは
よく憶えている。
このコマの、歯の間から舌をはみ出させる、というのも(笑)。
精緻な絵と、こういうギャグと、「空間恐怖症」的な
びっしりつまった絵が矛盾なくおさまっているのだ。
アリスは御曹司との結婚を夢見て、お屋敷でご奉公
しているわけですが、ライバルのメイドさんたちを
もちろん、主人公のスー・アリスなので、御曹司のハートは
彼女のもの。
それにしてもなんてきれいなコマなんでしょう。
孫引きですが、解説の盛田隆二さんが「ぴあパノラマ館」で
大矢ちきさんと一緒に仕事をした日々をふりかえり、
橋本治さんの「ぱふ」に掲載された文章を引いているので
「そもまず、マンガというジャンルがある。
一生懸命やる人もいるしテキトオにやる人もいる。
普通の人がテキトオにやれば、それはかなりいい加減な作品になる。
ところが、十分に技術を持った人がテキトオであることを分かってキチンと
やってしまえば、すぐれた作品になる。なぜかといえば、その”一生懸命”と
”テキトオ”その間にあるすき間を埋めるものが“自由”だから」