魔女とレヴィ 第4話                       甘い香りに誘われて 


 夜も更けて、百合夜は大樹と寝室へ向かった。

 居間には、柔らかな灯りと、ほんのり甘い香りが残っている。


 レヴィの前には、百合夜が淹れてくれたローズマリーのハーブティー。

 “追憶”のハーブ――。

 湯気の奥に漂う香りを追いながら、レヴィは静かに息をついた。


 向かいでは、エルとライが百合夜特製のハーブ酒を傾けている。

 ライが、ふと低く呟く。

 「……百合夜さんは、お前の琴線に触れるんだな」

 エルはグラスの中で光を揺らしながら、黙って頷いた。


 レヴィは、カップの水面を見つめたまま口を開く。

 「――忘れたいんだよ」

 声はかすれて、遠くを見ているようだった。

 「もう、忘れたい」


 少しの沈黙ののち、エルが静かに問う。

 「……なぜここにいる?」


 レヴィは目を閉じた。

 「わからない。俺にも、わからない。

 ただ――居心地がいいんだ」


 夜が静かに更けていく。

 灯りの向こうで、ローズマリーの香がゆるやかに揺れた。


***


 ゆっくりと、穏やかに時間が過ぎる。


 空が、少しずつ白みはじめていた。

 夜の名残を抱いたまま、レヴィは窓辺に立っていた。

 カップの底に残るローズマリーの香りが、まだ微かに漂っている。

 それは、過ぎた夜の記憶のように、静かで、少し切なかった。


 「じゃ、行くわ」

 ライが立ち上がり、軽く手を振る。

 足もとに淡い光の輪が広がり、朝露のように揺らめいた。

 次の瞬間、フェアリーサークルの中にその姿は溶けていった。


 レヴィはしばらくその場所を見つめていた。

 遠くの空の向こうに、まだ見えぬ何かを探すように。


 エルは黙って、その背中を見守っていた。

 やがて小さく息を吐き、窓辺に差し込む光の中で、静かに微笑んだ。


 ――新しい朝が、始まろうとしていた。