今年も相変わらず、手前勝手な内容の歌謡曲関連記事を書き散らしてゆく所存ですので(←おい、完全に開き直ってるぞ~)、皆さんどうぞよろしくお願い申し上げますm(_ _ )m。
さて、今年一発目の題材はこれで行きたいと思いまーす()。
「日記『ポチと鶏(にわとり)』」(榊みちこ)
作詞:宋一二三、作曲:萩田光雄、編曲:萩田光雄
[1980.2.21発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
[歌手メジャー度★; 作品メジャー度★; オススメ度★★]
正月早々、”ど”の付くくらいマイナーな作品でどうもすいません。でもこの年末年始にかけて、私はこの曲(特に歌詞)のことがどうも気になって仕方なくってねぇ 結局、年末から正月にかけて一番多く聴いてしまった(←そんなヤツぁほぼ間違いなく日本中で私だけでしょう)作品ってことで、どうぞご理解のほどを・・・m(u_u)m。
とみに、榊みちこという歌手はご存知でしょうか・・・ もともとは20歳のときに田中美智子名義でベンチャーズ作曲のシングル「ひまわり君」(1976.7.5発売)でデビュー。続く2曲目の叙情派歌謡「北へ向かって」(1977.8.5発売)は三木たかしセンセ作曲の佳曲でしたが、思うようにセールスに結びつかずシングル2曲で早々と榊みちこに改名しています。出直し1&2作目の「スパイラル・ワールド」(1978.8.21発売)、「I. I. YO, I. I. YO.(いいよ、いいよ)」(1979.1.21発売)はいずれも宇崎竜童の作曲作品で、ちょっと山口百恵テイスト入ってましたね。当時の歌謡曲としては硬質なテクノ系ニューウェーブサウンドが斬新でしたがこちらも売れず・・・。結局、今回ご紹介する「日記『ポチと鶏(にわとり)』」が、残念ながら歌手としてのラストシングルとなってしまいました。
美醜の観点から言えば榊さんは結構な美人さんだったように思いますし、シングルの作家陣にもかなり恵まれていたはずなんですが・・・。アイドル歌手として売るにはデビュー年齢が高かったせいか、やはり曲のイメージが二転三転してしまって、着地点をうまく見い出せなかったのが痛かったですね。それと、シングルのリリース間隔(どういうわけか年一回のペース)が空きすぎたのも、あまり良くなかったような。
そういえば、以前このブログでも記事を書いた大橋恵里子と同じく、彼女も「鶴光のオールナイトニッポン」のアシスタントとして、鶴光の下ネタ攻撃に晒されまくってました。番組の中で、鶴光から”びっくりねぇちゃん”なんつーあだ名を付けられるくらいの極度の”恐がり”で、鶴光の怪談話を喰らってラジオの本番中によくベソかいてたのを思い出します。この番組が榊さんの知名度を上げるのに一役買ったことは間違いないのですが、彼女の歌手活動にはむしろマイナスに作用してしまったような気がしますね。
結局、1980年に歌手活動にピリオドを打った彼女は、活動の軸足を女優にシフトした後に作詞家に転向。見事に「もしかしてPART II」(小林幸子+美樹克彦)(1984.7.10発売、オリコン最高位11位、売り上げ枚数29.9万枚)というスマッシュ・ヒットを放っています(彼女は一時期、美樹克彦さんと夫婦関係だったこともありました)。この”歌手から作詞家に転向して花開いたパターン”は、古くは西野バレエ団出身の江美早苗(作詞家としてのクレジットは中里綴)、スタ誕出身の篠塚満由美(同、しのづかまゆみ)あたりと一緒ですが、歌手として必ずしも大成しなくても作詞家としてヒット曲が出せれば大したもの 不遇時代の彼女を知っている私としては、ホントに良かったなぁと思うんですよねぇ。
さてっと。彼女自身の話がすっかり長くなってしまいましたが、そろそろ作品の紹介に移らないと・・・。まず目を惹くのは風変わりなタイトルですね。そもそも日記「~」というシングルのタイトル様式が珍しいですし、ポチと鶏(にわとり)の関係性もさっぱり分かりません。でも、歌詞をちゃんと聴けば、「なるほどそういうことか・・・」ときっと分かってもらえるはずです。ってな訳で、歌詞をちょっと書き下してみましょうか。
♪ 耳を澄ませると いつの間にか雨
庭でポチの声 甘ったれて震えてる なぜなの?
今日は嬉しい日 学校終わって
あの人に逢う 打ち明けられた
聞こえていたのにわざと 分からないふりしてみた
幸せが近すぎて目がくらむ 春の陽射しが濃い
愛という文字見つめて ウェディング姿を想う
18になればすぐ プロポーズされる
今日は日曜日 小さな車で 一日だけの二人の旅行
夏の海青く 駆け抜ける渚 笑う歯も白い 別れの長いキス
♪ 落ち葉が舞い散る いつものバス停
いつもの時刻に あの人の姿がない なぜなの?
ある朝ジョギング 私は見かけた
セーター着てる 綺麗な女性(ひと)を
いつかあの人にあげた 私が編んだセーター
立ち止まる 走れない 突然に ポチが吠え続けた
聖書の中のペテロが イエスを裏切った朝
その時も鶏(にわとり)が 鳴いていたという
家に駆け戻る 顔を伏せながら 悲しいくせに 涙が出ない
あれは夏の夢 駆け抜ける渚 笑う歯も白い 別れの長いキス
♪ 聖書の中のペテロが イエスを裏切った朝
その時も鶏(にわとり)が 鳴いていたという
微笑み浮かべて 日記を見つめる それは過ぎた日 18の恋
もうお分かりですよね。相手の男が心変わりで自分を裏切ったことを、聖書に登場する”ペテロの裏切り”と重ね合わせているのです。ポチと鶏(ニワトリ)の間に成立する謎も、これで氷解しました。だけど(元)彼女からもらったセーターを別の女にやっちゃうなんて、男の方はかなりひどいヤツだよなぁ。
それにしても、なんてシュールで不可思議な世界なんでしょうか。この作品の主人公である女性は、最初の方の歌詞からはフツーの”夢見る夢子さん”(←死語)かと思ったらとんでもない 未だに精神年齢がガキレベルの私なんぞは、とても18歳とは思えないほどの彼女の冷静な所作に思わず驚いてしまいますねぇ。さらに当時の日記を見て懐かしながら微笑む”その後”の彼女は、もう人生のすべてを達観しているかのよう。
淡々と進む物語の映像が、まるで連続スナップ写真のように次から次へと頭に浮かんでくるのは、”日記の記述”を意識した書きぶりによるものでしょうね。ミステリー小説で言う、ちょっとした”メタ構造”になっていて、非常に面白いと思います。
萩田光雄センセが書いた曲の方も”ひとクセ”ありますよ~。萩田センセはアレンジャーとして有名な方ですが、アイドルを中心にシングル曲もけっこう書いているんですよね。中でも、桜田淳子の「サンタモニカの風」(1979.2.25発売、24位、12.3万枚)や、南野陽子の「秋の Indication」(1987.9.23発売、1位、18.9万枚)、「あなたを愛したい」(1988.6.18発売、1位、25.5万枚)あたりはきっとご存知の方も多いのではないでしょうか それ以外にも、「エトセトラ」(大場久美子)、「初恋にさよなら」(ザ・リリーズ)、「地下鉄ファンタジア」(キューピット)、「化石の荒野」(しばたはつみ)のように、萩田センセの作曲する作品は、コード進行が自由自在に変化する凝った(ドラマティックな)曲調のものが多いのが特徴と言えるでしょう。
この「日記『ポチと鶏』」で、萩田センセのそうした作風が如実に現われているのが、♪ 夏の海青く 駆け抜ける渚 笑う歯も白い 別れの長いキス の部分のメロディではないかな、と。描かれている情景はこれ以上ないほど爽やかなはずなのに、あえて不協和音の混じった座りの悪いコード進行を使うことで、”非現実感(=想い出)”と、”不穏な雰囲気(=破局の示唆)”を同時に醸し出すことに成功しているんですよね。
・・・さて、今日のところはこんなところでおしまい。それではまたお逢いしましょう