ある歌謡曲を聴いて、「はは~ん、これはきっとあの人が書いた曲だな」と思ったこと、皆さんはありますか… 私はけっこう頻繁にありますね。吉田拓郎、中島みゆき、松任谷由実、竹内まりや、尾崎亜美・・・このあたりのメンツの作品は、それぞれ独特の“味”があって分かりやすい(=当たりやすい)。だけど“職業作家”的な要素の強いコンポーザーだと、予想がなかなか当たらないんですよね~、これが。
今回ご紹介する作品のコンポーザーのセンセがまさにそのパターン。つまり、私がよく“予想を外す”お方なのです。その瞬間の私の気持ちを言葉にすると、「え~、ビックリあの人の作風に似せたパターンの曲も書けるなんて・・・スゴい」ってな感じでしょうか。この作品なのですが()。
「彼と…」(三善英史)
作詞:阿久悠、作曲:三木たかし、編曲:三木たかし
[1974.3.10発売; オリコン最高位26位; 売り上げ枚数9.4万枚]
[歌手メジャー度★★★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★★]
三善英史といえば、1972年にリリースしたデビュー曲「雨」がいきなり大ヒット(1972.5.25発売、オリコン最高位2位、売り上げ枚数58.8万枚)したので、ご存知の方も多いでしょう。ちなみに、作詞は千家和也センセ、作曲は浜圭介センセでした。 この曲のヒット当時、まだ小学校1年生だった私にとって、三善英史との出逢いはかなりセンセーショナルな出来事だったんですよね。男性には似つかわしくない線の細い歌声にまず驚いたというのもあるし、それまで耳にしていた“演歌”とはひと味もふた味も違った“純和風”の叙情性が心にじーんとしみ入る感覚を体験したのも生まれて初めてのことでしたから・・・。
「雨」を聴くとすぐ頭の中に京都の雨の風景が浮かんでくるのは作曲者の浜圭介センセの手腕ですし、従来の“演歌”の枠には収まらない独創的なメロディ(特に、冒頭の ♪ 雨に濡れながら~ のメロディラインが非凡)も天晴れというほかないですよね でもやはり、この「雨」という作品が、母性本能をくすぐるような甘い歌声と甘いマスクを持つ三善英史と“ベストマッチ”だった点が、この曲が大ヒットした最大の要因だったのではないかと私は思います。
・・・閑話休題。今回取り上げる「彼と…」の話に戻りましょう。 幼少時に名作「雨」によって強烈な印象を受けた私は、それからだいぶ後になって(’80年代に入って)から、三善英史の7作目シングル「彼と…」を聴くことになるのですが、これがまた「雨」のイメージを髣髴とさせる、実に切なくて心に沁みる佳曲なんですよ・・・。さっそく皆さんにも聴いて戴きましょう。
で、この曲、私はずっと浜圭介センセの作品だと信じて疑わなかったのです。ところがつい先日、実は三木たかしセンセの手によるものだと知って、目からウロコが落ちまくったというわけ。「雨」と「彼と…」を聴き比べてみると、作品の舞台こそ違えど(「彼と…」の舞台は町はずれのアパートテーマに「同棲」を扱っているのがいかにもリリース当時の世相を反映してますよね)、三善英史のハイトーンの聴かせどころをしっかり盛り込んでいたり、あるいは彼の透明感のある線の細い声を生かした作品に仕上がっていたりと、共通点がいっぱい(でも、単なる猿マネ作品にとどまっていないのはさすが)。どう考えても、三木センセが「雨」を意識して「彼と…」を作ったことは明らかなのです。う~む、歌い手の特徴に合わせて自由自在な作風を紡ぎ出す三木センセの“職人ワザ”には思わず脱帽ですよねぇ・・・。
♪ たそがれが あの窓に下りてきて
カーテンをむらさきに 染めている
坂道のあたりまで 出迎えに
行こうかと手を休め ふと思う
彼と 暮らしてるこの部屋で
いつかは 泣く日が来るだろうか
カタカタとサンダルを 踏み鳴らし
バスが着く時間見て 走り出す
♪ 街の灯を 肩寄せて見ていたら
「この人は何だろう」と 感じるの
一年が過ぎたのに まだ彼は
誰にでも妹だと 話してる
彼と 暮らしてるこの部屋で
いつかは 泣く日が来るだろうか
ポロポロと訳もなく 泣けてくる
幸せで頼りない 夜更け頃
この「彼と…」は、タイトルから分かるとおり、一緒に暮らす男性との微妙な関係を不安に感じる女性の心情を歌った作品で、歌詞は阿久悠センセの手によるもの。注意深く詞を見てみると、「手を休め」という短いフレーズ1つでそれまで何か家事をやっていたことを暗示したり、「幸せで頼りない」という必要最小限のフレーズを組み合わせて女性の複雑な心情を表現したり・・・と、職業作家ならではのテクが散らばってます。個人的には、「(同棲して)一年が過ぎたのに、まだ誰にでも『こいつは妹だ』と話すような男なんか不誠実なヤローだからやめときなさい」・・・と思わなくもありませんが、まぁ、歌の世界の話ですからねぇ。
そんなこんなで、今回は私が最近ヘビーローテーションで聴きまくっているお気に入り作品をお送りしましたが、この辺でおしまい。それでは、またお逢いしましょう~