それではさっそく行ってみましょうか。
1990年代に、テレビ東京系「ASAYAN」の人気コーナー「コムロギャルソン」(←このネーミングはしょっぱいなぁ)に出場したことをきっかけに、“比較的実力のある女性ヴォーカル”としてデビューした天方直実。今回取り上げるのは、彼女の5枚目のシングルに当たる作品です。
「ZUTTO ZUuTTO」(天方直実)
作詞:天方直実/前田たかひろ、作曲:久保こーじ、編曲:久保こーじ
[1997.5.14発売; オリコン最高位36位; 売り上げ枚数0.9万枚]
[歌手メジャー度★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★]
さっそく詞の方からいきましょうか。この曲の歌詞を、職業作詞家の確かな腕による“密度の濃い” '70年代歌謡曲のそれと比べると、そのスカスカぶりが思わず泣けてくるほどです。・・・とまぁ、初っ端からあんまりネガティブなことは書きたくなかったんですが、その差があまりに歴然としてるもんで、ここのところはお許しを。で、急いで良い点も探したところ、ありましたありました。♪ おんなじ体温で抱きあうと ハチミツみたい という部分はなかなか気の利いた表現で、発売当時からかなり気に入っている歌詞なんですねー。
我が国では’90年あたりから、それまでのアイドルポップスを引き継ぐ形で、いわゆる「ガール・ポップ」と呼ばれるシンガーソングライターが現れました。そして、ポップスの歌詞が「内容なくワザなく、従って味わいなんてあるはずもなく」というヤバい状況に本格的に陥り始めたのは、ちょうどその頃ではなかったでしょうか(・・・いやもちろん、職業作詞家をしのぐ技術と瑞々しい感性を合わせ持つ”アーティスト”だってちゃんといましたよ。ただ、'70~'80年だと間違いなくデビューできなかったであろうレベルの”シンガーソングラーターもどき”も大量に出てきてしまったという・・・ 歌詞というのは、自分の気持ちをただ単にだらだら綴ればいいってもんじゃないでしょう)。それ以前でも、’80年半ばに秋元康が台頭してきたあたりからヤバい徴候は既にあったわけですが、彼の仕事には内容と味わいはなくっても「ワザ」はそれなりにありましたからね・・・。
さて気を取り直して、次は曲の方です。こちらは親しみやすくて変化に富むマイナー調のメロディーがなかなか私好みの作品で、彼女の初期のシングルの中では頭2つくらい抜けた出来ではないかと思います。今回、レビュー記事を書くに当たって改めて曲を聴いてみたら、声に意外と厚みがないし、この作品でも高音部がしっかりと出てなくって「ありゃまあ・・・」ってな感じですが、そうは言っても、発売から15年経った今でも定期的に思い出して、実際に年に7~8回くらいは聴いているわけですから、苦言を呈しつつも実は高く評価している作品だってことです。
それにしても、せっかく小室哲哉ファミリーとしてスタートを切ったにもかかわらず、弟子(?)の久保こーじに預けられて小室の手によるヒットの恩恵に預かることもなく(小室哲哉作曲のシングルは8枚目の「With Your Love」一作のみ)、一番大切なデビュー後3年間を不発不遇のまま過ごすことを余儀なくされて、歌手として中途半端なままフェイドアウト・・・。私の目には「テレビによる過剰な演出の犠牲者」としか見えませんでした。その後、彼女は渡米・帰国を経て、現在はシンガーソングライターとして地道に頑張っているようで、その点だけが“救い”ですね。
本人は、テレビの勝手な思惑に振り回された'90年代のことは、きっとあまり思い出したくないのではないでしょうか。まぁ、これは私の勝手な想像ですが・・・。