百合夜のお薬仕事                                  よしえさんの腰薬 


 ハーブティーの準備が終わると、次は軟膏づくり。

 よしえさんはハーブティーを飲みながら、にこにこと見守っていた。

 やがてカップを飲み干すと、「頼んだよ〜」と帰っていく。


 チンキ棚からラベンダーとローズマリーを選び、レヴィがワセリンを湯煎で溶かす。

 百合夜がチンキをそっと加え、木べらでゆっくり混ぜ合わせた。

 香りが部屋いっぱいに広がり、仕上げにペパーミントのオイルを一滴。


 腰を温めるマッサージ軟膏。

 ワセリンに――

 ラベンダー:鎮痛・抗炎症作用。

 ローズマリー:血行促進。

 ペパーミント:爽快感と鎮痛。


 ミントの清涼感は、痛みをやわらげてくれる。

 冷め始めた軟膏は、まるで冬の月明かりのような艶を帯びていた。


 百合夜は小さく息を整え、母に教わったおまじないを唱える。

 その隣で、レヴィがこっそりと風の癒しの魔法を添えた。

 香りがそっと揺れ、軟膏に優しい気配が宿る。


 「じゃあ、届けてくる」

 レヴィが包みを手に出ていく。


 ――よしえさんの家の戸が開く。

 「あらあら、今日はずいぶんハンサムさんが来たねぇ。百合夜ちゃんの新しい旦那さんかい?」

 「そ、そういう者では……」

 レヴィは顔を赤くしながら、ごにょごにょと言い訳をし、ふぅと息をついて軟膏を手渡した。


 よしえさんはニコニコと、軟膏の缶を大事そうに抱えていた。


 そんな、穏やかな初冬の一日。


 包みを抱えて戻ってきたレヴィに、百合夜が顔を上げて微笑んだ。

 「ありがとう。おかげで助かったわ」


 その言葉が、空気に溶けるように響いた瞬間――

 胸の奥で、何かが静かに揺れた。


 遠い日、誰かの感謝の声。

 今はもう、その姿も忘れそうなほど昔のこと。


 ――“人”は儚い。

 だからこそ、美しい。


 ストーブの赤い光が、静かに揺れている。

 百合夜の笑みが、その炎のようにあたたかく見えた。


 レヴィは小さく息を吐き、目を伏せる。

 「……ああ」

 銀木犀の香が、静かに冬の風に溶けていった。