【独偏ベストテン 45-1】 田原俊彦 シングル作品 (6~10位) | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 前回、「独断と偏見によるベストテン」を書いてから、また少し間が空いてしまったので、そろそろ“独偏”を1本やっておきましょう。そういえばここしばらく、独偏で男性歌手を取り上げてませんねぇ…。それと、前回のジューシィ・フルーツってのが、“独偏”で取り上げるにはマイナー過ぎて読者の反応がイマイチだったので、今回の「独偏ベストテン」は、超メジャーな田原俊彦でいってみたいと思います


 田原俊彦(トシちゃん)は、1979年に社会現象を巻き起こすほどの大ヒットとなったテレビドラマ「3年B組金八先生」(その名の通り、金曜の夜八時からの放送でした)に生徒役で出演。ドラマスタート時にはほぼ無名だったにも関わらず、同じくクラスメートとして出演していた近藤真彦(マッチ)、野村義男(ヨッチャン)と共に、悪ガキトリオとしてドラマ人気と足並みを揃えるように人気が急上昇したんですよね。 

 で、これは本当に偶然の話なんですが、このドラマには、トシちゃん達と一緒に、当時中2だった私の隣のクラスの男子(劇団若草所属)が“志岐誠”という学級委員の役で出演していたんです
。その頃から、そういう華やかな世界とはまったく無縁だった私の好奇心は尽きることがなく、学校で休み時間になるたびに屋上にあがっては、彼から楽屋話をあれこれ聞かせてもらうのが楽しみでしたねー(遠い目)。もっとも、話の内容はと言えば、「武田鉄矢が楽屋にエ□本を持ち込むので、女の子達はキャーキャー嫌がってるけど、男の子達には“話の分かるオトナ”ってことで大人気とか、ホントにショーもない話ばっかでしたが…

 あの頃、トシちゃん達が’80年代のアイドルシーンを彩る大スターに化けると分かっていれば、“志岐”くん経由でサインくらいお願いしときゃ良かったなぁ…
 なーんて、今さらこんなこと言ってる私に“先見の明”が全くなかったことだけは、どうやら間違いなさそうです

 閑話休題。あれよあれよという間に月刊「明星」「平凡」などティーン向け雑誌のグラビアを飾る人気者となった彼らは、3人の頭文字を取って“たのきんトリオ”と命名され、一人ずつ順番に歌手デビューしてゆくことになります
。この“たのきん”という呼び名、いま考えるとハッキリ言ってダサい気がしなくもないんですが’80年代っていうのは、この手のノリが意外と無邪気に受け入れられた“平和”な時代だったように思いますねぇ

 “たのきん”のトップバッターとして1980年6月に「哀愁でいと」でソロデビューしたトシちゃんは、デビューから70万枚超えのホームランをかっ飛ばして
、“スーパー”付きの男性アイドルとして名乗りを上げると、1985年におニャン子クラブ旋風が巻き起こるまでの5年間の長きにわたって、松田聖子、近藤真彦、中森明菜などとオリコン1位の熾烈な争奪戦を繰り広げます。トシちゃんが、いわゆる“80年代アイドル黄金期”の屋台骨を支えた第一人者であることに異論のある方は、さすがにいないのではないでしょうか

 トシちゃんのシングルをざっと眺めてみて、最も特徴的で、かつ「すごいなぁ」と私が思うのは、「哀愁でいと」、「グッドラックLOVE」、「悲しみ2(too)ヤング」、「さらば…夏」のような哀愁漂う二枚目路線と、「ブギ浮ぎI LOVE YOU」、「キミに決定!」、「NINJIN娘」のような明るくてちょっと軽薄な二枚目半路線“二刀流”でもって彼がトップアイドルに長く君臨し続けた
という点ですね特に後者の“軽薄路線”は、一歩やり方を間違えると“アイドルの座を陥落”する危険性をはらんでいるだけに、“新たな男性アイドル像”を提示することに成功したトシちゃんの功績は、計り知れないものがあると思います。その後、トシちゃんの後輩であるSMAPは、単なる「男性アイドル」「ジャニーズ」という枠組みを大きく超えて「国民的アイドル」と呼ぶべき存在となりましたが、SMAPがトシちゃんのこしらえた“踏み分け道”の恩恵を受けて今日の人気を獲得していることに関しては、もはや論を俟たないでしょう。

 …さて、相変わらずの長い前置きはこのへんにして、順位の発表に入っていきましょう
。トシちゃんの独偏ベストテンでは、記事を10~6位、5~1位、資料編の3回に分けてお送りする予定です。今回は、10位から6位までの順位を発表しますよん。こんな感じの結果になりましたよ~


第10位 顔に書いた恋愛小説(ロマンス) 【オススメ度★★★】
作詞:三浦徳子、作曲:網倉一也、編曲:馬飼野康二、新田一郎
[1984.8.8発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数25.1万枚]

 独偏ベストテンの第10位に滑り込んだのは、私の最も敬愛するコンポーザーの一人、網倉一也センセ作曲による19作目のシングル「顔に書いた恋愛小説」でした ちなみに、“恋愛小説”と書いて“ロマンス”と読みます。網倉センセがトシちゃんに提供したシングルA面の4曲「悲しみ2(too)ヤング」、「ピエロ」、「誘惑スレスレ」、「顔に書いた恋愛小説」は、すべてアップテンポでマイナー調の哀愁路線作品で、いずれも25万枚以上の大ヒット。トシちゃんはデビュー曲こそ哀愁でいと」でしたが、その後しばらくは軽い路線のシングルが続き、“田原俊彦=哀愁路線”という方程式がファンに定着したのが6作目シングル「悲しみ2(too)ヤング」だったのです。そんな経緯から私は、トシちゃんと網倉センセの相性はほとんど最高だったと言っていいんじゃないかと思っているんですよね~

 曲の構成は、A-B-C(サビ)-A‘-B-C(サビ)-A‘-C(サビ)-A‘。この作品ではやはり、Cメロ(♪ ハートの花束を 放り投げたプールサイド~)で展開される、慎ましくも美しいハモリの部分が魅力
ですね。また、最後のCメロ終盤、♪ 感じているなら 時間よ止まれ の歌詞に続いて無音部分(3分23秒あたりから3~4秒ほど続く)を挿入するというアイデアもなかなか面白いです(さすがに、ラジオで流しても“放送事故”にならない時間に設定されているようです)。



第9位 ごめんよ涙 【オススメ度★★★】
作詞:松井五郎、作曲:都志見隆、編曲:船山基紀
[1989.4.19発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数30.4万枚]

 「教師びんびん物語Ⅱ」の主題歌にして、37作目のシングル「ごめんよ涙」が第9位にランクインしました~。この曲は、「華麗なる賭け」以来、3年8ヶ月ぶり&シングル13作ぶりのオリコン第1位に輝いた、トシちゃんにとっては記念すべき作品です。ここで記憶力のいい方は、「あれっちょうど1年前に「教師びんびん物語」の主題歌として同じくらい売れた「抱きしめてTONIGHT」は…」と思われるでしょうが、意外なことに、あちらは最高位3位。1位取ってないんですよね

 曲の構成は、A-A‘-B-C(サビ)-C’-A-A‘-B-C(サビ)-C’-C(サビ)-C’。曲の方は、リズミカルでハイテンポ、ブラスが響きまくりのラテン系サウンド
オマケにメロディも親しみやすくキャッチーとくれば、これはもう気分の落ち込んだ時に頭の中をカラッポにして聴くと元気になれる“アッパー・ソング”の典型…ってことで、私の大好物なんですよね~。トシちゃんの「抱きしめてTONIGHT」郷ひろみの「誘われてフラメンコ」とんねるずの「炎のエスカルゴ」岩崎宏美の「夏に抱かれて」あたりも、聴いてるとすぐに心も身体も躍動すること請け合い 「ごめんよ涙」と同カテゴリーに入る“熱い”作品と言えましょう



第8位 君に薔薇薔薇・・・という感じ 【オススメ度★★★】
作詞:三浦徳子、作曲:筒美京平、編曲:船山基紀
[1982.1.27発売; オリコン最高位3位; 売り上げ枚数36.5万枚]

 第8位に入ったのは、8作目シングル「君に薔薇薔薇…という感じ」でした~。この作品は、まず何と言ってもタイトルが素晴らしすぎ  「バラバラ」→「薔薇薔薇」という、オヤジギャグ炸裂の言語感覚に翻弄されてついつい見落としがちですが、とても曲のタイトルになりそうにないフレーズ「~という感じ」なんてのを、よくぞトップアイドルのシングルに持ってきたなぁ…と思うんですよね

 トシちゃんのシングル作品は初めて手掛けることになる筒美京平センセの方も、スティービー・ワンダー風のクラビネット(電子式キーボード)がゴキゲンに響く、16ビート・シャッフルの佳曲
を提供。当代随一の人気者への提供作品ということで、聴き手にも気合いが伝わってくるような張り切りぶりです。曲構成をざっくり書くとA-B(サビ)-A-B(サビ)-C-B(サビ)となりますが、ドラマティックで心惹かれるBメロの盛り上がり部分(♪ こんな気持ち 初めてだよ~)とか、アイドルとしてはファンキー度120%なCメロ後半(♪ 君の魅力に 僕は ア・ア・ア・ア 感電してフォーリンラブ~)あたりの秀逸な仕事ぶりが特に目を引く佳曲と言えましょう



第7位 It's BAD 【オススメ度★★★★】
作詞:松本一起、作曲:久保田利伸、編曲:船山基紀
[1985.11.28発売; オリコン最高位4位; 売り上げ枚数11.5万枚]

 独偏ベストテンの第7位に入ったのは、久保田利伸が自らの歌手デビュー前にトシちゃんに提供した24作目のシングル「It’s BAD」でした~ 同じく久保田による前作「華麗なる賭け」は、よりロック色の強いサウンドを前面に押し出した仕上がりで、いかにして“アイドル”の枠から脱皮するかを強く意識した実験的作品でしたが、この「It’s BAD」は、その路線をさらに一歩進めたものと言えるでしょう

 その前年にリリースされた「チャールストンにはまだ早い」や「騎士道」あたりが、むしろサウンドとしては“古め”だった反動もあって、この曲には「非常に目新しいチャレンジでカッコいいじゃないの
という印象を受けましたね~。トシちゃんの持ち味と久保田ワールドの相性もなかなか良く、「また一つ、引き出しを増やした」感じもしましたし。

 ところが、当時右肩下がりにあったトシちゃんのシングル売り上げ枚数は、さらに落ち込む結果に…
新しい試みがセールスの数字に結びつかなかったのは、つくづく残念でした。’80年代半ばの歌謡界と言えば、アイドルとニューミュージックが中心で、演歌やロックの勢力は相対的に低下していた状況にありましたから、久保田の独特なファンキーワールドに対して免疫がなかった(時代が10年早かった)ということでしょうか。

 実際、トシちゃんファンの間でも、「歌詞の意味がなさすぎる
とか、かなりの戸惑いがあったようですが、「この手のブラコン路線の楽曲は、大抵そんなもんだ(歌詞がmeaningfulだと逆にウザい)」としか言いようがないような気も…。歌謡シーンが大きく変化したいま、日本人の耳も受け入れ態勢は十分だと思うので、皆さんにぜひもう一度再評価をお願いしたい作品の一つですね



第6位 さらば・・・夏 【オススメ度★★★★】
作詞:岩谷時子、作曲:Paul Anka、Bobby Goldsboro、編曲:飛澤宏元
[1983.8.12発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数31.9万枚]

 ポール・アンカの書き下ろしによる15作目のシングル「さらば…夏」が、独偏ベストテンの第6位に入りました~。わー、パチパチパチ ジャニーズのアイドルと言えば、古くはフォーリーブスの北公次光GENJIのメンバーのように、バック転などを披露して“運動神経抜群”なことで男性としての(野性的)魅力に訴えるという、やや古典的とも言える路線がありました。これに対して、トシちゃんや少年隊の東山紀之(ヒガシ)などは、洗練されたダンスを披露することで、言わば“王子様”的な人気を博したんですよね。そして、前者と後者を比べると後者の方がちょっとだけ上品(本人がどうこうではなく、単にイメージとしての話です)。人気のあるアイドル像が時代時代によって変遷してゆくことを考えると、トシちゃんやヒガシのようなタイプの男性アイドルの登場は、女性ファンによる需要の変化の“写し絵”、つまり“時代の必然”であったように思えてなりませんねぇ。…で、私がいったい何が言いたいのかと言うと、つまりこの「さらば…夏」は、トシちゃんを“二枚目”とか“王子様”と崇める熱狂的な女性ファンにとっては、これ以上望めないくらいカッコいい(=理想的な)作品に仕上がっている、と思うってことです。

 舞台は夏の終わり。恋人としての別れを迎えた男女。男性の女性への想いと決心が、ひたすら綴られた歌詞となっているのですが、この詞がまた、別れる相手に対して、♪ 美しい夏の日をありがとう お別れのくちづけをしようね~ とか、♪ 僕たちははかなく燃えて 明日への愛へ旅立つ~ とか、“二枚目”じゃなきゃとても口に出すことが許されないようなキザなセリフのオンパレード
なんですよねぇ…(少なくとも私が歌うのはアウトだな)。

 曲の構成は、A-A-B-C(サビ)-A-B-C(サビ)-A-Dメジャーコードとマイナーコードが交互に登場する飽きさせないメロディ展開がお見事
ですし、スローテンポで曲を締めるDメロ(♪ 振り向かずに 前を向いて 僕は行こう~)も、聴き手の心に得も言われぬ余韻を残す秀逸な仕上がりになっていて、思わずうなってしまいます

 ちなみにポール・アンカと言えば、フォーリーブスに書き下ろしたシングル「魅せられし魂」(1976.4.21発売、65位、1.4万枚)があったり、さらに時代を遡って、(シングルではないですが)元祖“ジャニーズ”のメンバーだったあおい輝彦に「あしたこそは」という作品を提供したりしていますいずれの作品も、“カバー”ではなくて“オリジナル曲”というところがミソ。…そう、ポール・アンカとジャニーズの関係って、意外と古かったりするんですよね~



 …それでは、今回の発表はこんなところでおしまい
 皆さんのお好きな作品はランクインしていましたか 次回は、【独偏ベストテン 45-2】 田原俊彦 シングル作品 (1~5位)と題して、いよいよ上位5作品を発表したいと思いますので、どうぞお楽しみに~