急に思い立って映画『終の信託』を観てきた。
尊厳死・安楽死を巡るテーマで 普通を生きる私には判決に割り切れない気持ちが残った。が、気持ちだけでは解決出来ない真なるところを考えなければならないと教えられた。
全編を通して発っせられた鉛色の空気に身を置いたまま映画館を出た。
いつものことながら、街は眩しい程に明るく見え 自分だけがフッとそこに降り立った気がした。
クリスマス色の百貨店を横目に酉の市が始まった神社に足を伸ばす。


平日にも関わらず菊祭りもたけなわの境内は七五三祈願の家族でいっぱいだった。
赤やピンク、黒や緑の愛らしい着物姿がパパの肩にママの腕に祖父歩の両の手にすっぽりと埋まり幸せ以外の何物も入る余地は無いような境内だった。


尊厳死・安楽死を考えながらトンネルのような映画館を出て、花咲く里のような(明日)だけがある景色の中に身を置いた。
ふっと、
これはともに(愛する人の幸せを願う)形なんじゃないかと思った。
そして、二人の祖母を見送ったとき、孫の私が最期を承認した夜が蘇った。
父方の祖母は軍人の妻として女手一つで慎ましく三人の子を育て、父はそんな母親を入院ギリギリまで入浴を共にする程に愛しんだ。
母方の祖母も母が幼少の頃夫を亡くし、一人娘の母を毎日学校へ温かいお弁当を届ける程に可愛いがった。
そんな二人の代わりにドクターの見解を受け入れ、私が延命治療を終わりにする決断をしたのだ。
私は若い心で絞るように考えた。そこに苦しむ祖母を一番必要としている人は誰だろう、祖母達が一番逢いたい人は誰だろう・・と。
・・・祖父だと思った。
亡くなった祖父だと思った。
もうそこまで迎えに来ている祖父が祖母を一番必要としている、祖母も祖父に一番逢いたいんじゃないか、
そう思った。
若い私には迷いは無かった。
父方の祖母のとき、父は病室の窓を大きく開けた。そして、身体を震わせながら
「お母ちゃん、信さん(祖父の呼び名)のとこへ行きや~。もうそこに来てくれてるやろ。お父ちゃん、長い間 待たせたなぁ。すまんかったなぁ。お母ちゃん 今 返すよってに 連れったげてや~。ほんまに おおきに、おおきにやでぇ。」と言った。
そして、私達は祖母の最期の息を確かめ 父が開いた窓に向かって手を振った。
母方の祖母のときは、見送ってから 祖母の浴衣を少し開いて 母と一緒に祖母の胸の温もりを頬に刻んだ。
私は今でも後悔はしていない。
少しではあったが、二人の祖母達を愛する人の元へ早く返してあげることができた・・・と想うから。
そして、私自身もその時が来たら、(Aさんが先に逝っていたなら)少しでも早くAさんのところに返して欲しい・・・と想うから。
来週、父方の祖母の十三回忌の法要のため実家に帰る。
祖母はきっと 美しく髪を結い上げ 大好きだった菊の裾模様の着物を着て私達のところに挨拶に来てくれるだろう。
そして、戦争で失った二人の時間を取り戻した祖母は どんなにか綺麗に見えることだろう・・・と今から思うのである。

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