魔女とレヴィ 第1話 十六夜の魔法 


残ったのは、風と香りと、息を潜めた静けさだけ。


百合夜は大樹を抱きしめ、胸の鼓動を確かめるように深呼吸した。

レヴィはその姿をちらと見て、静かに目を伏せる。


「……まったく、人間というのは厄介だ。」


その言葉には、冷たさと――どこか微かな温度があった。


レヴィの風が静まり、庭に沈黙が戻った。

百合夜は大樹を抱きしめたまま、しばらく息を整える。


「だいき……どうして、だいきにこんなことを?」


問いかけに、少年は怯えたように唇を噛んだ。

それでも、しばらくして――小さな声で言った。


「もしかして、おまじないしたから、怒ったの?」

「おまじない?」

百合夜が不思議そうに大樹を覗きこむ。


「だって……運動会、雨の予報だったから。

 ママに見てほしくて……晴れにしたかったんだ。

 だから、魔法の本に書いてたおまじないを……」


百合夜は目を見開いた。

「……まさか、あの本を?」


レヴィが低く息を吐く。

「なるほどな。道理で“風の気”が荒れているわけだ。」


大樹をかばうように前に出た百合夜が、小さく首を振る。

「そんな……あれは、ほんの子供のおまじないよ。

 少し風を呼ぶだけの……」


「本来はな。」

レヴィの瞳が一瞬だけ鋭く光る。

「けれど、“願い”が強すぎた。

 その思いに応じた精霊が、力を暴走させたんだ。」


拘束を解かれた風の妖精は、弱々しく宙に漂っていた。

さっきまでの荒々しさはもうなく、ただ痛みを訴えるように小さく身を震わせている。