*ようちえんぐみ*




 先日の公開保育は野外料理の日ということもあって、ご飯を炊く火、お味噌汁を炊く火、そして暖をとるための火の3つの火を起こさないといけなかった。今回はその中の、暖をとるための火起こしを紹介したい。

 年長組のたかひろと年長組のつきちゃんは、朝の会が終わると同時に火起こしに向かう。「2番マッチ使いまーす!」ひかりの声が響く。ナチュラでは、マッチ箱に番号が書いてあり、子どもたちが自分で選んだマッチをその日の間使うことになっている。なくなったとしても、補充はしない。子どもたちは、中身に限りがあるマッチを大事持って火を起こす必要がある。



 濡れそぼった杉の葉を、土を掘って作った火起こし用の窪みの中心に据え、シュッとマッチを擦り、火を近づける。パチパチと爆ぜる音はするものの、火の手をあげることなくマッチの火は消える。何度か繰り返すが、結果は同じ。「あかんなぁ」とひかりがこぼす。たかひろは「もっと杉葉いるなぁ」と呟く。確かに小枝とか燃えやすいものないとこれ以上は難しいかもしれないと僕も思った。しばらく、マッチを擦っては杉葉に近づけ、少し燃えては消えるということを繰り返していた。そんな様子を受けて、僕は「枝でも拾いにいこかな」と声をかけた。「たかも枝拾いにいく!」「つきちゃんも!」と2人は停滞した流れを断ち切るように、即答した。「ほな行こか!」と、僕は2人を連れて、森へと向かった。小川が流れる杉と檜の森は、杉葉や小枝の宝庫で、3人で両手で抱えて杉葉を持ち帰った。次いで、小枝を拾い集める。小枝自体は至る所に落ちていて、すぐに集められた。集めた杉葉と小枝を組み合わせて、その中心めがけて、マッチの火を移していく。マッチとはいえども、火の力はすごいもので、湿った杉葉を乾かし火が移り始めた。ボッと火の手が上がる。うまく小枝についてくれよと願いながら、火を見つめる。子どもたちも同じ気持ちのようで、食い入るように火の様子を見つめている。次第にそれは枝へと引火し、さらに上に重ねていた薪へと火が移り始めた。予め渡しておいたうちわをぱたぱたと仰ぎ、火の勢いをコントロールしていった。薪にボッと火がついた時にはなんとも言えない嬉しい気持ちになった。これはたかひろもつきちゃん感じていたことだと思う。



 自然の中で過ごしていると、思い通りにいかないことがたくさんある。今日の場合だと、木が湿っていつものように火がつかないことがそれにあたる。そんな壁にぶつかった時に、「じゃあどうすればいいのか」「こうしてみたらいいのかな」といった思案や工夫が子どもたちの中に立ち上がってくる。そんな思いや、思いが具体化した子どもたちの行動を、僕たち保育者は見守っている。ただ見守るだけではなく、子どもたちがぶつかる壁を、手助けしすぎないように留意してではあるが、背中をおすことができるような関わりを僕は意識している。このエピソードの場合だと僕の小枝拾いの提案がそれにあたる。

 このような関わりは、どのような保育であっても当たり前にされていることかもしれない。ただ、「どうすればいいのか」の壁にぶつかりやすい森という環境、そして少人数制で一人一人の子どもと向き合える時間を多くとることができる森のようちえんでは、このような子どもたちとの関わりが数え切れないほど起こっている。子どもたちの「どうすればいいのか」に保育者が丁寧に寄り添い、ともに考えながら壁を越えていくところに紡がれる子どもー保育者の関係に、森のようちえんの良さがあるのではないだろうか。

(保育スタッフ のぶくん)