wish横浜 Marriage Story -5ページ目

2nd Story|VOL.12 アナタノ キモチ

あのドライブデートから三日がたった。


それなのにまた、メールも電話も来ない。


何かいけないことをしたのだろうか。

食べ方のマナーが気に入らなかったとか?

それとも、ふざけて「神経質そうね」と言ったことが気に障ったのか。

ううん、そんなことはない。

だって、帰りは私が見えなくなるまで車の中で見送っていたのを、角を曲がるときに確認したもの。

(もともと、マメじゃない人なんだ。忙しいだけのはず。)


自分で言い聞かせるけれど、胸の奥がざわめいて落ち着かない。

携帯が気になって仕事も上の空だ。

お風呂にも携帯をタオルで巻いて持ち込む。

着信があるたびドキドキして、それが友達からだと分かると、
申し訳ないがため息がでてしまいそうになる。

(前の彼は毎日お休みメールをくれていたのに・・・。)

比べたくなくても、つい比べてしまう。


私、どうしたんだろう。


あの人のことをこんなに想っていて、好きになったのだろうか。


もう、待っていても仕方がない。

私からメールをしてみよう。


思い切って、思っていることをそのまま送ることにした。


送るのを一時間迷って送信する。きっと返事も遅いだろう。


『メールもくれないけれど、お忙しいみたいですね。私から連絡するのは煩わしいですか?』


それから三十分後、以外と早い返信が来た。


うれしい気持ちと同時に、それなら先に、もっと早くメールが欲しかった、と思う。


『そんなことないです。すみません・・・。また、ドライブ行きましょう』


こういうとき、具体的にデートの日程を挙げてくれればいいのに・・。


仕方なく、私から誘う。


『是非♪ 来週の日曜はいかがですか?』


心とはウラハラに、重くならないよう、なるべく明るさを装って文章を打つ。



『そうしましょう。』




~VOL.13 『おやすみのキス』に続く~

2nd Story|VOL.11 愛はプライドに勝る

メールが来たのはあれから五日後だ。

“会いましょうか”

誘いのメール。
嬉しいけれど心の中は複雑だ。

だって、それまで一度も連絡がないって、信じられない。
非常識というかなんというか、女の子を不安にさせるなんてどういうことだろう。

今回は、おばあちゃんのお見舞いに行くと言って断ることにした。

それからまた一週間経つのに、彼からのメールは一切ない。

シャクだけど、自分からメールを出すことにする。
そうじゃないと、このまま進まないのだ。

(もともとマメな人ではないのかも。)

もう一度彼のプロフィールを見てみる。

『趣味:ドライブ』

そういえば、電車デートしかしていなかったな。
まだ、車に乗せてくれないのかしら。

そう考えると、悲しくなる。

ダメだ。
悩んでいるのは私らしくない。
とにかく誘ってみよう。

携帯を手に取って、ソファに座りなおした。


やっと、二週間ぶりに会うことになった。

あんなに悪い妄想ばかりして不安になっていたのに、顔を見た途端にホッとする。

あの日はなんであんなに不機嫌だったんだろう、と思って反省する。

お台場のヴィーナスフォートに来たのは久しぶりだ。

すごくベタな場所だけど、回りはカップルが多く、デートをしているのを実感できて
ちょっと誇らしい気分になる。

外に出ると雨が強く降っている。お台場全体が霧で煙っているようだ。


「今日、車で来ているからよかったら送っていきます。」

「いいんですか? ありがとうございます!(ラッキー!)」

やっと車に乗せてもらえるんだ。少しだけ距離が近づいた感じでうれしい。

お台場から住んでいる横浜までは思いのほか近く、
ドライブするにはちょっぴり物足りない。

「まだ付き合いが浅いので、家の近くで止めてもいいですか?」

ナビが位置する家の少し手前で彼が車を止める。

「じゃあ、ここで。」

私が実家暮らしだから、気遣ってくれている。
そんな優しさがうれしかった。


今日は、とびきりの笑顔でサヨナラができて、心がぽかぽかと暖かくなった。




~VOL.12 『アナタノ キモチ』に続く~

2nd Story|VOL.10 サスピション

次の週は、品川で映画デートをすることになった。

あの日から、仕事中も眠る前も彼のことを思い出して、会うのを心待ちにしている。

新しいちょっと丈が短めのワンピースを買い、
それに合わせて脚がキレイに見える高めのヒール靴も買った。

駅前の待ち合わせをして、映画館へ向かう。

日曜の品川は思いのほか人が多く雑然としている。

あぁ・・・。
人ごみってホントにイヤ。

しかもこの人、私の前をスタスタ歩いて行ってしまうじゃない。

急いで早足にするけれど、初めて履くヒールのかかとが痛くて、間に合わない。

「大丈夫?」

途中で来ないことに気づいたのか、後ろを振り返った。

それなら、最初からゆっくり歩いてくれればいいのに。


けっこう気が利かない人なのかも。

さすがに不機嫌になって黙ってしまう。


三谷幸喜の映画はやっぱり面白い。

おかげで、さっきのブルーな気分をクリアにすることができた。

映画館を出て、近くの洋食屋に入り、オムライスとポークカツレツを注文する。
話をするとやっぱり合うし、楽しくて安心する。


「大学生の時、宿題ってちゃんとやってた?」

「僕は全然やってなかった。バイトしてるほうが有意義じゃん。」

「え、私はちゃんとやってたよ。」

そんなたわいもない会話がはずむって、貴重だ。


「もうこんな時間だ。そろそろ帰りましょうか。」

話している途中で、彼が急に時計を見てつぶやいた。

(そんな唐突に・・・。この人、空気を読めないんじゃないか。それとも慣れていないの?)

しかも携帯の時刻をみると、まだ二十一時だ。

また、帰りは不機嫌になっている自分に気づく。

せっかく買ったこの靴も、足に合わないからイラッとしているのかも。

自分に言い訳をしながらつま先に重心をかけて歩いた。




~VOL.11 『愛はプライドに勝る』に続く~

2nd Story|VOL.09 出会い-5月-

五月の皇居は、風と緑が清々しい。

春の花の香りと夏手前のゆるやかな空気が混じって、
都内とは思えない幻想的な雰囲気を作り出している。

「今日、晴れてよかったですね。」

「ほんとに。」


ふわりとした、穏やかな雰囲気をもっている人だ。

シンプルに整った顔のせいじゃなくて、話し方なのか、落ち着いた声のせいか。

家族のことや、仕事のことを話しながら皇居から日比谷公園のあたりを歩く。
胸が揺さぶられるようなトキメキはないけれど、とにかく心が安らいでいる。

これがフィーリングが合うということなのかもしれない。

日比谷公園の中にある、緑に囲まれたカフェに入る。

こんなに長くいても話が途切れず、初めて会った気がしない。

だからといって、やっぱりドキドキ感はなく不思議な感覚だ。

「食事でも行きますか?」

彼が時計をチラリと見る。

気づけば、夕焼けが木々の隙間から差し込み、
カフェの白い壁をオレンジ色に染めている。

「いいえ、今日は家で用意してもらっているので帰ります。」


ここで退散したほうが、絶対に印象がいいはず。

本当は、もう少し一緒にいてもいいと思うけれど、今日はここでサヨナラをすることにした。




~VOL.10 『サスピション』に続く~

2nd Story|VOL.08 明日-ミライ-の約束

次の日のお昼頃、携帯の着信音が鳴った。
カウンセラーの半沢さんだ。

「もしもし、のぞみさん!」
半沢さんの声が明るい。

「川上さんから交際申し込みの連絡があったわよ!やった。カップル成立ね!」

「ホントですか?よかった!」

なんとなく予想していたけれど、
あちらも気に入ってくれているのが分かってホッとする。


「しかも、なんと他の二人からも来てるの。どうする?
     並行して、みなさんと会うこともできるわよ。」

「いいえ、川上さん以外の方は断っていただけますか?」

「わかりました。よかったわね♪私も嬉しいわ。」

こういうときに限って、モテるのが世の常だ。
でも、二兎追うものは一兎も得ず。

ここは、誠実に行くべきだろう。

この日の夜、携帯に川上さんからメールが来た。

“こんばんは。今度お会いしたいと思っています。いつならお暇ですか?”

丁寧な言葉づかいはやっぱり印象がいい。

“ゆっくりできるところがいいです”

“どこか、おすすめはありますか?”
“皇居はいかがですか?”

お昼のデートだし、気分が良くなる場所を提案した。

最初に映画は絶対にNG。
話ができないし、感想が食い違ってダメになることもある。

夜の食事も、最初のデートで早い気がする。

そうすると、昼間の散歩がその人の日常や人となりを見るのに最適だ。




~VOL.09 『出会い-5月-』に続く~