2025年7月鑑賞映画ひとことレビュー

 

7月の鑑賞本数は27本。話題のハリウッド大作と鬼滅のおかげでどの映画館も激コミでした。喜ばしいやら悲しいやら。

 

 

■「新任教師は見た! 特殊クラスの子どもたち」

 「光る眼」のリブート版(そんな感じ)。主役の女の子の不気味過ぎる顔がいい。

【60】

 

□「ヘルボーイ/ザ・クルキッドマン

 デル・トロ&ロン・パールマンが離脱してからのリブート版2作目。今回は原作のマイク・ミニョーラが自ら脚本、原作での人気が高いクルキッドマンエピソードを完全映画化という事で、結構な期待があったのですが…うーん、なんとも言えない微妙な出来となってしまいました。

 1950年代のアメリカ。超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)の捜査官ヘルボーイと新人エージェントのジョーは、アパラチアの山奥にひっそりとたたずむ寒村にやってくる。その閉ざされた土地で奇怪な事件が相次いでおり、村人たちは怯えて暮らしていた。事件のすべては「歪んだ男」と呼ばれる悪魔の仕業だという。そんな中、トム・フェレルという男が村に戻ってくる。20年前、悪魔と契約して魂を奪われたと語る彼の帰還が、呪われた因縁を呼び覚ます…(映画.comより)

 前3作のアクション全開ノリがお気に召さなかったらしく、今回はかなりダークなオカルトミステリーでアクションはかなり控えめなのですが、その肝心のお話がどうにもつまらないというかわからない。これひとえに監督のせいなのだと思うのですが、とにかく映像がやたら暗くてわかりにくく、編集もガチャガチャでお話を追う事がものすごく難しい。その癖お話自体も複雑怪奇というか、よくわからないというか構成自体がごちゃごちゃなので、とにもかくにも退屈でした。多分、グラフィックノベルとして読んだら非常に深みと雰囲気のある知的なオカルトなんだろうけれど、実写映画として見せるための適応(映像の向き不向きの選択・取捨)が全く出来ていないという印象でした。まあデル・トロ版の映画としての完成度があまりに高いので、過度な期待という側面もありはしますが、それでもエンタメ映画としてはあまりに完成度が低すぎ。監督の力量不足も踏まえ、原作者の弊害が出てしまった感じでした。

【60】

 

■「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ

 異様で異質な空気が滲み出る映像表現は圧巻。その映像以上のストーリーが作れていないのが勿体ない。

【75】

 

■「ノスフェラトゥ・ドットコム」

 たまに配信でこういうの見るとオタクが考えたり好きな事だったりが万国共通なのを知ることが出来てなんだかほっこりします。

いやまあ映画はPOVの安物で酷いもんですが。 

【55】

 

■「1秒先の彼女

 なるほどなワンアイデアを純愛ものに昇華した(とはいえ確かにストーカー苦笑)佳作。とにもくかくにも主人公を演じたリウ・グァンティンがあまりに魅力的すぎ。

【75】

 

□「MOON GARDEN/ムーン・ガーデン

 怪異に溢れる悪夢のような異世界に迷い込んだ少女の運命を、徹底したアナログ方式と35mmヴィンテージフィルムで撮影した独創的な映像で描いた、個性あふれる逸品。

 5歳の少女エマは両親の激しい言い争いに巻き込まれ、階段から落ちて昏睡状態に陥ってしまう。目を覚ますと、なぜか彼女は不気味な暗い森の中にいた。エマの涙を貪ろうと追いかけてくる怪異から逃れ、両親の声が聞こえる古びたトランシーバーに導かれながら元の世界を目指すが、行く先々で奇妙な人物や出来事に遭遇する…(映画.comより)

 登場するモンスターたちはなかなかにグロテスクで個性的。パペットやストップモーションアニメで表現された彼らの溢れる存在感は、退廃的な世界観と絶妙にマッチ。映画全体を通してきっちり世界観が固まっているのがなんともいい感じでした。編集が雑だったり、ストーリーが煩雑だったりと、正直映画としてはかなりぎこちないというか言ってしまえば下手くそなんだけれど、好きな事、やりたい事が明確で、それを表現するために最大限の努力をしている事が映画全体から伝わってくるのがものすごく好感度大でした。またそんな欠点を凌駕する美しくもダークな映像美はそれ系好きにはかなりハマる世界観でした。

 5歳の少女には結構きつめな事やらせているので心配になったりもしましたが、監督の娘さん(だからここまでやらせる事が出来たのね)って事で納得(苦笑)。それも踏まえて、愛すべき自主映画でした。

【75】

 

■「1秒先の彼

 という訳で男女入れ替えでストーカー臭は薄れたものの、逆に岡田将生がどうにも鼻もちならないヤツにしかみえないという事で減点。

【65】

 

■「デッド・ウィッシュ

 古典的なアイデアを現代風にしようとしたけれど、古典を超えるを要素が全くなかった切ないホラー。

【55】

 

□「スーパーマン(2025)

 ジェームズ・ガンにより新生DC第1弾。なるほど、まさにガン映画。「新生DCU」の始まりを高らかに宣言する映画でした。

 スーパーマンオリジンをすっとばし、スーパーマンが世界に浸透し、活躍している世界から映画が始まるのですが、オープニングはまさかの負け戦。ここらかしてもうガン全開なのですが、善悪入り乱れた複雑怪奇な世界の中心で”正義”を叫ぶスーパーマンの葛藤と戦いが、ド迫力かつオタク心溢れる大スケールのアクション満載で描かれます。ワーナー的にもかなり力の入った映画故か、かなりの予算を使ったであろうシーンが満載。怪獣から怪人、ロボットや鳥人間まで、ある意味やりたい放題のびっくり箱のような楽しさのある映画でもあります。

 基本的にはドナー版「スーパーマン」を踏襲しているようで(やっぱりあのテーマは心躍りますねえ)、明るく楽しく、ロマンチックなスーパーマンな感じなのですが、神になりたい人間と、人間になりたい神という相反する二人を主人公に据え、昨今の世界情勢や社会(ネット猿はまんますぎて爆笑)に強烈なダメ出しをしながら、ともすればダークになりがちな物語を純粋にエンタメとして見せる手腕はさすがガン。得意のキャラ演出は脇役を含め、全員を生き生きとした本物に見せるのがほんとに上手だし(ジャスティス・ギャングなんてほんとにキャラ立ちまくり)、特に敵役たるレックス・ルーサーの極悪ぶりの中にある嫉妬と鬱屈はニコラス・ホルトの怪演も含めお見事。やっぱり敵役が強くないとこの手の映画盛り上がりません。スーパーマンだからと気負う事無く出来る事を素直にやってる感じは好感度大です。

 絶対に人を殺さないというスーパーマンのお約束(「マン・オブ・スティール」で批判されてましたね)を含め、あくまで”良き人間”になろうとするスーパーマンの迷いと決意を丁寧に描く事で、”神様のような力を持つけれど、我々と変わらない良い人になろうと努力する青臭い人間”たるスーパーマン像は新鮮で共感度MAXだし、スナイダーバースの神々しいヘンリー・カヴィルとはまた違った、感情移入しまくれるヒーローという魅力に溢れていました。という事で普通にエンタメとして充分に楽しめる映画でした。

 まあ裏を返せばガンの悪い所もしっかり出ていて、悪ふざけが過ぎてバランスが悪いとか、苦手なロマンスが全然盛り上がらない(というかロイス・レイン印象薄いなあ…)とかまあありますし、多分自身から最も遠いであるからこそ全身全霊で考え抜いた超善人”スーパーマン”のキャラがちょっとパターン化されすぎなような気もしますが、そこはまあご愛敬。

 とにかくこれからDCUが続いていく最初の1本としては充分に満足できる映画でした。ただこの路線だとバットマンはかなり難しいだろうなあ…

 【75】

 

■「オールド・ガード2(NETFLIXオリジナル映画)

 不死身の傭兵たちの戦いを描いたアクション映画第2弾。前作で不死では無くなった主人公と、過去に大きな因縁のある強敵ととの壮絶バトルが展開されます。

 今回はその強敵との因縁がお話のメインになる(その因縁と敵の運命があまりに壮絶なので)と思いきや、お話はちょとずれた方向にシフト、かなり勿体ない展開に。不死身とは、生きるとはというテーマについて語るには絶好のキャラを出しておきながらこの雑な扱いはかなりどうかと思いました。かてて加えて後半のご都合主義的展開はかなり興ざめ。色々魅力的なきゃらがありながら、どうにも扱いきれてない感がほんとにもったいない映画でした。

 どうやら3部作らしいので一応期待はしますが、結構有名どこの作家さんが絡んでいるだけに納得のラストを期待します。

【65】

 

□「ストレンジ・ダーリン

 シリアルキラーの恐怖に包まれた街を舞台に、とある男女の出会いが予測不能な展開へと突き進んでいく様子を、時系列を巧みに交錯させた全6章構成で描いたスリラー映画。

 という訳で、なんだか妙に評判の高い本作ですが、実録風のテロップから、赤い看護服を着たブロンドの女性が草原を逃亡する美しいフィルムテイストなスローモーションシーンにはかなり興奮。期待感がアップしたのですが、その後「第3章」から始まった瞬間、正直悪い予感…

 映画はその後、時系列をシャッフル、この手の映画の常識をガンガンに打ち破っていく構成の妙と、フィルム撮影が切り取るギラギラしたざらついた陽光と抒情的なフォームソング(これオリジナルっぽいのはすごい)がかの70年代独特の雰囲気を再現していて、全体として非常に練られ、考えぬかれた力作ではあるとは思うのです。実際、その展開はなるほどと思ったし、かなり体を張った役者たちの熱演・怪演も見ごたえありでしたし。ラストの世界の広がりを感じさせるセリフも含め、レベルの高い映画である事は間違いないと思います。

 でも、個人的にはノレませんでした。映画中、得体のしれない嫌悪感がずっと付きまとっていたのですが、その原因がなんだろうと改めて考えた結果、「映画評論専攻のエリート学生が作ったような映画」だなあというのが一番しっくりした答えでした。

なんでしょう、ものすごく良く出来てるけれど、頭でっかち、すなわち心が無い映画という風に感じてしまったのです。そう「第3章」から始まるのもいいんです。しっかり理由がありますし。そんな感じで全てが理詰めで完璧だからこそ、そのように感じてしまったのかもしれません。あくまで個人的な印象なので、そんな事はない、非常に良く出来たスリラーだと思うのが普通かも知れませんが、王道から離れたものを計算して作りました的な印象で、個人的にはどうしても好きになれませんでした。

【70】

 

■「祝宴!シェフ

 ギトギトした空気がなんともそれらしい台湾コメディ。なんというか新喜劇にも通じるコテコテ感が親近感。

【65】

 

■「ブリック(NETFLIXオリジナル映画)

 突然マンション周辺がレンガの壁に覆われてしまった人々の決死の脱出劇を描いたNetflixオリジナル映画。

 フランス映画と言う事で、最近のこの手のフランス映画らしい、モヤっとした絶望感に包まれたなんともイヤーな感じの映画となっております。

設定的には不条理シチュエーションスリラーということで、いきなり理解不能な状況に閉じ込められてしまった人々の混乱と逃亡への決死のドラマが見どころになるわけですが、やっぱりフランス、倦怠期の夫婦が主人公。最初からいかにもな男女の不毛な争いを見せられるのはなんだかお約束。そして非現実な状況からの仲直りもお約束なので、そういう方面では安心して観ていられます(ネタバレでは無いです)。とはいえ主人公夫婦以外はかなりおバカ&非情な展開で、育てたキャラの扱いはかなり酷い(というか移民のDQNカップルの扱いがあまりに非道すぎ苦笑)。そこをどう取るかで評価が分かれそうな気もしますが、個人的にはこれもフランスな感じでOK。まあもっと上手くやってればこの展開もなかなかの驚きだったのだろうけれど、全体に雑な感じも否めないのがちょっと勿体無い映画でした(失笑のオチも含めて)。

【75】

 

□「顔を捨てた男

 超絶イケメンなのにどこか影のある感じがやたらカッコいいセバスチャン・スタン様ですが、というかバッキー路線で一生食っていけそうなはずなのに、こないだのトランプといい今作(A24という事も含めて)といい、なかなか味のある方向に進んでいるのがなんともいい感じなのですが、それを踏まえても本作、かなりな冒険だったような気がします。

 顔に特異な形態的特徴を持ちながら俳優を目指すエドワードは、劇作家を目指す隣人イングリッドにひかれながらも、自分の気持ちを閉じ込めて生きていた。ある日、彼は外見を劇的に変える過激な治療を受け、念願の新しい顔を手に入れる。過去を捨て、別人として順風満帆な人生を歩みだすエドワードだったが、かつての自分の顔にそっくりな男オズワルドが現れたことで、運命の歯車が狂いはじめる…(映画.comより)

 なんというか、かなり変わった映画でした。途中まで美女と野獣的な、コンプレックスから開放されて幸せなお話かと思いきや、過去の自分とそっくりな外見を持つ男の登場で、物語は一気に不穏というか、不条理劇へ展開。新しい顔を得て順風満帆だった人生が、寄りにもよって自分を不幸にしてきた(と思いこんでた)容姿を持っているくせにやたらとハイスペックでハッピーな男により破滅に追いやられるという、なんともいえない不条理。どんどん自身の幸福を食い物にしていく男に対して、妬み、嫉み、ひがみの負の感情からくる怒りの中心にある焦がれる様な羨望が、痛いほど心に染みる人間ドラマでもあり、身障者に対する現代社会の目線(結構気持ち悪い感じで描かれてるのが個人的には良)も含め、非常に考えられた社会派ドラマでもありました。

 特殊メイクを使用しながら、複雑な心情を丁寧かつ渾身の熱意で演じ切ったセバスチャン様はもとより、やっぱり謎の陽キャを演じたアダム・ピアソンの存在感は別格。容姿云々を越えた、人間としての陽の魅力に溢れたその演技の説得力がこの映画のキモ。いやはや素晴らしい才能だと思います。

ラストのオチも含め、様々な見方が出来る映画だと思いますが、セバスチャン様と熱演とピアソンという実在の人物に対する感情も含め、なかなかに複雑な多面構造を持つ映画でした。

【70】

 

□「DROP/ドロップ

 ”2本立てを観に行ったら本命じゃない方が面白かった映画”を量産しまくってるクリストファー・ランドン監督最新作。とにかくこの監督の映画は面白い。ザ・ジャンル映画の枠組みの中でとにかく面白い事を追求、たくさんのアイデアを盛り込みつつ、しっかりと交通整理の上、きちんとキャラありきの人間ドラマとして成立させるその腕前は最高傑作である「ハッピー・デス・デイ」2部作で証明済み。「スイッチ」「屋根裏のアーネスト」と好調を継続しつつ、放った最新作がこれ。

 スマホのDROPメッセージで脅迫された女性の運命を描いたシチュエーションスリラーという、最近よくある設定ではあるのですが、そこはランドン、キャラの背景や舞台説明などをよどみなく、かつ手際良く処理、ストレス無く物語に入り込めます。

まあ正直物語自体はツッコミどころ満載で、犯人のあまりの準備周到さ(の割に結構抜けてる)や、デートの相手のニブチンぶりとあまりに良い人ぶりに失笑したりもするのですが(ある意味そのいいひと過ぎも伏線かと思ったり)、物語はヒロインから一時も離れず展開し、あくまでヒロイン目線のため、それほど気にならず、普通にドキドキ・ハラハラしてしまいました。

 とはいえ今回は前作のようなきらめきはあまりなく、そつなくこなした感が強いのが勿体ないのですが、シナリオに絡んでないらしいのでしょうがないと言えばしょうがないのかも。それでも普通のエンタメとして充分楽しめる映画に仕立て上げたその力量はお見事でした。ほんとこの監督には変に色気を出さないでこの規模の快作を撮り続けて欲しいです。

【75】

 

■「ホビッツベイ

 雰囲気はいいんですが、やっぱりモンスターに魅力が無いのが…

【55】

 

■「グランド・クロス シード・オブ・ディストラクション」

 設定は面白いのですが、チープすぎるCGですべてが台無し。

【50】

 

□「10番街の殺人

 はるか昔にレンタルビデオで鑑賞した際には冤罪で死刑にされるちょっとオツムの弱いジョン・ハートがあまりに可哀そうっていう印象しかなかったのですが、今回のリバイバル鑑賞であまりに異常な傑作な事に震撼。

 戦後間もないロンドンで、ハゲ・チビ・デブの変態中年が起こした連続殺人事件の顛末を描いた実録映画なのですが、とにかく全編から滲みまくる狂気が圧倒的。実際の事件現場で撮影し、セリフは供述調書からの引用、徹底的にリアリティにこだわった狂気の産物は特級呪物並みの破壊力。演出自体はものすごく淡々としていて、作劇的な演出は一切ないのだけれど、そのため余計にリアリティが増幅。リチャード・アッテンボローの怪演(いやもうその嘘八百を並べた話術の巧みさといったら…昨今のサイコパスが嘘にしか見えない迫真過ぎる名演)と、小物感丸出しで、あまりに運が悪すぎる男がはまり役すぎるジョン・ハートの抑えた名演が、凡百のホラーの何百倍もの恐怖を運んできてくれます。

かなりセンセーショナルな事件をリアルに描く映画は昨今サブスクオリジナルとかでは見られるようになったけれど、それとは比較にならない徹底したプロによる真正の猟奇映画。多分あんまり覚えていなかったのはトラウマ防止だったんだなあと今更ながらに思う大傑作でした。

【リバイバルなので採点なし】

 

■「ザイアム バトル・イン・ホスピタル(NETFLXオリジナル映画)

 珍しいタイ発ゾンビ映画。タイらしくムエタイ大活躍のゾンビ退治はなかなかに爽快。まあそれ以上でもそれ以下でも無いのですが笑

【65】

 

■「朽ちないサクラ

 確かに力作ではあるし、芸達者な役者たちのソツの無い演技もお見事なのだけれど、この手のよくあるお話で終わらずもう一山欲しかった感。あとフィクションでの公安の圧倒的ヒール感っていつからなんでしょうね。

【65】

 

■「ロストケア

 こちらもよくぞ作ったっていう力作・問題作なのですが、「朽ちないサクラ」と一緒でもう一捻りが欲しかった。日本の闇をあからさまにするのはほんとに意義がある事だと思うし、ここまでストレートにやるのは勇気がいる事だとは思いますが、だからこそ死刑制度にまで踏み込んだのは逆に焦点がぼやけてしまった感も。まあ国による殺しと考えればおんなじかもですが。

【65】

 

□「スタントマン 武替道

 「トワイライト・ウォリアーズ」の大ヒットの余波で公開された新旧香港映画のスタントマンたちの生き様を描いた、香港映画を愛してきたその筋の方達には感涙の人間ドラマ。自分鑑賞時はまさかの満席、ブーム来てますねえ。

 1980年代、売れっ子アクション監督として活躍していたサムは、撮影中に危険なアクションシーンを強行したことでスタントマンを半身不随にしてしまい、映画業界を引退する。時は流れ、整骨院を営み静かに暮らしていたサムのもとに、かつての仲間から「もう一度アクション映画の監督をやってほしい」という依頼が舞い込み、数十年ぶりに映画制作に参加する。しかし、アクション映画の現場は、かつてとは異なりコンプライアンスも厳しく、リアリティを追求するサムのやり方に俳優のワイや製作陣が反発し、現場はぎくしゃくする。若手スタントマンのロンは、サムを献身的にフォローし何とか撮影を進めようとするが…(映画.comより)

 サムを演じたトン・ワイさんは香港アクション映画界のレジェンド。ブルース・リーにかの有名過ぎるセリフを言われた本人でもあり、80年代の香港アクション最盛期を支えた偉人。なので、映画はそんなレジェンドたちに敬意を表しつつ、現在の香港アクション映画の問題点や過去の功罪を浮き彫りにしつつ、それでも香港映画は死なないという高らかなメッセージを歌い上げる、香港アクション映画へのラブレターでした。

 「決してNOとは言わない」という常軌を逸した精神がまかり通った時代を生きた伝説のアクション監督サムさん。そんなサムさんが現代の現場で昔ながらの方法で撮影に挑む様は令和の今ではコンプラ違反のてんこ盛り。ブラック・パワハラどころの騒ぎではない命懸けのスパルタ。そんなサムさんを慕いつつ献身的にフォローするテレンス・ワンのなんとまあ健気な事か。可愛い子犬のような目がもう信一ファンの心をぎゅっとつかんで離しません。大スターになって増長し、一見チャラくなったように見えて心の奥に熱いスタントマン魂を持っていた王九ことフィリップ・ンさんもキレキレのアクションと共にいい味出してくれます。

アクション監督以外は完全に社会不適合者のサムさんの生き様は正直相当キツイというか自業自得感だらけで、あまりに身勝手なので映画としてのもストーリーの流れはいい加減でハチャメチャですが(娘との融和はどう考えてもあれで無理でしょう)、そこも含めてのアクションバカ一代。結局生き様を変えられない頑固は親父を周囲が優しく理解し、許してくれる、そんなファンタジーになってしまってます。ネットの評価とかで特に若い人が”サムさん許すまじ”になっているのはもう当たり前なのだけれど(実際冷静にみれば相当この親父酷いです)、この映画はそういう時代に憧れた監督以下すべての人々が最大限の敬意と愛を持って作り上げたスタントマンに対するファンタジーなので、それはお門違い。これはそういうその筋を愛して来たすべてのファンに対するラブレター映画なのです。

 オープニングの80年代ジャッキー映画完コピにのれるかどうか、そこで全てが決まります。

【75】

 

□「エレベーション 絶滅ライン

 「クワイエット・プレイス」の製作陣が送る!っていうのいかにもなB級感がたまらないザ・B級映画。

謎のモンスターの出現で高度2500m以上の高地に追いやられた世界を舞台に、病気の息子のために危険な街へと向かう父親の冒険を描いたサバイバルスリラー。

 基本的にはクワイエット・プレイスなシチュエーションSFで、今回のキモは高度2500m。そのライン間際でのサバイバルな駆け引きはいかにもなるほど。サバイバルチームのメンツが普通の映画とはちょっと異なり、モンスター破壊に命をかけるマッドサイエンティストな女性科学者はいい感じ。炭鉱内でのバトルもそれなりにしっかりしてるし、凶悪モンスターが絶望的に強すぎるのにもちゃんと説得力があるのは良心的ではありましたが、冴えないアンソニー・マッキーも含め、全体として想像を超えることができなかったのは残念でした。ただクライマックスからの意外な展開(これは想像を超えました苦笑)や、なかなかにセンスのあるラストシーンなど、嫌いじゃないバカシーンもあったので、良くも悪くもB級映画の見本のような映画でした。今回のモンスターデザインはなかなか。

【65】

 

■「母性

 母と娘という複雑な関係をこういう形で見せるのはなるほどなあと感心した反面、この演技プランが映画にあっていたかどうかは疑問。個人的には昔の少女マンガのようでくすぐったかったです。

【60】

 

□「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来

  いやまあ大ヒットするとは思ってましたが、まさかの200億ですか…前作の「無限列車編」がコロナ禍でライバルがいなかったための大ヒットという側面があったのに比べ、今回はハリウッドヒーローものがあったり、普通の状況での公開だったし、正直結構終わりかけコンテンツという印象だったのでさすがにそこまではと思っていたのですが、鬼滅の刃恐るべし。

 という訳で、TVシリーズからクライマックスの無限城へと映画は続いていくのですが、今回は無限城入城から猗窩座戦まで。三部作という事でどれだけ儲けんねんって感じですが、この密度・完成度なら三部作もやむなしというところ(いやあと2作で無限城終わるんかいって感じですが)。とにかく映像の完成度がすさまじく、原作読破組でもこれはもう納得というか、正直原作を遥に超える濃厚さで眩暈がするほど。知っているストーリーなので感動ポイントやら泣きポイント、カッコよポイントやらギャグポイントまで色々わかっているし、個人的にはその表現方法(いわゆる演出ですね)を観に行っているようなものだから、自然とハードルは上がるのだけれど、すべてが想像を超える迫力と完成度。CGと手書きの融合を含め、ほんとに現代日本アニメとしては究極の表現力だと思いますし、それを体験するだけで充分価値のある150分だと思います(まあ広大すぎる無限城はやりすぎかと思いましたが笑)。そりゃここまでやったらリピートする人続出だろうし、興行成績ダントツなのも納得です(TOHOシネマズはやりすぎですが)。

 で、これは映画の出来云々というよりも改めて感じた事なのですが、鬼滅の刃、ものすごくセリフが多い。回想のナレーションも含め、とにかくキャラみんながそれぞれの内面・感情や状況を余すところなく説明してくれる。なので非常にわかりやすい。というかうるさい。昔はそこまで言われなくても、見てわかるようにするのが、セリフを極力排除して映像で魅せるというのが美徳だったと思う私がおっさんさのか、はたまたここまで説明されないとわからないし面白くないのが今風なのか。その辺はわかりませんが、徹底的に原作準拠である以上、映画に罪はないのだけれど、どうにも引っかかってしまいました。

【80】

 

□「ファンタスティック4:ファースト・ステップ

 昨今下降気味のMCUの中で、新たなるフェイズの中心として、かなり期待されてた1本。ファンタスティック4というヒーローのアメリカでの愛されぶりと(ロッテントマトの高評価がわかりやすい)、日本での認知度のギャップがなんだか切ない興行成績に反映されてしまっているのがちょっとかわいそうな感じですが、これからのMCUを占う上でこの映画の成功は相当影響を与えそうなので、否が応でも期待と不安にさいなまれました。

 という訳で鑑賞。F4は続編・リメイク含め4作目となるのですが、映画の完成度としてはさすがに今回が1番。レトロフーチャーを徹底した世界観はめちゃカッコよだし、ストーリーの流れもスムーズ。オリジンは最初にまとめて終わらせ、今回のテーマである家族の絆をメインに押し出しつつ、MCUとしてのやたら広すぎるスケール感満載のスペクタクルなバトルもあり。F4それぞれのキャラも、ヒーローである事の葛藤や苦しみも含め、等身大の人間である事がきちんと描かれて(この内容でのペドロ・パスカルとヴァネッサ・カービー起用は大正解)、総じてツッコミどころが少ない非常に優等生的な映画となっております。

 そう、優等生映画なのです。なので、決してつまらなくはないけれど、なんだか物足りない。キャラは描かれているけれど想像通りのキャラたちだし、ギャラクタスやシルバーサーファーもいい感じなんだけどやっぱりこれも想像を越えない。映画全体がスケール感の割にこじんまりした印象を受けてしまうのは、TVが主戦場の監督のセンスの問題か。やっぱり大画面で観る映画にはそれ相応の演出方法が必要という事を改めて感じましたし、同時期に公開されたパンキッシュなオタク野郎ジェームズ・ガンと比較するとやっぱり圧倒的に物足りないのでした。

 とはいえ序章。これからのアベンジャーズがF5の本格的な活躍の場になるだろうし、そういう意味ではキャラ紹介としては充分役目を果たした映画だとは思います。

【75】

 

■「さよならの朝に約束の花をかざろう

 なるほど渾身の一作なのでしょうが、10代半ばの外見で成長が止まるというところがなんだか気持ち悪いというかしょうがないというか。お話はSFファンタジーの王道なので、そういう些細なオタク趣味が個人的にはどうにもでした。でも力作です。

【70】

 

ここでお得なポッドキャストをご紹介!台東区の銭湯「有馬湯」をキーステーションにお送りする映画やその他社会のもろもろについて私の友人であるアラフィフ男どもが熱く激しく語りまくるポッドキャスト「セントウタイセイ.com」。かなりマニアックなものから有名どこの邦画を独特すぎる視点で時に厳しく、時に毒々しく、だけど基本は面白おかしく語りつくしておりますので、是非聞いてやってくださいませ。

よろしくお願いします‼