10月も残りわずかの日を数えるのみとなり、今年も少しずつ押し迫ってきた感がありますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。 これまで拙ブログにお付き合い下さっている方ならすでにご承知だと思いますが、このブログってば、“季節に応じた楽曲を紹介する”とか、いわゆる気の利いた展開になることはまずありません(自爆
)。これは、ひとえに私本人がその手の資質に欠けている(←要するに季節感覚みたいなものに鈍感
ってことですな)せいなのですが
、そんなおポンチ
な私でさえ、徐々に肌寒くなって落ち葉が舞い散る頃になるとちょっとテンションが下がり気味になって、もの寂しい曲の一つでも聴いてみたくなったりなんかするわけですよ
。
そこで、今回は珍しくも季節感を意識しつつ、久々に “お薦めシングルレビュー”(←何と5か月ぶりなんですね)でいってみたいと思います
。’80年代後半のアイドル歌謡“冬の時代”にリリースされた関係で一般的にはほとんど知られていませんが、“その筋(要するにアイドル歌謡マニア)”の間では“名作”と定評のあるこの作品で~す(
)。
「雨に消えたあいつ」(伊藤智恵理)
作詞:戸沢暢美、作曲:岸正之、編曲:新川博
[1987.11.6発売; オリコン最高位22位; 売り上げ枚数2.0万枚]
[歌手メジャー度★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★★★]
伊藤智恵理は1987年にドラマ出演を経て、同年6月にシングル「パラダイス・ウォーカー」で歌手デビューしました。すうっとよく通る伸びのあるヴォーカルが魅力的なコ
で、私は同期デビューの女性アイドル歌手の中ではトップクラスの評価を付けましたっけ…(遠い目
)。同期デビューのメンツは、工藤静香(うしろ髪ひかれ隊)、ゆうゆ、森高千里、酒井法子、渡瀬麻紀(のちにLINDBERGとしてブレイク
)、後藤久美子、立花理佐、BaBe、中村由真、石田ひかり、畠田理恵(将棋の羽生名人の奥様
)、仁藤優子、伊藤美紀…などなど。このうち、アイドルとしてすぐにブレイクしてそれなりに長持ちしたのは、工藤静香とのりピーくらい…
。つまり、伊藤智恵理のデビューした頃というのは、アイドル歌謡そのものが存在意義を問われるほどの危機的状況にあった時代だった
ワケですね。
“智恵理(ちえり)”という名前は本名で、その由来も 4月生まれ → チェリー → “智恵理” ってことで、いかにもアイドルっぽいエピソードも好感度大だったのですが…残念ながら、アイドル(伊藤智恵理名義)としてはシングル7枚とオリジナルアルバム1枚を置き土産に、歌手活動を終えています
(ちなみに彼女は’90年代後半に突如 “Chieri” 名義で歌手活動を再開(←浅香唯(YUI)と同じパターン
)して、熱狂的ファンを喜ばせました
)。
彼女のヴォーカルはとっても素直で正統派。当時、時代を席巻していた“おニャン子クラブ”の毒気に当てられた分も手伝って、「何とか歌手として評価されて欲しい」と、私はかなり肩入れしたものですが、いま冷静に振り返ってみると、彼女のヴォーカルには色気と柔軟性に欠けるという弱点があったのも事実…(うーん、我ながら高レベルな要求だ
)。それでも、デビューのタイミングが不運だった
という確信みたいなものはありますね。ルックスよりも歌唱力が重視された’70年代、もしくはガール・ポップが世間から支持された’90年代に彼女が初お目見えしていたら、かなり違った展開になっていたのではないでしょうか…
さて、それでは作品の紹介に移りたいと思います。まずは、今井美樹や南野陽子のシングルでもその名が知られる戸沢暢美センセによる歌詞が実にイイっ
んですよねー
。密かに想いを寄せる男の子から彼女として見てはもらえず、いじらしく身を引く女の子の様子が何とも切なくて物悲しい
内容なのですが、この情景がまた鮮やかに脳裏に浮かんでくるのです
。この曲をうっかり晩秋の雨の日なんかに聴いてしまって、ついつい歌詞ワールドに引き込まれて感情移入しすぎて涙があふれた
…なーんて“オヤヂ”らしからぬ経験がある(しかも何度も
)のは、まさか私だけじゃないでしょうねぇ
…とまぁそんなこたともかく、秀逸な歌詞を書き下しておきましょう
(♪ December Rain 雨に消えたあいつ
胸に秘めた恋は 最後に白い息に変わる)
(Aメロ) 「誰より友達さ」って 言われて辛かった
やきもちも やけなくなる
(A’) あなたの恋を運ぶ 天使のふりをする
あの娘もね 気にしてると
(Bメロ) 傘を近づけて渡す Phone Number
一字違えて書いた数字が にじんでた
(Cメロ、サビ) ♪ December Rain 雨に消えたあいつ
いつか借りたスタジャン 見送るの
(C’メロ) December Rain 雨が洗う痛み
もっと強く降って今だけ 素直に泣かせて
(Aメロ) みんなといる時には 明るく振る舞うの
帰り道 二人に逢う
(A’) コートの前を開けて ぬくもりを逃がした
涙さえ凍るように
(Bメロ) 駆け寄るあなたと 寄り添ったあの娘
信じられない 何も心は感じない
(Cメロ、サビ) ♪ December Rain 雨に消えたあいつ
通り過ぎた想い 揺らせない
(C’メロ) December Rain 雨が洗う痛み
あの日ついた傷は瞳を もう濡らさないの
(Cメロ、サビ) ♪ December Rain 雨に消えたあいつ
光る時の粒に 消されてく
(C’メロ) December Rain 雨が洗う痛み
胸に秘めた恋は 最後に白い息に変わる
“あの娘との仲を取り持つ”と言いながらも、“電話番号をわざと一字違えて書く”なんて、相手の男の子に対するささやかな抵抗のつもりなのでしょう。いじらしいったらありゃしませんぜ、まったく…。こんな風に一見チグハグに見える行動をあえて重ねることで、複雑な想いの交錯する乙女心を実に見事に表現していると思うんですよね
。
“スタジャン”は、言うまでもなく“スタジアム・ジャンパー”の略称ですが、この和製英語がいかにも“昭和的”なのはご愛敬(そういや1985年リリースの「白いバスケットシューズ」(芳本美代子)の歌詞にも登場しますね)。スタジャン自体は今もあるんでしょうけれど(←コイツはきっとよく分かってないぞ)、近頃はとんと耳にしないもんなぁ…。
2番の歌詞で、どうやら付き合うことになったらしい男の子と“あの娘”を目にしたときの彼女の行動も、あまりに切なすぎます。“涙が凍るようにコートの前を開ける”、“何も心は感じない”というのはつまり、“思考停止”という自己防衛をとらないといけないほど気持ちがつらい(=現実を受け入れることができない)ってことですから…
。ラストの ♪ 胸に秘めた恋は 最後に白い息に変わる… でフェイドアウトする部分も、聴き手の心の奥深くに余韻を残す技あり
の締めで、こりゃちょっと堪えらませんね……じゅるっ(←涙まじりの鼻水をすする音
)。
岸正之センセによる曲の方も、歌詞世界をドラマティックに演出する優れモノなんですよ、これが。曲の構成は、(C’)-A-A’-B-C-C’-A-A’-B-C-C’-C-C’。メジャーコードのベースにマイナー展開を随所に振りかけることで、切なさを巧みに引き出すワザは、いかにも私好みの心憎い手口じゃあーりませんか
。ラストのサビ直前でキーを半音上げる手法は歌謡曲の世界では常套手段ですが、この曲ではその効果が最大限に発揮されて感動的なフィナーレにつながっています(これで、私の目から出てくる涙が少なくとも3割増しにはなってるよなぁ…
)。
イントロ部にサビメロをコーラスで持ってきたのもインパクト効果絶大で上手だし、1番と2番をつなぐドラマティックな間奏(新川博センセのアレンジ)も、じっくりと聴いてほしいポイントですねぇ
…何だかいつにも増して“とっ散らかった”内容のレビューになってしまいましたが、まぁそれだけ私が心を乱された力作だってことでお許しを…
それでは、今回はこの辺で またお逢いしましょう~