「2024年12月鑑賞映画ひとことレビュー」

 

12月の初見本数は28本。

 

■「ワン・フロム・ザ・ハート リプライズ 4Kレストア版

 極才色の人工美溢れる豪華なセットの中で繰り広げられる地味な男女の下世話な痴話喧嘩という、いろんな意味で実験的な巨匠コッポラを破産に追い込んだ大失敗作。ある意味頭でっかちな坊ちゃん監督コッポラの本質というか真骨頂な映画だなあと改めて感じました。

 とにかく全てがズレてるというか、全て作り上げられたセットラスベガスは、その規模や手間も含め非常に贅沢かつ、そのデコレートされたカリカチュア感も魅力的。巨匠ストラーロの観念的な色使いも、いかにもな大作感でいいのだけれど、その超高級な舞台で語られる物語が自己中極まりない地味男とその辺の主婦の浮気絡めた痴話喧嘩というのがなんとも。ある意味これも実験と言われれば…苦笑なんですが、それはそれで意図も含め頭でっかちな学者の考える事だなあと納得できなくも無いのですが、いかんせんそのお話があまりにひどいというか許せないというか。とにかくこの男性至上どころではないマッチョイズムに辟易どころか怒り。到底納得できないラストといい、ここまで女性を蔑ろにしたお話をメロドラマとして描いてしまっているこの違和感というか憤りというか。確かに昨今のポリコレ含め風潮もあるかと思うけれど、これが製作公開された時代でさえ、これはあり得ないと思うのです(その時代を生きて来たのにそこまで断言出来ないのがなんともなのですが)。いずれにせよ自分が浮気しといて嫁の浮気を許せなくて怒りまくる男はやっぱりダメでしょう。そんな怒りが充満しまくりで健康に悪い映画でした。いやナスターシャ・キンスキーを捨てる意味が全くわからないっていう怒りもありましたが(苦笑)。

【50】

 

■「ザ・バイクライダーズ

 年末に飛び込んできた、自分がなぜアメリカに憧れるのか、そしてなぜアメリカ映画を好きなのかを改めて感じさせtくれた大傑作。そう、こういう古き良きアメリカの栄光と、衰退の美学を描いた映画が、自分が若い頃のめり込んだアメリカ映画の本質を久々に感じることが出来た映画でした。

 1965年、シカゴ。不良とは無縁の日々を送っていたキャシーは、ケンカ早くて無口なバイク乗りベニーと出会って5週間で結婚を決める。ベニーは地元の荒くれ者たちを束ねるジョニーの側近でありながら群れることを嫌い、狂気的な一面を持っていた。やがてジョニーの一味は「ヴァンダルズ」というモーターサイクルクラブに発展し、各地に支部ができるほど急速に拡大していく。その結果、クラブ内の治安は悪化し、敵対クラブとの抗争も勃発。暴力とバイクに明け暮れるベニーの危うさにキャシーが不安を覚えるなか、ヴァンダルズで最悪の事態が起こる…(映画.comより)

 ありていに言ってしまえば伝説の始まりと終わりを描いた神話というのが一番わかりやすいところというか、所謂ゴッドファーザーのような伝記映画なのだけれど、とにかく登場人物全員がカッコ良すぎ。ジェームズ・ディーンばりのナイーブさをここまで嫌味なく出せるオースティン・バトラーの芸達者ぶりや、小柄なのに迸るオーラが凄まじいリーダーのトム・ハーディ(とりあえず早くマックス復活希望)をはじめ、全員がそれぞれ人生を感じさせる面構えと雰囲気を持っているのが素晴らしい。組織の拡大とともに古き良き時代が失われ、崩壊していく様を、語り部にその世界の人間では無いという違和感を持つキャシー(ジョディ・カマーの全てを見透かした上でそれでも彼らを愛する人物像が本当に素晴らしいです)を選ぶことにより、冷徹かつ冷静な目線で描くことになり、過度なノスタルジーに浸ることが無いのがまた上手いというか素晴らしい。この辺りは監督・脚本のジェフ・ニコルズのバランス感覚の正確さと、一歩引く事のできる知的さの表れで、その目線の遠さによりかえって彼らの生き様が鮮明に見えるのが本当に素晴らしくまた悲しくそして心に響く。この監督さん、もっと評価冴えて然るべき名監督です。

 ラストの皮肉な展開も含め、時代の終焉と変化に戸惑いつつも決して変わらないものがある事を静かに訴える至極の名編です。

【85】

 

□「アグリーズ(NETFLIXオリジナル映画)

  YAなSFものとしては相応の出来だし、いかにも陽キャ系でこれはこれでいいのかもですが、如何せんセンスオブワンダーが皆無なのが致命的。

【60】

□「ハリガン氏の電話(NETFLXオリジナル映画)

 いかにもキング原作らしい人間ドラマ。この手のひねくれ爺キャラと青年の交流ものはキングの十八番。ぴりっとまった小品。

【70】

□「アンダーワールド 新種襲来

 正直アンダーワールド全く関係無し。この邦題じゃなければそれなりに楽しめるのにもったいない。

【60】

 

□「DAY ZERO/デイ・ゼロ

 フィリピン製なのがちょっと珍しいけれど、ごく普通のゾンビもの。

 

【55】

□「デイ・アフター・トゥモロー2021

 低予算B級映画の教科書のような映画。ある意味勉強になります。

【50】

 

■「クラブゼロ

 うーん、設定やストーリーは中々に興味をそそられるし、決して不出来な訳じゃあ無いのですが、なんだかカッコつけすぎというか、オシャレにふってしまった分テーマ性が薄れた気がするブラックなサイコサスペンス。「健康のためなら死んでもいい」を実践する教師ミア・ワシコウスカのメンヘラカルトサイコ教師っぷりはピッタリでそれなりに説得力はありますが、かと言って彼女に同調していく生徒たちの行動には今ひとつ納得出来ずというか、“思春期“独特の人間性をもう少し丁寧に描いていたらまた違ったかなとも思います。そこも含め、全体に突っ込み不足というか表面的なのが結構気になり、最後まで同調できなかったのが勿体無い映画でした。ただ、この映画の生徒たちと同年齢の人がみたら感想は違うのかとも思いますが。

【65】

 

□「映画検閲

 結構期待していたのですが…怪談チックな雰囲気とおどろおどろしさはいいんですが、もうあと一捻りが欲しかった感。

【65】

 

□「10ミニッツ・アフター」

 考えすぎてこねくり回して観客の事を置き去りにした頭でっかち映画。

【60】

 

□「風雲 ストームライダーズ

 やっぱりこの時代の香港アクションは最高。やりすぎ、大げさ、こけおどしのオンパレードは心地よすぎ。サニー千葉、ひとり演技が日本の伝統芸能で浮いてるのがなんだかかわいい。

【65】

 

□「クロムスカル

 確かにグロはいいのですが、それ以上でもそれ以下でもないのが。アートさんくらいの個性が欲しいところ。

【60】

 

■「クレイヴン・ザ・ハンター

 ついに終了となってしまったSSU最後の映画は、いろんな意味で可哀そうな映画でした。

 スパイダーマンの宿敵として知られ、素手で猛獣を倒すほどの身体能力と五感を武器に戦うクレイヴン・ザ・ハンターが、いかにしてその力を手に入れ、悪名高い最強のハンターとなったのかというクレイブン誕生のエピソード0なわけですが、0で終わってしまいました。で、肝心の出来については、言うほど悪い出来では無いかと。クレイブンという、野性味溢れまくりで殺しまくりのやりすぎいい加減野郎はそれなりに魅力的だし(アーロン・テイラー=ジョンソンのおかげも多分にあるけれど)、お話もかなり雑でハチャメチャだけれど、勢い自体はあるし、どうみてもハンターに見えない、やる気ゼロのぶよぶよラッセル・クロウもどうかとは思うけれど、それはそれでまあしょうがないで済ませる事が出来るレベル。なので総じてここまでコテンパンにされるものでも無いかと思うのですが、如何せんSSUは前科がありすぎ。というかここまで駄作ぞろいのユニバースでは、観客の先入観的にももはや取返しがつかないところまで来ているので、ある程度の出来ではどうしようもないという事なのでしょう。

 それを踏まえて、やっぱり可哀そうな映画だと思います。決して悪くは無いですよ。そこまで良くもないですが(苦笑)。

【65】

 

□「死霊伝説(2024)」

 あの長大な原作を120分でそれなりにまとめ上げたのは素晴らしい。もちろんその分スカスカなのはもうしょうがない。それでもかの「呪われた町」原作としてみなければ良作。

【65】

 

■「はたらく細胞

  まあこういう若者向けイベント映画についてなんやかんや言うのは野暮ってもので、普段映画をあんまり見ない方々や中高生たちが満足して笑顔で帰っていただければそれで充分なのです。そういう意味では皆さん大満足の映画なんだと思います。実際大ヒットしてるようですし。まあちょっとお金のかかってスケールの大きい擬人化コントと思えば、設定含め良く出来てますし、何気にアクション気合入ってるし、妙に泣かせる方向なのもなるほどだし、退屈はさせないようにしてるのは立派。もうそれだけです。

あと永野芽郁さん、可愛いです。

【65】

 

□「ディアボロ 世界一呪われた事件

 仰々しい邦題に比べてチンケ。とにかく主人公の性格が悪すぎて乗れず。

【50】

 

□「劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100

 このシリーズを観たことが無いので、本当の面白さはわからないかも知れませんが、立派な大人たちがクソ真面目に馬鹿な事をやるとこんなに楽しいものが出来るのかという見本のような映画。

【65】

 

□「VETERAN ヴェテラン

 スティーブ・ラング安定のイケ爺ぶり。まあそこ以外は見どころあんまりなし。

【55】

 

■「YEAR10

 人類滅亡から10年、かろうじて生き延びた人々が生存のため人喰いとなる時代。父親を狩られた息子が、父の復讐と恋人のため、狩人一家に戦いを挑んでいくというお話を全編セリフ無しで描いたサバイバルアクション映画。

 元は短編だったものを監督自身の手で長編化したもので、よくいえば個性的、言ってしまえば自主映画的な雰囲気が漂います。なかなかに丁寧でしっかりとした作りで、やりたいことをやっているという喜びと意気込みが感じられて好印象。適度なグロ描写とともに、いかにも低予算な中でしっかりと作ってます。

 まあセリフなしにかなり無理があるし(違和感がありまくり)、主人公の行動がはちゃめちゃというか不合理で物語が破綻してるところが多々あるのだけれど、そこはまあご愛嬌。スタッフロールに同じファミリーネームがいっぱいあったところからしてもみんなで頑張って作ったんだろうなあとなんだか微笑ましい気持ちになりました。

【65】

 

□「リーファー・マッドネス 誘惑の扉」

 カルト作の名にふさわしい狂ったミュージカル。なんだけど、音楽といい、ダンスといい、歌といい、普通に誰でも楽しめる良作でした。

【70】

 

□「セキュリティ・チェック(NETFLXオリジナル映画)

 やたら評価の高い空港警備版「ダイ・ハード」。なるほど、よく出来た映画で、導入からクライマックスまでサスペンスフルな展開が持続、張り巡らされた伏線もお見事だし、流石のジャウム・コレット=セラの手練れた演出もお見事。一気に見せる痛快エンタメ映画です。まあ重箱の隅をつつくなら、脅迫者が姿見せたら終わりじゃんとか、空港の割にセキュリティ全体に甘すぎでしょとか、ラスト強引だなあとか色々ありますが、このレベルの映画が配信で見れる事自体がなんだか嬉しいやら悲しいやらで、ちょっと複雑な気持ちになりました。

【75】

 

□「1987、ある闘いの真実

 良くも悪くも韓国の”熱”を感じさせる1本。映画としての完成度がすさまじく、自国の事件をここまであからさまに描けるのも良くも悪くも韓国だなあと。

【75】

 

■「型破りな教室

 犯罪と貧困が日常化した地域の小学校に赴任した教師が、型破りな授業で子どもたちを全国トップの成績に導いていく姿を、2011年のメキシコであった実話を基に映画化したドラマ。というわけで、言ってしまえば結構よく見るお話なのですが、舞台となるメキシコのとある街の状況の過酷さと、この物語が実話という事実に愕然とします。

 冒頭、車椅子の祖母と裸足の少年が、若いギャングに脅されるシーンに状況が全て集約されているように、この映画は現実から目を逸らさず正面から受け入れます。そんな過酷な状況の中、腐敗した学校に乗り込んだ一人の夢想家(多分この言葉が一番合う気がしました)がどんどん状況に変化を与える様子は愉快で痛快。看過され理解者となっていく校長をはじめ、何よりも生徒たちが生き生きと変化していく様子は観ていて本当に楽しいし、なんだか嬉しくなってしまいます。だからこそ後半の悲劇や展開があまりにも酷く、悲しく、憤りを覚えますが、馬鹿な大人たちの犠牲になる子供たちの状況は変わらないかもしれないけれど、それでも希望と戦うための武器を持つ事の意義と意味をしっかりと伝えるこの映画の意義は本当に大きいと思います。

 主人公の教師を含め、誰もが弱く完璧で無いけれど、ユーモアと知性で乗り切ろうとする、そんな人々の応援歌として、そして、ラストシーンに観られるように、未だ変化のない状況への楔としても意義のある映画だと思います。

【80】 

 

■「ロボット・ドリームズ

 あんまり興味がなかったのですが、ものすごい高評価でロングラン上映してるので、一応観とこうと思い鑑賞。なるほどヒットするのがわかる映画でした。

 擬人化された動物たちが暮らす1980年代ニューヨーク、マンハッタン。深い孤独を抱えるドッグは自分の友人にするためにロボットを作り、友情を深めていく。夏になるとドッグとロボットは海水浴へ出かけるが、ロボットが錆びついて動けなくなってしまう。どうにかロボットを修理しようとするドッグだったが、海水浴場はロボットを置いたままシーズンオフで閉鎖され、2人は離ればなれになってしまう…(映画.comより)

 とにかくアニメーションが可愛い。日本のアニメのようにめちゃくちゃ動いたり、派手な映像表現では無いけれど、グラフィックアートのような1980年代のニューヨークのオシャレ感の中で、ムーミン(なので妙に親近感がある)のようなドッグとブリキのおもちゃのようなロボの、ファンタジックだけれどなんだか妙にリアルな動きが非常に心地よく、細かい所まで(ドッグの尻尾フリフリが可愛い)手が入れられているのもまた気持ちいい。そんなキャラたちを愛でるだけでも十分満足なのだけれど、ドラマとしても非常によく出来てます。孤独なドッグとロボの友情は掛け値なしにプライスレスなもので、その二人が不慮の事情で離れ離れになってからの展開は、至高の恋愛ドラマであり、かつ人間ドラマとして十分に見応えのあるもので、「セプテンバー」の軽快なメロディが涙腺崩壊のキーになるなんてのも、なるほどものすごく考え抜かれかつ丁寧な力作だなあと普通に大感動した次第です。

 …と、素直に感動していたのですが、よくよく考えてみると、この映画結構シニカル。まずロボ。これってドッグが買った友人ロボットで、言うなればドッグを妄信的に愛するように作られたもので、自我が無いというかプログラムなわけです。そんなロボと友情を深めるドッグの行動は、ある意味高級なおもちゃというか、トロフィーワイフを見せびらかすような行為にも思えたりします。またロボが壊れ、離れ離れになっている間、ドッグにあった様々な出来事の中で、リアルな恋人が出来そうな時、ドッグは普通にロボを見捨てようとするわけで、彼にとってロボが代用品でしかない事が結構軽く描かれます。その後、ドッグとロボは思わぬ形で再会するのですが、その時のドッグの状況を見て、ようやくロボに自由意志が芽生えたという風に考える事もできるわけで、なんというかダメ男依存症からようやく成長できたヒロインというか、洗脳から目覚めようやく自由を手に入れた女性の物語という風な見方も出来るなあなんて考えてしまいました。そこも含めて可愛いキャラに隠れているけれど、一筋縄では行かないなかなかに知的な映画だなあと思います。

 まあドッグがあまりに身勝手かつ自己中なのに腹が立つってのもあるのですが(苦笑)。

【75】

 

□「トゥルースorデア 密室デスゲーム

 無理がありすぎ。

【55】

 

□「レイジング・ドッグス

 オチですべてが台無しな珍しい映画。

【65】

 

□「大英雄

 コメディというかコント。でもそれがいい。

【55】

 

■「神は銃弾

 2024年の映画納めは、自分らしく血塗れグログロの犯罪ドラマ。カルト教団に元妻を殺され、娘を誘拐された警官と、元信者で現在もトラウマに苦しむ女性のコンビによる、復讐と娘救出のための闘争を、グロ描写マシマシ、遠慮無しのリアリティで描いた力作。

冒頭、元妻宅が襲われすシーンがあるのですが、ここからしてかなり壮絶。「この映画はこういう感じで行きますので覚悟してください」という製作陣の心意気が垣間見えてヨシ。そこから怒涛のカルト地獄巡りが始まるのですが、全シーンとにかく痛そうだったり臭そうだったり寒そうだったり苦しそうだったりで非常にハードかつ救い無し。とにかく観ている方のHP削りにくる演出のオンパレードで鑑賞後はぐったりでした。

 原作がかなり長いのでお話はかなり端折ってる感じで大雑把。色々?な部分も多く、犯人判明があまりにあっけないのと、警察(というかFBI)何してんねん?って感じだし、正直カルトあんまり関係無いなあなんて思ったりもしましたが、元信者で過去の自分と決別するため、自ら壮絶な死闘を演じる女性のキャラのあまりの魅力にどうでもよくなりました(マイカ・モンロー一世一代の熱演です)。

あえていえば主人公の警官がミスキャストかと。事務方でプロじゃ無いなんて言われている割にその胸板と上腕二頭筋はどうなんだと。全編リアリティを追求している映画の中でそこに妙に違和感を感じました。

【75】

 

ここでお得なポッドキャストをご紹介!台東区の銭湯「有馬湯」をキーステーションにお送りする映画やその他社会のもろもろについて私の友人であるアラフィフ男どもが熱く激しく語りまくるポッドキャスト「セントウタイセイ.com」。かなりマニアックなものから有名どこの邦画を独特すぎる視点で時に厳しく、時に毒々しく、だけど基本は面白おかしく語りつくしておりますので、是非聞いてやってくださいませ。

よろしくお願いします