どこから行っても遠い町 川上弘美
谷内六郎の表紙の、青い窓の外の景色と、
山高帽の男の後ろ姿が、
ルネ・マグリットの絵のようだと思うのは私だけでは
ないはずだ(笑)。
連作短篇なのですが、
最初に私が読んだのは、タイトルに惹かれて、
「長い夜の紅茶」。
熱血が苦手な、見合い結婚で結婚した夫との間に
ふたりの子供がいる、時江と、
夫の母親で一人暮らしをしている、ちょっと個性的な
「弥生さん」がお茶を飲みながら、
あるいは家事をしながら、語り合う言葉がふわっとしているようで、
リアル。
この弥生さんが50代の頃浮気をしたのよ、と告白し、
ほかの短篇には浮気相手のよそのダンナさんと、その奥さんが出てくるし、
その奥さんが亡くなった後のはなしも、
その奥さんを訪問介護しにきていた、なにをやっても失業に追い込まれる不運な男性の
話もしみじみしていて、すきです。
しみじみしていながら、どこかぽかんと穴があいているような不安定なものが感じられ、
それが谷内六郎の絵からうける、あの感じによく似ているんです、
と、弥生さんみたいな年上の女性に、長い夜に話しかけてみたくなる
私なのだった。