【シングルよもやま話 53】 沖縄アイドルの可愛いポップスの影に潜む欧米と日本の間の深いミゾ!? | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 前回の「Moskau」(ジンギスカン)→「めざせモスクワ」(ダーク・ダックス)に続いて、今回も日本人による洋楽カバーってことでいってみましょう。前回のケースをざっと“おさらい”しておくと、“オリジナルバージョンの完成度がとんでもなく高かったせいで、かのダーク・ダックスもオリジナルの出来を超えられなかった…ってなところですかねぇ。で、今回もいつもの私らしく、おポンチな逸品()をご用意しておりますですよ~。では、まずはカバーの方から。


「チャイニーズ ボーイ」(山口由佳乃)
作詞:山本伊織、作曲:Bob Heatlie、編曲:馬飼野康二
[1983.11.1発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
[歌手メジャー度★; 作品メジャー度★; オススメ度★★★]

 


 ちょっと色黒で日本人離れした風貌の沖縄っ娘、山口由佳乃は1983年秋に歌手デビューを果たしました。でも、一部のアイドルマニア以外の方にはほとんど馴染みがないでしょう。彼女はあの松田聖子と同じNHKの音楽番組「レッツゴーヤング」でサンデーズのメンバーだったのですが、松田聖子以降にソロデビューしたサンデーズの女性メンツはことごとく死屍累々…(まともに売れたのは長山洋子くらい)。個人的にはかなり好きなタイプのコで、実家の押し入れを探せばデビューアルバム(言わずと知れたLP盤)が出てくるはず…ですが、当時から正直言って売れないだろうなぁと思ってました(←ひでぇ)。



 それはともかく、新人にカバーを歌わせることに基本的に反対の立場をとる私でさえ、何だかんだ言ってても、
「この『チャイニーズ・ボーイ』って、かなりいーんでないのと思ったんですよねぇ(ぽりぽり)。まず何と言っても、(ある意味とっても“ベタ”なのですが)エキゾチックなメロディが、本人のイメージとよく合ってるのがexcellentそれと、中国人の男の子とのプラトニックな恋模様を綴った歌詞が、いかにも新人アイドルっぽい初々しさで自然体な感じなのも実にイイ。歌の方も飛び抜けて上手じゃないけれど、アイドルポップス向きの可愛らしい声質だなぁと思うんですがいかがでしょうか。


 ♪ あなたは異国の恋人 Wow wow
   私を見つけて手を振る Wow wow
   身振りと瞳(め)で話す あなたが好きです
   真っ赤なスカーフを 私にくれた
   ジャンクに揺られて微笑む He’s a Chinese boy
   ゆらゆら恋する気持ち Oh, my Chinese boy
   Oh, I miss my Chinese boy

 ♪ あなたはのどかに恋する Wow wow
   太極拳など真似てる Wow wow
   片言覚えたら あなたは吹き出す
   何年経ったなら 話せるかしら
   私に優しいあなた He’s a Chinese boy
   このまま愛していてね Oh, my Chinese boy
   Oh, I miss my Chinese boy



 とにもかくにも、新人女性アイドルの売り出し方としては、本田美奈子の「殺意のバカンス」とか伊藤美紀の「小娘ハートブレイク」みたいに、デビュー曲から売り出す側の気合いがビシバシと伝わって来るよりは、少し肩の力が抜けたこっちの方が私としては“好み”
なのです。…ま、実際には、あまりに肩の力が抜け過ぎちゃったせいか、はたまた素材や資質に差があったせいか(多分後者でしょうが)、「チャイニーズ ボーイ」はほとんど売れなかったワケですが…

 ちなみに曲の構成は、A-B-C(サビ)-A-B-C(サビ)-A-B-C(サビ)と、ほとんどヒネりのないオーソドックスなもの。でも、海の向こうのヒット曲ってだいたいこんな感じで、ごちゃごちゃ凝ったものはあまりありません
。’70~’80年代以降の日本の歌謡曲が、いかに複雑な構造をしているかが良く分かろうというものですね。

 それでは、オリジナル作品がどんなもんか見てみましょう。元歌は、イギリスのAnekaという歌手が1981年にリリースした「Japanese Boy」ですね…、っと、ん…
 タイトルに間違いはありません(わざとらしかったですか)。実は、オリジナルの方は全英チャート第1位に輝いたヒット曲ということで、ご存知の方も多いかも知れません。で、これはもうとにかく聴いてもらった方が早いです



 なんすかこりゃ
提灯と思しきセットは一応“Japan”っぽいけど、着物の感じが日本のものとは微妙に違うような…(ってそこかいっ)。だけど、歌っているAnekaも手拍子してる観客も決して、“知っててワザとボケてる”訳ではありません。いたってマジです。要は、欧米人の目には、日本も中国も(そしておそらく韓国も)みんな十把一絡げで同じに見えている…ってことでしょうね。

 そう言えば、確かに思い当たるフシはあります。私も研究者のはしくれとして、欧米にはこれまで仕事で何十回も行っていますが、あちらでテレビを見たり欧米人と会話したりしても、日本や中国のことが本当に驚くくらい話題にならない
んです。たまに登場する日本っぽいモノといえば、スシや豆腐などの食べ物関係か、最近ではせいぜいアニメのことくらい。そんな風に“文化の一端”を表面的になぞるくらいのレベルでは、まぎれもない先進国であるイギリスを以てしても、日本に対する認識が“この程度”なのはまぁ仕方のないことなのでしょう。と同時に、日本人の欧米に対する認識も、おそらく似たような浅っさ~い代物に違いないです。…いやはや、地球って意外と広くて奥深いのねぇ…と、こんな考えに至ってしまうと、小さなことで日々くよくよ思い悩む自分が何だかとっても“小者”に思えてくるから不思議なものですね…(ぶつぶつ)。

 ちなみに、この「Japanese Boy」はさすがに全英1位を獲得した作品だけあって、
2008年にスウェーデンのポップデュオSMiLE.dkが、2009年には同じくスウェーデンの4人組ロックバンドSahara Hotnightsがそれぞれカバーしています。でも、どちらのタイトルも”Chinese Boy”ではなく”Japanese Boy”のままで、大勘違い大会はそのまんま…。むぅ、一歩間違えれば”国辱モノ()“の誤解が完全に解けるには、あと二、三千年くらいはゆうに必要なのかも知れません

 …なぬ、
お前は今回、オリジナルとカバーのどちらを高く評価してるのかですって… そりゃあオリジナルの頓珍漢ぶりに何とも捨てがたい魅力があるのは確かですけどここは正しく軌道修正してハイレベルなアイドルポップスに仕上げて見せてくれたカバーの方に軍配をあげたいと思いまーす

 最後に彼女に関する情報をひとつ。
実は私とは同い年の彼女、現在は「鈴木釉佳之(すずきゆかの)」と改名して、劇団四季で女優さんとして活躍なさってます。最近のお姿は下のYouTubeでどうぞ。アイドル歌手時代の面影がまだまだ残っていて、思わず嬉しくなってしまうのは私だけでしょうか…

 それでは今回はこんなところで
。またお逢いしましょう~