パスタマシーンの幽霊 川上弘美 マガジンハウス
短篇集なのですが、一部、登場人物がワキとシテを
入れ替わっているものがあります。
表題作のパスタマシーンの幽霊とは、だれか。
主人公の女の子は、料理があまり得意ではないのですが、
恋人の部屋で発見したパスタマシーンに浮気疑惑を抱いて、
「女なんでしょ」
「パエリアとか、土鍋で作っちゃうような」
と問い詰めます。このあたりで思わずいいのか、女性誌の連載で
これを言っちゃって、と思うんですが、たしかに女性誌には
あるサイクルで土鍋のパエリアが紹介されている気がします(笑)。
私は土鍋でパエリア、つくりませんけどね。ってかパエリア、たべた
ことがないんです。ごはんのアルデンテって旨いのか?という疑問が
消えないもので…。
問い詰められた隆司が告白したところによると、その
使いこまれたパスタマシーンは料理がすきでまた得意だった
おばあちゃんの誕生日プレゼントとして孫たちで贈ったものだったのでした。
ところが、もともと太っていて高血圧だったおばあちゃんに、
油をつかったパスタ料理がいけなかったのか、おばあちゃんは
他界してしまい、その次の日から
あらわれるようになった…。
その後、パスタマシーンの幽霊は料理が苦手な「あたし」に
料理を教えるためにあらわれるようになるのでした。
内気でベランダで草じゃなく、木を園芸するのが趣味のOLが
片想いする相手はコロボックル。
その内気な彼女の自信なげな態度にいらついている同僚のOL。
「きんたま」という、岩井志麻子といい勝負のタイトル(タイトルであって
中身ではありません)の短篇には、
「きんたま火鉢」(股火鉢のことだ)を愛用していたひいおじいちゃんのことを
思いだしつつ、自分の将来に希望がもてない主人公と、超優秀な姉と兄が
出てきます。
自分とはまったく接点がないと思っていた超優秀な姉が、自分のクライアントが
裁判前日に自殺したことで落ち込み、
あたしはいい男になりたかった、と言うので、
そのクライアントはいやな上司のセクハラに遭って鬱病になったのですが、
主人公が、お姉ちゃん、男になりたいの、と尋ねると、
いい男になって、いやな男を駆逐してやりたい、というのでした。
「きんたま」というひらがなだと余計まぬけにみえるタイトルですが、
主人公のかなは、姉とのやりとりのあと、
はじめて自分のほんとうにやりたいことをさがしてみようかな、と
思うようになっています。それは声高にいうほどのものではなく、
「専門学校入りなおしてみようかな」
というささやかな決意なのですが、
なぜか印象に残る作品でした。
「くう・ねる」に連載されていたものをまとめたせいなのか、
それとも、川上弘美の興味の方向なのか、
園芸というか、植物と料理が多く出てくる気がしました。
いや、私がそちらの方面に興味をもっているからなのかもしれませんが。
お父さんが再婚することに戸惑う、中学生の一子ちゃんとその叔母にあたる
主人公の物語、
「すき・きらい・らーめん」
もすきです。