魔女とレヴィ 第2話 霜が降りる頃に
広間を出ると、夜気が肌を撫でた。
背後では、魔女たちの笑い声が遠ざかっていく。
香と魔力が渦を巻いていた熱が、ひと息で冷めていくようだった。
レヴィは胸の奥に手を当てる。
そこにはまだ、微かに残る金の香――シンシアの残り香があった。
あの女の笑み。あの眼差し。
人の心を試すような光。
「くだらない」と吐き捨てたはずの言葉が、
なぜか耳の奥でまだ、形を保っている。
風が鳴る。
その音に導かれるように、庭の方へ足を向けた。
外はもう、冬の匂いだった。
石畳に薄く霜が降り、月光が淡くその上を撫でている。
風が足元でさざめき、花びらを舞い上げる。
レヴィは目を閉じ、囁いた。
「……Gaoth, éist liom.(風よ、聴け)」
淡い光が石の輪を包み、
風の音が旋律へと変わっていく。
月の光が弾け、銀の粒が空へ舞い上がった。
次の瞬間――彼の姿は、風とともに消えた。
*
夜は深く、家は静まり返っていた。
薪ストーブの火が、柔らかく明滅している。
百合夜は毛布にくるまり、うたた寝をしながら揺れる火を見つめていた。
ソファーに座るエルが、静かに本を閉じる。
(……遅いな。)
エルは小さく息をつく。
その瞬間、微かな気配――風の揺らぎに気づいた。
そっと立ち上がり、百合夜を起こさぬように扉を開ける。
夜の庭に出ると、淡い光がふわりと降りてきた。
レヴィ。
風が収まり、彼が姿を現す。
衣の裾には、まだ魔力の残滓がかすかに光っていた。
エルは微笑み、レヴィの肩を軽く叩く。
「……お疲れ。」
言葉はない。
ただ、静かに目が合い――それで十分だった。
レヴィは家の扉を開け、あたたかな灯の中へ戻る。
そこには、眠りの淵でまどろむ百合夜の姿があった。
頬にかかる髪。
炎に照らされ、ゆらめく睫毛。
その一瞬――
レヴィの胸の奥で、遠い名が零れた。
「……リリー……?」
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