それではさっそく本編に入りましょう。今回ご登場願うコンポーザーは、尾崎亜美です。尾崎女史とその仕事に関しては、私の尊敬する歌謡曲ライターのhama-P師匠(濱口英樹さん)が、昨年末に発売されたばかりの「日本の女性シンガー・ソングライター」(シンコーミュージック・エンターテインメント)にばっちり書いておられるので、今さら私が・・・という気もするのですが、特に’80年代のアイドル歌謡を語る上で、やはりどうしても尾崎亜美の仕事を避けて通るわけにはいきません。僭越ながら、1リスナー(素人)としてここに駄文を書き散らかしてみたいと思います。
‘80年代に女性アイドルに多数の作品を提供した代表的な女性シンガー・ソングライターと言えば、松任谷由実、中島みゆき、竹内まりや、尾崎亜美の4人ということになります。こうやって並べてみると、“自らシングル・ヒット作品を出しているか”という点に関連して、尾崎亜美女史はどうしても知名度で見劣りしてしまう(言葉は悪いですが“格下”感とでもいえばいいのでしょうか・・・)のですが、いわゆる“守ってあげたい”型の女性アイドル(’80年代はこのタイプが多かった)との親和性という意味では、それはもう抜群のものがありましたね(竹内まりやも非常にイイ線いっていたのですが、いかんせん尾崎女史が素晴らし過ぎました)。
一般的な傾向として、女性は「“ヒロイン(お姫さま)”として大切にされたい」という想いが強い(アイドルならばなおさら)ですから、そうした願望を満たしてくれる、メルヘンチックでフェミニン指数の極めて高い尾崎亜美ワールドが、多くの女性アイドルに歓迎されたのはごく自然なことだったと思います。そしてまた、その女性アイドルを応援する男性ファンの方でも、尾崎ワールドに身を委ねて女心をケナゲに歌い上げるそのコに惚れ直す・・・という、まさに“アイドル歌謡の本質”を体現するような理想的な構図が成立していたんですね。
そんなこんなで、「尾崎亜美は、’80年代の女性アイドルシーンを最も楽しく彩ってくれた女性コンポーザーだと言ってしまって過言ではない」と、私なんぞは考えているワケです。
さて、いよいよ順位の発表に移りますが、今回も尾崎亜美女史が他人に提供したA面シングルのみを対象として独偏ベストテンを選んでみました。また、ランキングがバラエティに富むように、同一アーティストが歌った作品は一曲のみ、同一楽曲を複数のアーティストが歌っている場合には一アーティストのみと制限を付けたのも、いつも通りです。その結果、今回もランキング上位が甲乙つけがたい作品のオンパレードとなりました。よって、記事の方も、6~10位、1~5位、資料編の3回にわたってお送りしたいと思いますので、しばしお付き合い下さいね。
・・・では、第10位から第6位までにランクインした作品を一気にどうぞ~
第10位 パステル・ラブ (金井夕子) 【オススメ度★★★】
作詞:尾崎亜美、作曲:尾崎亜美、編曲:船山基紀
[1978.6.25発売; オリコン最高位35位; 売り上げ枚数5.7万枚]
独偏ベストテンの第10位に食いこんだのは、尾崎亜美女史の初期作品にして金井夕子の記念すべきデビュー曲「パステル・ラブ」でした~ 若い頃の失恋を機にもう二度と恋はしないと思っていた女性が新しく芽ばえた淡い恋心を歌いあげた歌詞と、ゆったりと流れる感じを基調に、ところどころに弾むようなリズムで恋心をうまく表現したメロディ・・・この両者が非常に良くマッチした佳曲だと思います。「パステル・ラブ」という、あたたかい感じの比喩的タイトルの付け方も、実にうまいですしね。
この曲は後に85年組の松本典子もカバーしているのですが、歌詞の内容を考えると、ウェットな声質&歌唱法の松本典子よりも、ややドライながらもクセのない歌い方の金井夕子の方が良く似合っていたように思います。金井夕子は4年ほどで歌手生活にピリオドを打って作詞家に転向してしまいましたが、個人的にはもっと長く歌手を続けて欲しかった歌い手さんの一人でしたねぇ・・・。
第9位 夢追いスナイパー (上田浩恵) 【オススメ度★★★】
作詞:夏目純、作曲:尾崎亜美、編曲:松任谷正隆
[1987.3.21発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
第9位にランクインしたのは、ダイハツ「リーザ」のCMソングとして知られる「夢追いスナイパー」でした~ 尾崎亜美としてはかなり珍しい“非アイドル”に提供した作品でもありますね。リアルタイムでEP盤レコードを購入したのが懐かしいなぁ・・・(遠い目)。歌っている上田浩恵は、声にハリと伸びがあって表現力も兼ね備えた“実力派”でしたし、何よりもデビューシングルから3作目までが尾崎亜美のオリジナル作品という恵まれたスタートだったので、大いに活躍が期待されていたホープでしたが、残念ながらブレイクならず。
この作品はシティポップ的なアプローチでドライな仕上がりになっていますが、注意深く聴くとメロディラインが“いかにも尾崎亜美的”であることが分かるはずです(どことなく「天使のウィンク」を髣髴させるモチーフが登場するところとか)。将来への希望と無限の広がりを感じさせてくれる爽やかな佳曲で、”流行”に流されることなくかっちりと確立した尾崎ワールドの”抜群の安定感”にはただただ驚かされるばかりなのです。
第8位 天使のウインク (松田聖子) 【オススメ度★★★】
作詞:尾崎亜美、作曲:尾崎亜美、編曲:大村雅朗
[1985.1.30発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数41.4万枚]
言わずと知れた松田聖子の20作目シングル「天使のウィンク」が、第8位に入りました~。この「天使のウィンク」は、尾崎女史にとって松田聖子に提供した初のシングルA面作品なのですが、デビュー当初から錚錚たるニューミュージック系同業者(大瀧詠一、財津和夫、松任谷由実、細野晴臣、佐野元春など)がハイレベルなシングル作品を松田聖子に次々と提供してきたという経緯によるプレッシャーをまるで感じさせない、尾崎女史の堂々たる仕事ぶりがお見事でしたね。
日本人の心の琴線にふれまくりのバラード調のイントロから一転、心地良いスピードとドライブ感で曲全体をぐいぐいと佳境に持ち込んでゆく尾崎女史の作曲テクには、思わず脱帽してしまいます。もはや“お約束”的なコード展開とはいえ、(私も含めて)日本人は“水戸黄門”的な予定調和が大好きだからなぁ・・・。大村雅朗センセによる打ち込み多用の派手派手なアレンジも、作品全体の華やかさに一層花を添えていてgood。一方で歌詞に関しては、「“天使”をテーマとしたメルヘンチックなエピソード」という以外には、いくつかヒントめいたキーワードがちりばめられているだけで、具体的な物語が読み取りにくい難しい内容になっているのがやや不可解なところ・・・でしょうか。
まぁしかし、この作品を聴くにつけ、尾崎亜美という人はモチーフの提示の仕方とそれに見合った“落としどころ”メロディの選択が実に上手い人だなぁとつくづく思うんですよね。
第7位 シャイネス・ボーイ (松本伊代) 【オススメ度★★★★】
作詞:尾崎亜美、作曲:尾崎亜美、編曲:小林信吾
[1984.9.21発売; オリコン最高位24位; 売り上げ枚数4.4万枚]
第7位には、松本伊代の12作目シングル「シャイネス・ボーイ」がランクインしました~。尾崎亜美にとって、松本伊代は“自分以外でシングルA面を最も数多く提供した(4作品)アーティスト”なのですが、イメチェンを賭けた彼女の起死回生の一作となった9作目シングル「時に愛は」、その延長上にある11作目シングル「流れ星が好き」、シャッフルビートが軽快で彼女のイメージにぴったりだった10作目シングル「恋のKnow-How」・・・、どれも本当に秀作揃いで、(私が自ら課した枷(かせ)とは言え、)一曲に絞るのが非常に厳しかったですねぇ。
で、この「シャイネス・ボーイ」は、尾崎亜美にしては珍しくフェミニン指数が極めて低くて”ハード”な曲調なのが、まず興味深いところです。2作前の「恋のKnow-How」も、尾崎女史が他のアーティストに提供した作品にはちょっと見られない作風だったことを考えると、おそらく尾崎女史は松本伊代にインスパイアされて、自己のコンポーザーとしての守備範囲をどんどん拡大していったのではないかなと。尾崎亜美がコンポーザーとして一流ならば、無意識のうちに女史をそのように仕向けた松本伊代もアイドルとして一流だよなぁ・・・と私は思うんですよね。そして、こうした“組み合わせの妙で生じる新たな化学変化”を堪能できるところが、昭和歌謡を聴く醍醐味と言えるのではないでしょうか。
詞の方では、積極的な彼女とシャイな彼氏とのやりとりが、実に微笑ましくていいんですよネ アプローチをするりと躱(かわ)す彼氏に対する彼女のウィスパー・ヴォイス 「は・や・く・お・と・な・に・な・っ・て・・・」の部分も、当時としては斬新な処理で感心したのですが、何と言っても、うろたえた彼の声にならない一言「す・・・」が、こちらの想像力をかき立てる仕掛けになっているのが良かったです(とは言え、正解のセリフは明白なんですけどね)。私なんぞは、当時大学浪人中だったにもかかわらず、該当部分を何度も何度も再生して、何て言ってるのか必死に聴き取ろうとしたものです(←浪人生がいったい何やってんだ)。
第6位 素敵な休日 (堀ちえみ) 【オススメ度★★★★】
作詞:夏目純、作曲:尾崎亜美、編曲:奥慶一
[1986.10.21発売; オリコン最高位29位; 売り上げ枚数1.1万枚]
第6位に入ったのは、堀ちえみの20作目シングル「素敵な休日」でした。堀ちえみといえば、あの“ルックス”と“キャラクター”に加えて、“ミルキーヴォイス”がアイドルとしての強力な武器だったと思うのですが、16作目シングル「青春の忘れ物」あたりから喉を痛めてすっかり“ハスキー”に変貌してしまい、ファン離れに加速がついてしまった感があります。17~19作目の「夢千秒」、「ジャックナイフの夏」、「夏咲き娘」は、いずれも地味ながらも個人的には好きな作品が多かったのですが、歌番組で苦しそうに歌う彼女の姿は痛々しくて、ちょっと見ていられないものがありました・・・。
そこへきて、この「素敵な休日」・・・かなりの堀ちえみファンだった私は嬉しかったですねぇ。何と言っても、彼女自身が好きだったオードリー・ヘップバーンをイメージして作ってもらったという夏目純センセの歌詞が素敵でしたし、尾崎亜美女史によるメロディの方も、いつもの“尾崎節”とはまたひと味違った新機軸のモチーフが次々と展開される上々の出来 テレビで歌うときの衣装もアンティーク調の落ち着いた雰囲気で当時の彼女に良く似合ってましたし、私にとっては久しぶりに可愛らしいアイドル“堀ちえみ”に再会できたような気分を味あわせてくれた想い出深い作品なのです。
・・・それでは、今回はこんなところでおしまい 次回は、「【独偏ベストテン 39-2】 尾崎亜美作曲シングル作品 (1~5位)」と銘打って、いよいよ上位5作を発表しますので、どうぞお楽しみに。それでは、またお逢いしましょう~