『ヴェロニカ見てるか~?どうせ再生出来てないだろうから、プリシアにいじってもらえよ~?』
スマホの向こう、アレッチ氷河でゲルマニクスが、青のダウンジャケットにポンポン付きの赤いニット帽をかぶって、なんかあたま悪そうに手を振っている。
ヴェロニカは、ゼミの学生を捕まえてスマホをいじってもらい、生配信に参加している。
「何のユーチューバーなんですか?」
「この間言った、氷河内の遺跡調査員よ。先立ってエルフの墓地を調べてもらっていたの。…ええ、氷河内にこんな空間があったなんて」
小さなスマホの画面の中には、暗い氷河の割れ目から氷洞に入っていくゲルマニクスの手が映っている。
『もしもし、私よ。今現地に向かってるとこ』
別の端末からプリシアの声もする。遺跡調査を名目に、使えもしないスマホを何台も置いているヴェロニカの研究室では、うっかりすると数人からの同時多発生配信が発生することも珍しくなかった。
『え~、最初の割れ目にあった石像は、俺達が生まれるはるか昔に、アルプスにやって来たケルト人が友情の証として残してくれたものだそうです。もちろんそれよりず~っと前からここはお墓だったんだけど』
「この人、エルフなんですか?」
学生が騒ぎ出す。
「そうよ。私の義理の兄弟。…表には出られない仕事をしているので、耳を整形してるけどね。…いい?この動画は部外秘よ」
ヴェロニカは教授としての威厳を込めて言った。
『ここの石畳は俺が初めて埋葬をした時に、既にありました。つるつるして、よくすべるんです。パトリキは皮袋、庶民はそのまま、王族に限って立派なそり付きの寝棺に入れて運ぶんですが、ここを、する~っと、すべらせるんです。…このようにね』
と言いながら、ゲルマニクスは三脚に立てたスマホの前で自分のリュックを奥の空間にすべらせて見せた。
『リュックの中には食料が入っているので、急ぎます』
動画を止めずに石畳を走っていくゲルマニクスの周りに、巨大な氷壁がそそり立っているのが確認出来る。学生達は、氷壁の中にいくつもの人造物…布製品や棒切れのようなもの…を確かに見た。
「あれが庶民の墓ですか!」
「副葬品が見える!」
『え~、庶民のお墓はもともとここからさらに100歩ほど歩いた先にありました。温暖化の影響でしょうか、ずいぶん手前に来てますね。俺が下調べで一番驚いたところです。で、ここからパトリキのお墓が始まります。みんな皮袋に入ってます。俺が1000年前に入れました。王国崩壊後にどうしてもここで眠りたいって言う老パトリキを埋葬したこともあります。…手前の方の新しい皮袋がそれです』
「あ、あの奥のお墓!」
「皮袋が開いてる!」
『で、気になるご遺体が奥に…』
ゲルマニクスがスマホをズームした瞬間。
『なあっっっ!?』
ドサリ。短い絶叫と衝撃を残して、スマホが左手ごと地面に落ちた。
この作品はくられ氏と『代理母のエルフ』には無関係です。
「ネバーランドの麻薬王」編、いよいよ始動!
https://ncode.syosetu.com/n3161mr/
内容が内容だけに万人受けするかはアレですが、「永遠の美少年ヴィランモノ」が好きなあなたには刺さると思います。