魔女とレヴィ 第2話 霜が降りる頃に 


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レヴィは軽く咳払いをし、百合夜に大樹を任せると、

ゆるやかにエルへ視線を戻した。

「……で、何の用だ。」


朝の霜がまだ光を残す居間の空気が、わずかに張り詰める。

その中で、エルはにっこりと笑った。


「すまんね、家族団欒の最中に。」


「そんなんじゃねぇ!」

反射的に声が荒くなり、レヴィ自身も少し焦ったように視線をそらす。

エルがわざとらしく笑みを深めた。


「フフッ、そんなに怒るな。」


百合夜は二人の間に漂う妙な空気を感じ取りながら、

ジンジャーミルクティーを運んできた。


「まぁまぁ、まずは飲んで。温まるわ。」


「ありがとうございます、奥様。」

エルは優雅にカップを受け取り、香りをひと息吸う。

「……いいね。人の家も、悪くない。」


「用件は。」

レヴィの声が低く、冷ややかに切り込む。


エルは笑みを漏らした。

「相変わらずだな。――レディ・シンシアがお前を探してる。」


「……シンシアが?」

レヴィの表情がわずかに強張る。

ウェールズの大魔女、妖精を呼び使う“呼び手”の女。

その声も、姿も――厄介なほど美しかった。


エルはにやりと笑う。

「お前のこと、まだ諦めて無いみたいだぞ。」


「……そんな趣味はない。やめてくれ。」

レヴィは顔をしかめながらも、胸の奥で奇妙な違和感を覚えた。


沈黙が落ちる。

指先が、テーブルの縁を一瞬叩いた。


「……探してる? 呼ばれてはいない。」


「そう言うと思ったよ。」

エルは軽く肩をすくめる。


「……結界を張ってから、一度も外へ出てないな。」

その言葉に、レヴィ自身がはっとした。

本来なら、風は留まらない。

なのに――どこへも行こうとしていなかった。


視線が、無意識に百合夜へと向かう。

彼女は紅茶のカップを拭きながら、何も知らずに小さく息を吐く。


――どうして、俺は。


「……解除してみる。」

低く呟き、右手をわずかに上げる。

空気がきらりと揺らいだ、次の瞬間――


『レヴィィィィィーー! どこにいるのよぉおおっ!!』


頭の奥に、甲高い声が突き刺さる。

レヴィは眉をひそめ、こめかみを押さえた。


「……っ、やっぱり……!」


エルは額に手を当て、げんなりとした表情を浮かべる。

「やれやれ、まるで嵐だな。久しぶりだろ、あの声。」


百合夜は何も聞こえないらしく、首をかしげて二人を見た。

「どうかしたの?」


「……何でもない。」

レヴィは短く答え、溜め息をつく。

エルは紅茶を啜りながら、にやりと口角を上げた。