魔女とレヴィ 第2話 霜が降りる頃に 


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魔女たちの夜会は、年に一度、古き館で開かれる。

高窓から流れ込む月光が、香と魔力の渦に溶け合い、

笑い声と呪文の囁きが絶え間なく交錯していた。


その片隅――窓辺に凭れかかるひとりの妖精、レヴィ。

黒髪が月光を受けて淡く揺れ、その眼差しは、遠くの風を追っていた。


「……俺は、なぜ、あそこに留まる?」


呟きは風に紛れ、誰の耳にも届かない。


妖精が人の傍にいる理由は単純だ。

魔力を分け合い、互いの欠けを満たす。

それだけのはずだった。


だが――百合夜の笑みを思い出すたび、胸の奥がざわめく。

あの指先。あの穏やかな眼差し。

まるで、あの夜、風に消えた“彼女”の面影のようで。


胸に痛みが走る。

心の痛みなどとっくにわすれたはずなのに。

気づけば拳を強く握りしめていた。


「……くだらない。」


自嘲の声が風に溶けた、その瞬間――場内の空気が一変した。


黒い霧が、若い魔女の足元で膨らみ、

制御を失った下級妖精が、苦痛と憎悪の叫びを上げて暴れている。


レヴィは静かに立ち上がった。

指先をわずかに掲げると、空気が――止まる。

音も、風も、燭火の揺らぎさえも、世界が息を潜めた。


低く、静かな声が落ちる。

「……Gaoth, éist liom.(風よ、聴け)」


その瞬間、青白い光がレヴィの足元から立ち上り、

床に古の紋章が描かれる。

風が囁き、彼の周囲を巡りながら形を成した。

光の粒が舞い上がり、レヴィの瞳が淡く蒼く光を宿す。


「――抑えろ。」


低く響く声とともに、風が爆ぜた。

無数の光の紋が宙に浮かび、黒霧が逆流していく。

荒れ狂う闇の奔流は、逆らう間もなく吸い込まれ、

レヴィの掌の中に静か消えた。


静寂。

風だけが、彼の周囲で微かに唸っている。

だがその風には、怒りも冷気もなく――

ただ、主に従う忠実な息吹のような静けさがあった。