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いつもと変わらず、静かな夜が更けていく。
百合夜は、ハーブティを淹れていた。
甘く、濃厚な薔薇の香り。
百合夜が薔薇を選ぶのは、珍しい。
百合夜はいつも、何事にも動じない母親だ。
けれど時折、可愛らしく怒り、笑い、
拗ねて、頬を膨らませる。
――その裏に抱えていたものを。
この日、ほんの一瞬だけ、垣間見た気がした。
百合夜は、静かにレヴィの前へカップを置く。
「今日は……ごめんなさい。
取り乱してしまって」
少しだけ間を置き――
「今、この生活が……とても楽しくて……。
ありがとう」
それだけを残し、百合夜は寝室へと消えた。
カップの中、淡く揺れる薔薇の色。
その縁には、小さくスミレの砂糖漬けが添えられている。
温かい心。
つつましい幸福。
――言葉にしない想いが、そこにあった。
ひと口、含む。
やわらかな甘さが、静かにほどけていく。
レヴィはふと、テラスへ視線を向けた。
そこに置かれた、小さな鉢。
ビオラ。
その名札には、大樹の字で――
――レヴィのお花
拙く、けれどまっすぐな文字。
レヴィの口元が、わずかに緩む。
ふらりと訪れた庭。
居心地がよくて、
「出ていく」という選択は、いつの間にか消えていた。
長い移ろいの中で、ほんの少し留まる場所。
気が向けば、またふらりと――
そう思っていた。
けれど。
あの手に、触れてしまった。
力なく震える、小さな手。
泥にまみれて抱え込んでいたのは――
ビオラではない。
――俺自身だった。
その瞬間。
優しい鎖が、確かに、俺を繋ぎとめた。
なのに。
どういうわけか――
縛られることが、心地いい。
ここを出ていく日は、
もう、来なくていい。
できるなら――永遠に。
ここに、留まりたい。
レヴィは、カップの中にスミレを沈め、飲み干した。
甘さが、身体の奥で静かに溶けていった。
https://ameblo.jp/witch-levi/entry-12942795404.html
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