ホーマックの特売品カートにあった、「昭和の名作マンガ」シリーズの一冊。
しかしホーマック、米や菓子やお酒までおいていますが、
商品管理が大変そうだなあ…。
ちばあきおは「キャプテン」と「プレイボール」と、「ちばあきおのすべて」しか
持っていなかったので、
みつけた瞬間即買いでした。
(「あたしンち」はいつでも買えるからあとでもいいけど、これは売れてしまったら
もう手に入らない気がして…ちなみに2冊ありました)
「校舎うらのイレブン」全体は368ページ。
ちばあきおの初期から中期の傑作集という趣ですが、
総タイトルにもなっている、
「校舎うらのイレブン」はのちの「キャプテン」の前身といって
いいでしょう。この中篇をタブローにして、あの偉大なる
長篇「キャプテン」を描いたのだと思います。
主人公は叔父さんに頼まれて赴任してきた、熱血漢の体育教師の
青年です。
のっけから、校庭に停めておいた車のパーツを盗まれたり、さんざんな目に遭います。
この中学校はまずしい区域からやってきている子どもたちがほとんどで、
部活もまともに行われていません。
青年教師はあまりのひどさにやる気を失い、すぐに辞表を出したくなったのですが、
この貧しい学校の中でもさらに貧しく、そのために盗みや賭けごとを日常茶飯としている
おちこぼれたちのサッカーチームの顧問になってしまうのです。
やる気はないし、すきを盗んでは賭けごとばっかりやっているし、青年教師はなんども
腸が煮えくりかえるのですが、
子どもたちは子どもたちなりに、サッカーのユニフォームやシューズ、ボールを自分たちで
なんとか工面しようと賭けごとで得たお金を貯金していたことがわかります。
子どもたちへの誤解がとけて、彼らのチームを育てようと決心する教師。
しかし、地区大会出場を決めたとき、学校中の運動部が大反対におしかけてきます。
落ちこぼれの彼らは、おなじく貧乏な家の子ばかりがきている学校のなかでも馬鹿にされ、
さげすまれていたのでした。
野球部だけがこの学校の誇りだったのです。
周りの学校から盗人(ひどい!)とまで呼ばれ、馬鹿にされている中学ですが、
野球部が地区大会2位という成績だったことが、かれらの唯一の誇りなのです。
その野球部が中心となって、ユニフォームでさえよれよれの服を紅チンで染めた、
みるからにしおたれたサッカーチームの地区大会出場を猛反対にきました。
熱血先生はもちろん、うちのチームが勝つ!と大見えを切り、練習ははげしさを
増します。
対戦相手は、金成中。やっぱり成り金の子どもたちが多い学校のようですが、あれ?この
名前どこかで聞いたような(笑)。
最初は完全にのまれていた隅谷中のイレブンですが、ひとりひとりの特技を生かしたプレーが
はじまると、互角の戦いになってきました。
しかも、腕を骨折しても代わりの選手はいない、隅谷は、その腕をだらりとさげたまま
走ります。鬼気迫る状態だ。ますます、どこかで見た様な光景だ(笑)。
「キャプテン」でも、青葉二中との再戦でボロボロになりながら、ホームに
滑り込むイガラシがこんな鬼気迫る顔でした。
接戦の末、惜しくも負けたイレブンですが、隅谷の野球部は彼らに手を貸し、
対戦相手の金成中もまたの対戦を、と誓います。
優勝よりも大きなものを彼らは手に入れたのです。
こういう描き方はほんとうに「キャプテン」だなあと思います。
もうひとつ、こちらも「キャプテン」の原型となっている作品です。
「半ちゃん」。なにをやらせても半分くらいしかできない、
というようなからかいを感じるニックネームの
半ちゃんが、みんなと野球チームをつくりたくなって、
近所にぺたぺた張り紙をして、チームメイトを集めます。
やがて近くのチームと対戦するのですが、そのあまりの
実力差に、楽しんでやっていたチームメイトも
愕然とするわけです。
そこに現れたのが、イガラシとしか思えない、
ラッキョ頭の生意気そうなチビ。
勝つためならなんでもやる非情さはまさしくイガラシ(笑)。
チームは次第につよくなっていくのですが、
「楽しんでやりたい」派と、
「勝たなきゃ意味がない」派がぶつかり合い、
とうとうチームは分裂してしまい、解散してしまうのです。
ひとり空き地で練習をする半ちゃんに、「楽しみたい」派の子も、
「勝たなきゃ」派の子も、ひやかしたり、茶々を入れたりして、
まだ野球をやりたい様子です。
半ちゃんは大人しいけれど、実行力のある子で、さっそくまた、
一緒に野球をやろうよ、のポスターを張ってみんなを待つのです。
「校舎うらのイレブン」の熱さはないのですが、
非情なまでの練習で勝つことへの執念と、
野球をチームメイトと楽しみたい、
というこのふたつの気持ちがひとつになることは可能なのでしょうか。
昭和46年のこのふたつの中篇のあと、
昭和47年から「キャプテン」の連載がはじまっています。
私なりに考えたのは、チームメイトと苦しい練習をくぐりぬけて
一緒に掴む勝利だから、楽しい、
というあたりで両方の気持ちが合わさるということですね。
むかし、高校の倫理社会でならった、
「正」「反」「合」という哲学を思い出しました。
「キャプテン」の前身のこの2作が読めてよかったです。
ほかには、「いってきまーす」「がんばらなくっちゃ」「サブとチビ」
「ニタリくん」「愛の惨歌」「みちくさ」所収。
2008年 朝日新聞社から出ていました。