きのこ 安部譲二 (中央公論社) 1991年
「塀の中の懲りない面々」シリーズで一躍時の人となった
安部譲二が自らの私生活を赤裸々に語った…
わけはないだろうたぶん(笑)。
きのこ、というのは実際にも猫がすきな安部さんの
飼い猫の名前で、安部さんに焼きもちをやく、
雌猫の名前なのですが、
山田詠美をモデルにしたとおぼしき、美人でスタイルがよくて、
官能的な描写がうまくて有名な文学賞を受賞した、
山本多美。いいのかあからさまなモデルにしちゃって、とこちらが
ハラハラする。きっといいんだな。この多美と、
岩下志麻をイメージするのが自然な京極貴子、
モデルは分からないが、女子アナの永田真理子。
国立大学の女子大生のポルノ女優で、言葉遣いの上品な、
といったらやっぱり、黒木香さんでしょうか。たぶん。
なんとなく懐かしいー。時代の空気だねー。
の3人の女たちとのすったもんだがあり、
背は低いが極道のバシタ(女房)を伊達にやってきちゃいない、気風のいいあけみが
ひとり息子をつれて家を出ている最中に、
最愛の母の葬式があったりする。そこは長年連れ添ったあけみがうまくやってくれるんだが、
主人公直介がどうしても安部譲二に重なって、その顔がイメージされてしまうわけです。
ちなみに、三島由紀夫が安部譲二をモデルにして書いた「複雑な彼」(集英社文庫)は、
「単純な直」というタイトルにもじられていました(笑)。
「複雑な彼」で知られた安部譲二の一作目の小説が虚実おりまぜ、モデル多数の小説というのも、
おもしろい趣向だなーと思います。
「複雑な彼」よりも安部さんのこの「きのこ」の方がもっとおもしろいと思いますけどねー。