三宅智子さんと私 第十七回 | 菅原初代オフィシャルブログ「魔女菅原のブログ」

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一組目の注目選手は、山本さん、山口さん、池田さん。


池田さんは、司会の中村有志さんにからかわれながら、

いつものとおり、淡々と皿を重ねていた。


山本さんのとなりの、若い女性とは初対面だったのだが、

三宅さんのブログで知っていたし、会場に入ってから、少し、

話したりしたのだった。


迫田奈々。若い。たぶん、よく食べるだろう。


菅原は、この当時、若い人を見ると、自分より絶対食べる、と、

思っていたのである。


とくに、揚げ物なんか、若い人の方が絶対食べるって。。

やだなー。なんでお鮨にしてくれないのかなあ。


菅原は、そこしか空いていなかった、中途半端な位置の壁に立ち、

春の女王戦、東京予選にも来ていた山梨の女の子と、小声で話しながら、

目の前でアジフライを食べている選手をみていた。


大食いのサイトを運営している、青木さんだった。


菅原はなにごとも、本で学ぶ、ドイツ人みたいな

(ドイツ人は飛行機の乗り方も本で学ぶ、と、

そんな文章をなにかで読んだのだ)気質なので、


『闘う胃袋』という本にも紹介されていた青木さんなら、

きっと、もっとも合理的な、


アジフライの食べ方を披露するにちがいないよ!


という期待で見つめ続けていた。


ちなみに、菅原の祖父は、なにかというと、

ドイツ人をべた褒めしていたので、


菅原はじゃがいもを食べるたびに、


「じゃがいも頭はドイツ頭」


という、祖父の十八番の、意味不明のコピーを思い出す。


菅原の祖父は、中島飛行機工場→パン屋さん→板金という

変わったルートを歩いた人なんである。

でもその話はブログでだな。すまんすまん。


そう、菅原は、アジフライの食べ方が分からなかった。


飛ばせばいいのか。


慎重に行くべきなのか。


とりあえず菅原はレモンティーを飲んで喉を潤すのであった。


あ。


あれは。

知る人ぞ知る、制作会社零クリエイトの

一番偉い人、酒井さん、ではないか。


零クリエイトは、大食い王を作っている会社である。

別に大食い王だけが仕事ではないので、


「愛の貧乏脱出大作戦」「なんでも鑑定団」など、

いろいろ制作しているんだが。


思えば、菅原の大食い王への第一歩は、北海道予選だった。

そこで、この酒井さんと印象に残る、出会いを体験しているのである。


…大食い王の出場選手を探索している、リサーチ会社、

フォーチュンスープかかかってきたのは、

全日本わんこそば選手権が終わって、一週間ほどしたころだったろうか。


「広報もりおか」で、わんこそば大会の選手応募を知り、

出てみよっかな、女性のトップくらいは自信があるし、という、

軽い気持ちで出てみたら、


意外にも、準優勝で、

準優勝の賞金JTB三万円と、女性トップ賞のJTB二万円を

もらってしまったわけで。


しかもですよ、新聞社が少しは準優勝の菅原にも来てくれるわけだ。

こんなに注目されたのは、生まれて初めて。

しかも、大食いをしてこんなに、ちやほやされるとは。


菅原は、大食いに関してはかなしい記憶があって、

あんまり大食いをおおっぴらにしたくない気持で生きてきたんである。


でもまあ、新聞社やテレビ局からのわんこそばインタビューは、

灰色の毎日にポツッと落ちた、

薔薇色の絵の具の、一滴、くらいのもので、


いわば、人生のアクセント、と、思っていたんである。


フォーチュンスープからの電話は、

女性だけの大食い大会があり、それにさきがけて、

今度、北海道で地方大会がある、というものだった。


「ぜひ、出て欲しいんですよ。地方大会の優勝賞金もあります。

北海道予選で優勝すれば、三万円、東京の本戦に出て、

地方大会優勝者の中のトップになれば、

さらに五万円の賞金も出ます。」


金額も、土地の名前も、どこか雲をつかむような話で、

実感が湧かない菅原であった。


だが、気がついたら菅原は、飛行機の予約をネットで取り

(優勝したら交通費は番組持ちなのだ!)、

札幌の地下鉄を利用して、すすきのを歩いていた。


雪は全然なかった。


すすきのの女性は、垢ぬけてる人が多いなー。

と、ホテルの隣の、百貨店「ロビンソン」を

うろちょろするのだった。


そいでもって、この「ロビンソン」に入っている書店で、

『闘う胃袋』と、佐々木倫子のマンガを買ったんである。


さて、夜のお供の本とマンガを買ってきた菅原は、

ホテルのベッドに腰かけて、ぼけーっとしていた。


軽く眠ってしまったので、いつもぼんやりしている

頭がさらにぼんやりしている。


明日は北海道予選で、勝てば東京にいくんだ。

ほんとうかな。騙されているんじゃないかなー。


フォーチュン・スープからの電話も、飛行機も、

添付メールで届いた、大会のお知らせも、、

すべて手の込んだイタズラ、に、思えて仕方がない菅原であった。


と。


ドアをノックする音がした。

ドアを開けると、そこにいたのが、


零クリエイト、プロデューサー酒井英樹氏。

テレビ東京、プロデューサー三沢大介氏。


だった。

二人は、中学生みたいな手編みのセーターを着た、

寝起きでぼんやりした、頼りない菅原に、

深々と頭を下げ、明日はよろしくお願いします、と、

挨拶をして去った。


なんと食事代と明日のタクシー代まで

もらっちゃった。ええ!いいのか。


よろしくって、言われましても。


菅原は、この厚遇が理解できなかった。

負けたら、どーすんのかなあ。


ベッドに寝転んで、天井を睨んでいた菅原だったが、

夕食代にともらったお金を掴んで、勇躍、夕食を食べに出かけたのであった。

すすきののお洒落なお姉さんたちに混ざって、


子どもオバさんみたいな菅原は、新鮮な寿司ネタに舌鼓を打ち、

いやー、もうこれだけで充分幸せなんですが、と思った。


前日の旨い鮨がよかったのか、北海道予選を順調に勝ち上がり、

東京本戦も優勝した菅原は、だが、いつも、


負けたら、この人たちは手のひらを反すんだろうな、


という、


疑いを捨てきれないでいた。


だって! たかが大食いじゃないの。


これが菅原の偽らざる気持ちであった。どうしても、大食いがすんごいことだと、

思えないのだった。

それはただ単に、菅原が大したことのない選手だったから、なのだが。


おしるこの2回戦が終わったあと、敗者の菅原はロケバスから降りて、

一人だけ、違うホテルへ向かうことになった。

「ご帰宅」できない遠方から来ている菅原のために、

一泊宿をとってくれたのである。


その、ロケバスを降りる時。

酒井さんは、菅原が挨拶をしても、うわの空だった。

菅原は、見限られたのだと思い、むしろ、ほっとした。


そう、これが、普通。と、思った。


大切に扱われたり、尊重されたりということに、どうしても、

違和を感じてしまう、ひねくれた菅原だった。


酒井さんのうわの空は、菅原が二回戦で敗退するという予想外の展開に

狼狽していただけのことなのだが。

菅原は、かなりやる選手だと期待されていたようなのだ。意外にも。

それは菅原の自惚れを超えるほどだった。


そんなことがあって、目の前を酒井さんが通り過ぎても、声をかける気に、

なれなかった。


(声をかける資格が、いまの私にはないんじゃないの。

 この戦いに、自分の力を出し切ったら、その時は、酒井さんに、

挨拶をしよう)

菅原はそう思い、かすかな痛みを、なかったこと、にした。


一組目は、やはり、山本さんが圧倒的な力を見せている。

菅原のいる場所からは、柱にかくれて、様子がよく分からない。

女性選手では、やはり、池田さんと、迫田さんが甲乙つけがたい、

いい勝負をしている。


菅原の注目は、山口さんだった。


(山口さんの枚数を超えれば、もしかしたら、混合戦に行けるかも)。


それは、儚い望みだったが、菅原には、どうしても混合戦に行かなければ

ならない理由があったのだった。


どうしても、倒させてもらうよ。


さっきは、けっこう大人しいふりをして、山口さんに挨拶をしてきた菅原だったが、

じつは、打倒山口に燃えていたんである。


注目選手ばっかりで、華やかだった一組目が終わり、言っちゃあなんだが、

けっこうあっさり二組目が終わった。


三組目。注目選手は、泉さん、上條さん、そして、たぶん、菅原。


のはずだが、菅原の右隣に座った選手は、菅原に、

揚げものは、難しいから気をつけた方がいいよ、

と、指南してくれたんである。

菅原も人が悪いので、大食いがはじめてのふりをして、

そうですかー、気をつけますねー、とか言ってみた。

しかし、


見てろよ!!


と、思ったということは、このブログをずっと読んでいる方には、

もうお分かりだろう。


見てろよ!!って、誰に言ってんですか。

たぶんそれは、


自分自身に。


菅原、43歳の夏。

戦いが始まろうとしていた。


長かった…。今回はあまり寄り道しないで描いたつもりなのに、

まだまだ書いていないエピソードがあるぞ。

記憶の冷凍保存状態ですなあ。

レンジでチンして、ほーらこんなに。


ちなみに、いい加減で、ばらしますと。


この大会直前、菅原はご飯、16合食べたのが最高記録でした。

27合って……ハードルあげすぎ(笑)。かんべんして。


では、シーユーネクストアゲーン。

菅原でした。