【お薦めシングルレビュー 42】 シニカルな中にも卓越したセンスを感じるあの有名バンドの秀作! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 ここしばらく、’90年代の作品を取り上げることがあまりなかったので、前回の「夢を」(東京パフォーマンスドール)に続いて、今回も’90年代の作品をご紹介したいと思います

 正直言って、2000年以降にリリースされた曲で、私が記事を書きたいと思う歌謡作品は非常に少ない
(特にアイドルの歌う曲に安易なカバーが多いのが何よりの証拠)んですが、’90年代にはまだまだ新しい試みや、こちらを「おおっ」と思わせてくれる作品がけっこうあった気がするんですよねぇ(ちょっとだけ遠い目)。…で、今回は、同じ‘90年代の作品でもアイドルでもマニアックでもないこの曲にしてみました~()。


「光の射す方へ」(Mr. Children)
作詞:桜井和寿、作曲:桜井和寿、編曲:小林武史、Mr. Children

[1999.1.13発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数45.6万枚]
[歌手メジャー度★★★★★; 作品メジャー度★★★★★; オススメ度★★★★]

 

 

 


 “ミスチル”と言えば、「イノセントワールド」「Tomorrow never knows」「名もなき歌」あたりの、CMソングやドラマ主題歌としてミリオンセラーを達成した作品群の印象がきっと強いはず…なので、今回取り上げる「光の射す方へ」は、50万枚近く売り上げたオリコン1位作品とはいえ、知っている方は案外と多くはないのではないでしょうか…

 この「光の射す方へ」は、ミスチルの19作目のシングルにして、“毒入り”のアップテンポなハードロックです。上に挙げた“口当たりの良い”ミスチルワールドしか耳にしたことのない皆さんには、彼らの別の一面を知ってもらうのに恰好の作品ではないかと、個人的には思っているんですが、さて如何に。

 ではまず、ちょっと斜に構えた内容がとっつきにくいけれど、刺激的なフレーズが不思議と共感できる歌詞
の方からいってみましょう。


 ♪ 蜘蛛の巣のような 高速の上
   目的地へ5km 渋滞は続いて
   最近エアコンが いかれてきてる
   ポンコツに座って 心拍数が増えた
   社会人になって 重荷を背負って
   思い知らされてらぁ
   母親がいつか 愚痴るように言った
   「夏休みのある 小学校時代に帰りたい」


   夕食に誘った女の 笑顔が下品で
   酔いばかり回った
   身振り手振りが 大げさで
   東洋人の顔して 西洋人のフリしてる
   ストッキングを取って すっぽんぽんにしちゃえば
   同じもんがついてんだ
   面倒くさくなって 送るのもよして
   一人きり情熱を 振り回す バッティングセンター


   僕らは夢見たあげく さまよって
   空振りしては 骨折って
   リハビリしてんだ Wow Wow

   いつの日にか 君に届くならいいな
   心に付けたプロペラ 地球を越えて 光の射す方へ


 ♪ 「電話してから 来てちょうだい」って
   慣れた言い回しで 合鍵をくれんだ
   マスコミが怖いから 結局は
   貯金箱の中に そいつをしまった
   誰を信用して 何に奮闘して
   この先歩けばいい?
   出来レースでもって 勝敗がついたって
   拍手を送るべき winner(勝者)は存在しない


   僕らは夢見るあまり さまよって
   大海原で ただよって
   さぶいぼ立てんだ Wow Wow

   もっとこの僕を 愛して欲しいんだ
   月夜に歌う虫けら 羽を開いて 光の射す方へ


   (jump up to brighter …)
   散らかってる点を 拾い集めて
   真っ直ぐな線で結ぶ 闇を裂いて
   海を泳ぎ渡って 風となり 大地をはう
   限りあるまたとない 永遠を探して
   最短距離で 駆け抜けるよ 光の射す方へ



 “西洋かぶれに対する嫌悪感と嘲笑”を表現するのに、♪ 身振り手振りが大げさで 東洋人の顔して西洋人のフリしてる ストッキングを取ってすっぽんぽんにしちゃえば 同じもんがついてんだ~ というフレーズを持ち出してくるのは実に上手いよなぁ…。ちなみに「同じもんがついている」を過度に忖度して、巷には“この食事に誘った女が実は男だった”とする説もあるようですが、さすがにそれは考えすぎではないかと。ここは「女性なら東洋人だって西洋人だって同じもんがついてる」という解釈でいいんじゃないでしょうかねぇ

 ♪ 出来レースでもって勝敗がついたって 拍手を送るべきwinnerは存在しない あたりの歌詞も、いかにも持って回った“含み”のある表現ですよね。彼らが「イノセントワールド」でレコード大賞を受賞した際に授賞式に出席しなかった(参考:2004年に「Sign」で受賞した際には出席した)、そしてそれまでオファーがあったにも関わらず紅白歌合戦に出たことがない(参考: 初出場は2008年)・・・このあたりと大いに関係がありそうです

 ♪ マスコミが怖いから というフレーズも、思わず苦笑いモンですよねぇ…
。桜井クンの”現在の”奥さんは、言わずと知れた元GIRI・GIRI・GIRDSの吉野公佳ですが、このシングルが出る2年前に彼女と不倫騒動を起こしてマスコミから叩かれたのは記憶に新しいところ。その直後に、ミスチルが約1年間活動休止することになったことが、果たして不倫問題と関係あるのかどうかは定かではありませんが…

 とまぁこんな風に、歌詞のあちこちにシニカルなフレーズが登場するのは、数々のビッグヒットを飛ばしつつもアーティストとして曲り角に差し掛かって悩みを抱えていたミスチル(というより桜井クン)の、当時の境遇と心境が表出した結果と見るべきでしょう
。現に桜井クンは当時、雑誌インタビューで、「『光の射す方へ』という作品は、(自分の)抱えている矛盾に対する和解である」という主旨の発言をしていますから。もっとも、“和解”の結果として、自らの行く先に「光(=希望)」を提示しているのは、何よりの“救い”と言えましょう。そして、“ポンコツ”“すっぽんぽん”“さぶいぼ”などのコミカルなフレーズを散りばめることによって、毒のあるストーリーを中和させることで、重々しい雰囲気にならないように工夫している点に、桜井クンの卓越したセンスを感じるのです。

 次に曲の方ですが、こちらもなかなか見るべき点がありますよ
。トータルで7分近くにわたる曲の構成は、A-B-A-B-C(サビ)-A-B-C(サビ)-D-D’-C-Cと、かなり凝った仕様になっています。冒頭では、パーカッションの後方から小さく響いてくる女性のヴォーカル ♪ Ah~ が実にソウルフルでカッコいいですし、続くギターのイントロがまたシンプルなメロディーラインのくせに歪みまくっていて、これから繰り広げられる“毒入りワールド”に相応しい前フリになっているんですよね。

 2度目のサビを終えると、曲全体がトーンダウンして間奏に突入します。よく耳を澄ますと、フィルターを通した桜井クンの幻想的なヴォーカルがだんだん重なってきて、これにギターのアルペジオが高音で絡んで徐々にフェイドアウト…。厳めしくてとっつきの悪い“ご面相”をしたこの作品ですが、最後は聴き手に心地よい余韻を残して立ち去るところなんざぁ、なかなか心憎いテクニック
じゃあ~りませんか。桜井クンが一流アーティストとしての“才能”と“風格”を見せつけてくれた秀作として、手放しで高く評価したい作品なのであります。

 それでは、今回はこんなところで またお逢いしましょう~