【シングルよもやま話 13】 日本人であれば誰でも知っている偉大なスタンダード・ナンバー! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 いまさら私がわざわざ書くまでもなく、「ヒットチャートで1位を獲得する」というのは、たやすいことではありません。この難しさは、単に“楽曲の良さ”だけではやはりダメで、“歌手本人の魅力(歌唱力、ルックス、カリスマ性など・・・)”、“タイアップ状況”、“事務所やレコード会社のバックアップ”、“発売のタイミング”、そして案外と見逃せないのが“運”・・・、こういった様々な要素が複雑に絡みあった結果の産物である・・・という辺りに潜んでいるように思います

 しかし、ちょっと目先を変えてみると、次のような言い方もできますよね。
「この世にヒットチャート(ここではオリコンやビルボードを想定)がある限り、1位になる歌は必ず存在する。」
 ・・・要するに、チャート1位だの10位だの言っても、あくまでその時どきにおける相対的な指標に過ぎないということ。言い換えれば、例えばボクシングのように“トップの座が空位”ということがあり得ない分だけ「ハードルは低い」ってことです


 ・・・となると、「ヒットチャート1位」よりも達成するのが難しくて、価値も高いコト・・・なんてものが別にありそうです
。おそらく答えは複数考えられるでしょう。そして、「(ある年齢以上の)日本人であれば誰でも知っている歌」というものも、その答えの一つではないかと私は思うのです

 さて、長い前置きはこのくらいにしておいて、と
。今回はそんな歌を代表する“スタンダード・ナンバー”として人気がある、チェリッシュの「てんとう虫のサンバ」を取り上げたいと思います

「てんとう虫のサンバ」(チェリッシュ)
作詞:さいとう大三、作曲:馬飼野俊一、編曲:馬飼野俊一

[1973.7.5発売; オリコン最高位5位; 売り上げ枚数40.0万枚]
[歌手メジャー度★★★★; 作品メジャー度★★★★★; オススメ度★★★]

てんとう虫のサンバ

 「てんとう虫のサンバ」といえば、チェリッシュの最も知られているヒット曲であり、また、安室奈美恵CAN YOU CELEBRATE?」が登場するまで、結婚披露宴で歌われる定番ソングの座に長らく君臨していた、“超”のつくほどメジャーな歌ですよね。ところが発売当時はそこまで爆発に売れたわけでもないし、ましてやオリコン1位すら獲得していません。リリース後に楽曲と歌唱の良さが評価されて、数年~数十年かけてじわじわと浸透していった作品です。年齢で言えば、(ごく僅かな例外はあるとしても、)だいたい45才より歳が上の日本人でこの歌を知らない人はまずいないと言っていいのではないでしょうか

 それにしても、「(ある年齢以上の)日本人であれば誰でも知っている歌」だというのは、とんでもなく凄いことですよ
。例えば今から30年後の日本で、平成以降に発売された作品のうち一体何作がそういう状況にあるだろうか・・・(残念ながら一作もないでしょう)ということを考えてみれば、その“偉大さ”が想像できるというもの。歌謡曲が全盛だった昭和時代を眺めてみたって、そうした歌はありそうで意外とないのですから・・・

 チェリッシュは1968年に男性4人で結成されましたが、1970年に女性1人を迎えてその翌年に、
5人編成のフォークグループとして「なのにあなたは京都へ行くの」でデビューしました。そう、最初は2人ではなかったんですね。デビュー曲「なのに・・・」は、「メンバーの一人(藤田哲朗)がシャレで作ったものだから」と、リーダーの松崎好孝がシングル化に猛反対したり、「ファルセットなんか売れるわけない」とレコード会社内の編成会議で却下されたりと数々の困難が立ちはだかったのを、担当ディレクターの尽力で何とかリリースにこぎ着けたという曰く付きの代物でしたが、結果としてはオリコン最高位13位、売り上げ枚数19.6万枚と、デビュー曲としては幸先の良いヒットとなっています

 ところがセールスの好調ぶりを尻目に、その後もメンバー同士の間で音楽的な方向性をめぐって対立が続き、2作目シングル「だから私は北国へ」
(最高17位、13.2万枚)の発売直前には、5人のメンバーのうち2人が交代。3作目シングル「ひまわりの小径」(3位、41.2万枚)の発売直前にも内紛が勃発して、ついに3人が脱退。その後は松崎好孝と、“紅一点”の松井悦子(えっちゃん、1977年に結婚により松崎姓となる)のデュエットとして再スタートすることに・・・そんな厳しい状況の中、デュエットになってからも、「若草の髪かざり」(7位、28.7万枚)、「避暑地の恋」(3位、33.1万枚)・・・と着実にヒットを重ねて、1973年7月、ついに7作目のシングルにして国民的大ヒット曲「てんとう虫のサンバ」が“臨時発売”されることになります

 ここまでで、「えっ?そんな紆余曲折があったの・・・?」と驚かれた皆さんは、おそらく「てんとう虫のサンバ」のヒットで初めてチェリッシュを知った方ですよね(実は私も”すったもんだ”を知ったのは大学生の頃でした)。「てんとう虫の・・・」の明るいイメージや松崎夫妻の仲睦まじい様子とは、およそかけ離れたエピソードですからねぇ


 また、「チェリッシュって、そんなにヒット曲が沢山あったんだ・・・」と思った方も、アラフォー世代以下には結構いそうです。「てんとう虫・・・」に続いてヒットした8作目のシングル「白いギター」(5位、39.6万枚)もそうですが、チェリッシュの真骨頂は、”えっちゃん”のつややかで切なさを湛えたヴォーカルがマイナーコードのメロディーを哀愁たっぷりと謳いあげる点にあるので、まずは、3作目「ひまわりの小径」から9作目「恋の風車」までの7作品あたりからお聴きになってはいかがでしょうか

 そして、「・・・ん?臨時発売ってどういうこと・・・?」と反応された少数派
の皆さん、どうもありがとうございます。実はこの曲、もともとシングル曲として書かれた歌ではなく、アルバムの中の「捨て曲」(バリエーションをつけるための添え物的な歌、といった意味)として作られたものだったんですね。ところが、アルバムの一作として収められたこの曲が、ラジオで取り上げられたことをきっかけに人気に火がついて、急きょシングルカットされることに。またたく間に、老若男女問わず幅広く人気を獲得する大ヒット曲になったというわけです

 最後に、「『サンバ』といえばやっぱり『白い蝶のサンバ』だろう・・・
」と思った方は・・・ちょっと歌謡曲マニア入ってませんか・・・。勘が鋭いです。当時、チェリッシュのアルバムを担当していたディレクターが馬飼野俊一センセに曲を依頼する際に、「森山加代子の『白い蝶のサンバ』のような楽しい曲をぜひ!」と注文を付けているのです。メロディーこそ似ていないものの、両曲の明るく楽しい雰囲気は相通じるものがありますもんね

 それでは、今回の記事はここまで。またお逢いしましょう~