2023年2月鑑賞映画ひとことレビュー

 

2月の鑑賞本数は22本。

 

■「シンクロニック」

 結構な豪華キャストを使ってのなかなかに面白い設定なのだけれど、どうにもパッとしないのは目的がズレてるからか。そこが観たいんじゃないのよのオンパレードはキツかったです(「アルカディア」もそんな感じでしたね)。

 【60】

 

□「レジェンド&バタフライ」

 キムタク・綾瀬はるかに東映の社運をかけたザ・ギャンブルな超大作。というわりになんともスケール感が小さかったのはちょっと残念。とはいえ徹底的に信長と濃姫に絞ったストーリーではこの感じにならざるを得ないのは当たり前。そこを差し引いても巷で言われるほど酷い映画では全然無く、個人的には素直に楽しめた映画でした。

 とにかく信長と濃姫、この二人を描く事だけに力を注いだこの映画、キムタク・綾瀬はるかのスター映画っていうのが正解で、そういう意味ではそんな立場の映画にこれだけの予算を注ぎこませる二人のスターパワーはさすがだと思うし、実際この映画においての二人は徹頭徹尾スター役者としての見せ方・演じ方をしていたように感じました(ミエの張り方や押さえ方、一般のファンが持っている各々へのセルフイメージを意識した立ち振る舞い等々)。なので時代劇大作とか、リアル戦国時代とかでの批判や批評は的外れ。まあそんな映画に社運をかけてしまった東映のトンチキぶりはなんともですが。

 それでも大金をはたいた美術は素晴らしいし、それに答えた二人の熱演はお見事。パブリックイメージありきの綾瀬はるかのツンデレお姫様や、ザ・キムタクが映画が進むにつれキャラクターとして同化していく様は見応えがありましたし、実際戦国時代の実在武将をネタとしたインスパイアものとしては上出来な映画だったと思います。

 まあスター映画なので二人(特にキムタク)が嫌いな人には絶えられない映画だとは思いますが、それを言ったらおしまいよなんで。ちょっと長すぎたり、ここまでやったならラストは夢物語で終わっても良かったかなとは思ったりしますが、あくまで個人的には二人のスターの熱演からの悲恋物語として堪能いたしました。

【75】

 

■「犬も食わねどチャーリーは笑う」

 まあファンタジーなので、現実的に細かいところをぶつくさ言ってもしょうがないのですが、前半が良かっただけに後半のしりつぼみ感がもったいないというか。泣かせようとするところがちょっと引っ掛かったりもします。香取慎吾のアイドルオーラゼロ感が素晴らしいです笑

【70】

 

■「ナルヴィク NETFLIXオリジナル映画」

ノルウェー制作、史実を元にした第二次対戦映画。ものすごく真面目、かつオーソドックスな作りの中にリアルすぎる戦闘シーンが胸を打ちます。ただそれ以上でもそれ以下でもないのが苦しいところ。

【65】

 

□「ピンク・クラウド」

 突然致死量の毒を持ったピンクの雲に包まれ、一切外に出れなくなった人々の10数年にわたる混沌を描いた実験的シチュエーションサスペンス。っていうかもろコロナ化の世界のカリカチュアなのだけれど、コロナ化以前に制作されていたのがこの映画にはタイミングが良かった感。

 とりあえずシチュエーション的にも思考実験的な要素が強い物語で、徹底的に隔離された世界で起こる様々な出来事や心理状況などを、あるゆきずりの二人を通して描いているのだけれど、コロナ禍を経験してしまった身としては、家族を含む他者に対する関心の薄さの増大や、肉体と精神のバランスの崩壊などが恐ろしくリアルだし、その環境の中で育ってしまった子供の行動などは人類滅亡への恐怖にまでつながるような終末感はなかなかに知的。

 とはいえ全体に薄っぺらい印象も拭えす(それぞれの行動が予定調和的に思えるのは単純に想像力不足なのかも)、特にこの手の映画に爪の甘さに文句をいう筋合いも無いかもだけれど、SF者としてはここまで断絶された世界で、政府やインフラなどの社会性が保たれていることがどうにも理解不能というかあり得ないでしょっていう疑問が引っ掛かりまくりで映画自体に集中できなかったのがなんとも切ない感じではありました。後、これも野暮かもだけれどピンク・クラウドの絵的なセンスが壊滅的に悪い(というか一昔前の自主映画レベルなのはなぜ?)のもなんとも。言ってしまえばコロナ禍でなければ劇場公開されたか怪しいレベルの映画かなあという印象でした。

 決して派手では無いけれど良くも悪くもリアリティを持ってしまった、いわゆる旬な映画なのは間違い無いです。

【65】

 

□「FALL フォール」

 地上600メートルのテレビ塔の頂上に取り残された女性二人の必死のサバイバルを描いたシチュエーションスリラー。

 いやー怖い。600メートルといえばスカイツリーとほぼ同じ。めちゃくちゃ貧相な作りなのにその高さなのがそもそも恐ろしすぎるテレビ塔に、クライミングしようと計画してしまう無茶すぎる二人も(ある意味)恐ろしい。案の定梯子が崩壊して取り残されるという恐ろしすぎるシチュエーション。携帯は電波無し、水も食糧もほとんど無い。周辺は荒野で人通りも皆無。とにかく思いつく限りの機器的状況詰め込みました的な中での、二人の知恵を勇気を振り絞ったサバイバル。高所恐怖症には恐ろしすぎる、アイデア勝利の怪作でした。

 ネタバレになるので詳細は言えないけれど(実際知らない方が絶対楽しめるので)、ピンチに次ぐピンチに対する二人の行動が、非常に驚きかつ納得できるのが素晴らしい。あえて隙の無い死確定のピンチを考えてから、解決策を考えるシナリオ技法で作ったかのよう練りに練られたなスリルを味合うのは久々の経験。それだけでも感動なんだけれど、地上600メートルをここまでリアリティ溢れる空間に作り込んだ映像も素晴らしい。とにかく今絶対絶命の高所にいるという体感は半端無く、下腹がキュッとなる瞬間のオンパレードなのはこの映画が成功しているという証でしょう。女性二人の人間ドラマもおざなりにせず結構ちゃんとしているし、キャラに感情移入できるように描いているのも好感度大。まあちょっと盛り込みすぎなところもあったり、主人公の成長度合いがゆっくりすぎてイライラするとこもあるけれど(そしてそれほど感動的でも無いのも素敵ポイント)、それも含めて愛すべき映画でありました。

 ワンアイデアをひたすら突き詰め、スリルとサスペンスを追求した結果のザッツ・エンタテイメント。本当にお手本のようなB級映画です。

 【75】

 

□「バイオレント・ナイト」

 昨今のサンタさんはストレスが溜まりまくりのようで。まあ近頃のガキどもイ(もちろんごく一部ですよ)を見たら、素直にプレゼントをあげようなんて気にはならないのは同意しますが、ここまでやさぐれたサンタさんを見るのはあなんだか切なすぎです。

 そんな自暴自棄なアル中サンタVSセレブのクソ餓鬼+クリスマス嫌いの凶悪殺し屋VS富豪の家に押し入った凶悪強盗団という異色すぎるアクション・コメディ。

 いやまあこういうのは設定自体の面白さとアクションが全てなので、その点ではさすがの87イレブン。工夫を凝らしたアクションの数々は観ていて楽しいし、クリスマスなのにグロ満載なのもなんともいい感じ。バイオレンス満載の映画のわりに狂悪殺し屋のバックストーリーや富豪一族の純真なお子様など、そこここでなんだかいい話が出てくるのもクリスマスっぽくて良。散々苦労したサンタさんがそんなお子様のためにベルセルク化するのも基本に忠実でほのぼのでした。レグイザモ師匠も安定の小悪党ぶりだし、トナカイさんたちの迷演も含め、総じて楽しい映画でした。

【70】

 

■「独身の行方」

 ジョニー・トーさんの至高の手捌きを味あえる逸品。

【70】

 

■「ルパン三世VSキャッツ・アイ Amazonnプライムオリジナル映画」

 なんだかんだでよく出来てました。ルパンがもはや普通にいい人なのはもうしょうがないけれど、キャッツアイさんたちもなんだかスキル高過ぎでちょっと引きました。

【60】

 

■「鹿の王 ユナと約束の旅」

 ストーリーと映像があっていない感が。ジブリ風では無くもうちょっと大人向けな絵が欲しかったような。甘い話になってしまったのがもったいないかなと。

【65】

 

□「バビロン(2022)」

 さて。デイミアン・チャゼルです。確かに初監督作「セッション」は傑作でした。ラストのライブシーンは往年のコーエン兄弟を観ているかのような完璧に構築されたパズルのような興奮を味合わせていただきました。で「ラ・ラ・ランド」。言いたい事は山ほどありますが、音楽があまりに良かったので良しとしましょう(偉そう)。そして問題の「ファースト・マン」。これで気付いてしまいました。ああこの人”中二病”なのねと。

 俺は凡人とは違う、選ばれし人間でいつか世界を救う英雄なのだとなんの根拠もなく思いこむ人の事を”中二病”と仮定するといやこの人は真性の中二病。宇宙開発の英雄を描いた映画のクライマックス、月面着陸でそのシーンをあえて描かない選択をするという暴挙がその証拠。まあそんな大発見的にいう事でもないのですが(正直どうでもいいのですけど笑)、どうにもノーランと同じ匂いがしてきたなあっていうのが正直なところで。でも新作は映画館で見てしまうのですけれど。

 で。そんな絶賛中二病のチャゼルさんが今回選んだのが古き良きハリウッド黄金期。象のクソから始まるこの映画、クソだけじゃなく、ゲロやら露骨なセックスやらドラックやらの倒錯したギミックが氾濫しまくりのやたら下品で露悪なこれみよがしなクリティクス感がもう恥ずかしいというか、若いというか。ケネス・アンガーのハリウッド・バビロンの根底に流れていた映画全てへの敬意(リスペクトっていう感じですかね)が一切感じられず、教科書で習った歴史そのままを、研究者として映画にしました感が端々から滲み出てるのは、中二病の秀才というチャゼルの悪の部分そのまま。ブラピ(あんまりやる気無し)やマーゴット・ロビー(やる気が空回り)のキャラが典型的で深みが無いのもそんなお勉強監督の限界なのかも。トーキー云々の絡みで「雨に唄えば」を引用してしまうその精薄さもその一つ。秀才なんだからもっと他にもその絡みで重要な作品があることはわかっているだろうに、こんな超有名作を引っ張り出さずにいくらでもやりようあったでしょうよって恥ずかしくなりました。極め付けはクライマックスの重要映画フラッシュバック(この言い方で間違って無いかな?)。正直こんな方法で映画史をまとめ上げ、映画というものの持つ力を高らかに歌い上げてしまうのは傲慢以外何物でもないと思ったのは自分だけでは無いはず。

 とにもかくにもチャゼルの限界が見えた愚作でした(とはいえエログロに溢れたパーティシーンややっぱり最高な音楽、ゴージャスや役者陣などはそれなりに楽しんだんですけど笑)。

 【65】

 

□「対峙」

 高校で起きた生徒による銃乱射事件の被害者家族と加害者家族の対話を描いたヒューマンドラマ。事件から6年後、息子の死を稲田に受け入れられない被害者家族がセラピストの勧めで、事件後にそのまま構内で自ら命を絶った加害者の両親と会って話をする機会を得るが…。

 基本的には会話劇で、教会の一室で対話する両家族4名のあまりに辛すぎる対話を、真面目に真剣にそして徹底的に考え抜かれた演出と地味だけれど実力ある役者たちで見せ切る非常にレベルの高い映画でした。

 最初のぎこちない挨拶から、ある一言で怒涛の展開に進んでいくのだけれど、被害者・加害者両方の立場がきっちりと描かれているので、被害者はもちろん加害者も一種の被害者であることが、これみよがしでは無く(ここ重要)理解できるのが素晴らしい。もちろん救いは無いのだけれど、表面的な冷静さが崩壊し、罵詈雑言が飛び交う中で心の中の苦しみ憎しみを吐き出し、その過程を経て一種の許しを得る両家族のセッションの中での葛藤を素晴らしいセリフと演技により、全ての登場人物に感情移入出来るようにみせるそのシナリオと演出力はこれが初監督作とは思えないほどの完成度。しっかり意図が伝わる真摯な映画でありました。

 実際、キリスト教文化圏では無い日本ではこの結末への流れに一抹の疑問は感じたりもします。それを含めて様々な問題提議がある映画でもあるので、贖罪と赦しという事について考えるきっかけになる映画でもあるのかあというのが感想でもありました。そういう意味でも非常に有意義な映画であると感じます。

 しかしあの大傑作「XYZマーダーズ」の主役がこんなに立派な大人になって…っていう違う意味でも感動がありました笑

【75】

 

■「カナディアン・エクスプレス」

 初見では無いですが、すっかり忘れてましたので。いやーさすがの快作!稀代の職人ハイアムズ先生の芸術的な職人芸をたっぷり丹野させていただきました。

【75】

 

□「アントマン&ワスプ クアントマニア」

 どうにも世界を広げ過ぎたマーベルの迷走っぷりがどうにも明らかになってきている昨今、新たなアベンジャーズへ向けての第一歩となる本作ですが、なんとも言いようのない映画となってしまっておりました。

 そも「アントマン」といえば特殊能力を持たないごく普通の(とはいえスキルは高いけれど)等身大のおちゃらけ小市民お父さんがなぜかアベンジャーズっていうそのギャップとリアリティが売りだったと思うのだけれど、今回はその要素がほぼ皆無。80年代的などこかで見たようなキャラクターたちがいっぱい登場するチープな量子世界を舞台に、どこかで観たような大味なストーリーが展開されるという、おおよそ「アントマン」の良いところ以外が全て発揮されてしまっているというなんとも言いようの無いズレた映画となってしまっておりました。ここまで予定調和で王道すぎるストーリーを個性皆無な映像で見せられると、どうにもマーベルの今後に不安しかないのですが、これについては監督さんの適正もあるのではないかと思われます。実際、現実的なコメディで名を売った監督さんなので、量子世界以外での現実世界のシーンはさすがの切れ味、面白みなのに、量子世界に入った途端、無個性になってしまうのはこれはもうセンスの欠如としか言いようがないかと。ファイギにしては珍しい選択ミスで、この手の映画は世界を作れる人間じゃないとやっぱり難しい事を改めて感じました(量子世界のポール・ラッドの精気のなさが全て)。ビル・マーレイの無駄使いっぷりやミシェル・ファイファーやマイケル・ダグラスのやる気の無さもなんだか迷走気味感が漂っていて本当に心配。「エンド・ゲーム」以降のフェイズがどうにもパッとしないのは芯となるヒーローの不在が大きいと思うのだけれど、それを征服王カーンさんが担えるかどうかが以降のマーベルを大きく左右すると思うので、その紹介となる今回の映画がこの出来だと結構不安に思ってしまいました。

【75】

 

□「BLUE GIANT」

 ジャズを題材にした人気コミックのアニメ映画化。原作好きなのでそれほど期待せず観たのですが、これが興奮と感動に満ちた傑作でありました。

実際、音楽を題材にしたコミックだと(当たり前だけど)音楽自体は想像しかできないわけで、素晴らしい声とか身を震わせる音とかセリフで語られてもそれは読者の頭の中での最高の音でもちろん基準なんか無いので、いざ映像化の時にそこをどう処理するのかが重要な問題なわけです。そこから開き直って逃げた「BECK」は論外として、色々な映画で色々な努力や工夫がなされているけれど、正直原作を超えるものは今まで出会ったことがありませんでした。それが今回まさかの原作超え!と叫びたくなるくらいのライブシーンの興奮度。実写も含め、ここまで興奮するライブシーンは昨今記憶にないくらいの素晴らしい完成度で、正直音楽については全くど素人である自分でも感じるくらいの素晴らしさでした。一切逃げず、完全オリジナルで勝負した上原ひろみをはじめとするトリオの方々の、ジャズに対する愛情がまっすぐ伝わってくるその演奏は、揶揄されているモーションキャプチャーの不出来さを差し引いても情熱が伝わってくる気持ちよさ。とにかくジャズをなんとかしたいという演奏者や愛好家たちの熱い思いが画面から溢れ出ていたのが本当に感動的で、映画の出来云々を遥遠くに置いてきてしまうくらいの衝撃と興奮、映画館でリズムを取ったのは初めての経験でした。

 実際原作コミックの出来が素晴らしいのだけれど、あえて2時間にまとめやすい東京編を崩すことなくその中に金沢編のエピソード交えつつまとめ上げたシナリオもお見事だし、声優たちもそれぞれ自然体で素直に入ってくるのも好印象(まあ大だけは個人的にちょっと違いましたが)。ラストの改変については映画としてはこれが正解なのは重々承知の上で、それでもやっぱり具体的な目的を持ってしまったが故にそこまでだった不運の天才と、ただ勝つために突き進む天才の光と影という原作のテーマにおいてはちょっと…という思いもあるけれど、それはそれかと。凡才の星玉田くんのドラマももうちょっと観たかった気もするけれど、ジャズを通じてそれぞれの成長と挫折、そしてそんなトリオに関わる全ての人のドラマをそれとなくなのにしっかりと泣かせる演出。ジャズへの啓蒙映画としては100点満点なハイカロリーな快作。

【80】

 

■「PANDEMIC」

 最近この手の観すぎて区別が付かなくなってきています。

【50】

 

□「ベネデッタ」

 齢80!にしてますます盛んなヴァーホーベン先生の不謹慎もいいとこな最高に下品でオゲレツで悪趣味な超怪作。

 17世紀、現在のイタリア・トスカーナ地方にあたるペシアの町。幼いころから聖母マリアと対話し、奇跡を起こすとうわさされていたベネデッタは、6歳でテアティノ修道院に入る。ある日、彼女は修道院に逃げてきた若い女性バルトロメアを助け、やがて二人は秘密の関係を結ぶようになるが、ベネデッタが新しい修道院長に就任したことで波紋が広がっていく…(Yahoo映画より)

 いやまあこの実話を映画化しようとしたところからすでに先生の先生たる所以なのですが、まあ映画もそんな先生のやりたい放題。どうみても胡散臭い詐欺師で狂人のベネデッタがここまで魅力的かつエネルギッシュに大活躍なのはもう先生の独断場。一貫してのこの路線は本当に頭が下がります。もうストレートにキリスト様が殺しまくり犯しまくりなのがもうここまでくると痛快レベル。悪女ベネデッタがその強烈な信心からの狂気の中で欲望のまま行動していく様なんて普通に考えたら恐怖以外の何物でもないのに、聖なる人物ように魅力的に見えてしまうのは、先生の主義主張である人間は全て平等的な思考が終始貫かれているからこそ。教会の悪辣ぶりや兵士の暴虐ぶりに加え、ペストの恐怖からパニックになる群集まで、果ては性別・年齢・階級の区別なく全てを差別や区別なく描けるその公平すぎる目線は初監督作から一貫してあるもの。ここまでエロやグロや悪趣味が散乱しているのになんともいえない清々しさは絶望からの神のごとき慈愛と怒りからなのかもしれません。

 先生のそんな熱意に煽られてか、シャーロット・ランプリング(素晴らしすぎる俗物っぷりが最高)をはじめとした役者陣の捨て身の開き直り熱演が人間の本性を炙り出しまくる、ある意味非常に真っ当なヒュマーニズムに溢れた映画であるのかもしれません。

【80】

 

□「ボーンズ アンド オール」

 この前の「サスペリア」でも思ったのですが、教科書というか計算というか、「映画を学術的に研究してますよ」「僕って頭いいでしょ」的なマウントがプンプンしているのがどうにもイラッとしてしまグァダニーノ監督作。

 生まれつき人を食べてしまう衝動を持った少年少女の魂の迷いを救済を描いた純愛ホラーっていうお題目ですが、確かにギミックやグロさ(妙にリアルなのがまたイラッとする)はホラー映画としては素晴らしく良くできているし、演技・演出や映像的にも一級の完成度だし、ストーリー的にももっとふわっとしたものを想像していたけれど何気にきっちりホラー映画だったのには好感持てたりもしました。想像を絶する宿命を背負った若者二人の血と肉汁に塗れた地獄巡りロードムービーとしてもそれなりに楽しいし、マーク・ライランス演じる変態食人族の存在感(白ブリーフとともに)はたまらないホラー臭だけれど、それがあまりに映画論的に的確で美しすぎる映像美で描かれるのはなんとも居心地が悪いというか、この手の映画で一番愛すべきばかな勢いが皆無だからか。ティモシー・シャラメとテイラー・ラッセル(実質はこっちが主役です)の二人の人気者の”美しすぎる作られた狂気”感が非常にムカムカするのはそんな操ろうとする計算がにじみ出ているからなんでしょう。

 とはいえこれに関してはB級映画ファンとしての妬み・僻み・嫉みがあるのも悲しいかな否定できないし、映画の完成度(内容以外)に関してはA級の風格があるのがまた面倒なところ。実際純愛ホラーとして、スプラッター系としても十分に楽しめる映画である事は否定できないわけで。そこがまたムカつくというか悔しいというか…

【70】

 

■「ブレイクダウン」

 我らがガイ・ピアーズ主演のザ・B級地味目アクション映画。これはこれで嫌いでは無いけれど、やる気の無さが全編溢れてるのはちょっと切ない…

【50】

 

■「MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」

 話題になっただけあって非常に良くできて楽しいタイムループコメディ。舞台的にも内容的にも芝居的な映画ではあるけれど、気を衒いつつも絶妙な伏線と、現代日本以外ではありえないようなシチュエーションをタイムループに組み込んだギミックの面白さは最高。それに加えての本筋の王道なストーリー展開はなかなかに知的で、考え抜かれた映画を観た時の驚きと笑いらくる興奮を久々に味わいました。まあそこここでの芝居的な小ネタが映画としてのバランスを崩しているのも勿体ないし、それかよっていう謎解きからの展開も強引かつ狙いすぎな気もしないでは無いですし、それじゃない感は結構しましたが、それについては自分がおっさんだからっていう理由もあるかなと。兎にも角にも話題になるだけの面白さがある愛すべき快作でした。

【75】

 

□「逆転のトライアングル」

 まあカンヌが好きそうな映画だなあってのが第一印象な底意地の悪いブラックコメディ。オープニングの男性モデルたちのハイブランドとH&Mの顔の使い分けから、全編通じて一貫して格差社会のカリカチュアをあの手この手で強烈かつブラックすぎる笑いで描いているのが、あまりにあからさますぎてかえって好印象なのが面白い。まああまりにあからさますぎて逆にシニカルさが鼻についたりもするけれど、それも含めての監督の個性なんでしょう(前作の「ザ・スクエア」もそんな感じでしたし)。

 登場人物全員が嫌な奴というか、セレブはセレブらしく、下層民は下層民らしく、成り上がりは成り上がりらしくパターン通りのムカつく奴らっていうのもなんだか単純だし、ヨットが嵐に巻き込まれる中でのゲロ満載のパーティシーンや、海賊に襲われ沈没寸前の混乱の中での船長とロシアンマフィアの全く意味のない政治談議など、あまりにわかりやすくてかえって引いてしまうくらいなのは、勿論計算とはいえ少々考えなしに感じてしまいました(まあ策略にハマってるのかもですが)。

 それを踏まえ、後半の立場逆転シークエンスにおいてもいかにもな展開と言えば展開で、驚き自体はないものの、清掃員がかなり欲望に忠実な自我を持ったある意味リアルなキャラであったのがなんとも上手いというか卑怯というか。

 ラストの衝撃的な展開についても、酷過ぎるけれどある程度納得なのは、観てる自分が清掃員側だからであろうし、それまでの経緯のモヤモヤ感も含め、計算高い映画でした。そういう意味で、批評家ウケはするだろうけれど一般観客には受け入れられ無い、受け入れたくない、そんな映画です。

 しかし最近のこの手の映画におけるゲロ率がやたら高いのはなんなんでしょう。ゲロっとけば格調高い的なメソッドでも出来たのでしょうか笑

【70】

 

□「ワース 命の値段」

 人々の人生そのものに値段をつけられるのか?そんな究極の難題に挑んだ弁護士たちの苦悩を描いた実録社会派ドラマ。

 9.11テロの発生直後、約7,000人ものテロ被害者に補償金を分配する国家的な大事業に挑む弁護士ケン・ファインバーグ。犠牲者遺族の苦悩と向き合いながら、前代未聞の難題に立ち向かって行く。

実話がベースの物語だけれど、このようなまだ時がそれほど過ぎていない、しかも関係者がほぼほぼ存命な中で映画化されるその事実に、アメリカにおける映画の存在がいかに高いものかわかりますが、それを差し引いても非常に真面目かつ真摯な映画でありました。

 実際、この主人公の弁護士、結構嫌な奴です。この事業を引き受けたのは明らかに名声を得たいという欲だし、そもそも調停人という賠償金を踏んだくる事を得意技にしているというハイエナ的な弁護士な訳で、映画としても最初はそのように描かれています。部下の弁護士たちが被害者の苦悩に対して人間として共感して行くにもかかわらず、この主人公はあくまで自分のテリトリーでの問題として処理しようとしてその意固地なプライドに結構ムカつきますし、おおよそ感情移入出来ないキャラとなっています。

 それがある被害者との出会いにより変化して行く訳ですが、映画としての見せ所であるそのシークエンスがどうにも弱いというかわかりにくい。物語の分岐点となるその出会いとなる人物像が、確かに非常に人間臭いとはいえパンチ力不足な気がするのは、もっと劇的な作り込みを求めてしまった観ているこっちの過度な期待なのかもだけれど、実際フィクションとしての作りであれば弱いのは事実かと。そういう意味で真面目さがエンタメとしてはちょっと仇になった感もあります。実際のところ、他のキャラ、特にスタンリー・トゥイッチの変人だけど人格者な被害者代表、ある意味わかりやすく変化して行く仲間の弁護士たちに比較すると主人公のキャラがちょっと理解しにくいキャラになってしまっているのは勿体ないかなという印象がありました。

 でもそれはほんとに観客としての野暮な欲であって、例えば「ユナイテッド93」の強烈すぎるサスペンスや「ワールド・トレード・センター」のパニックサスペンスの感動であったりを求めてしまうのは違う訳で、マイケル・キートンが渾身のなりきり演技で紡ぎざす静かな苦悩と人々への尊厳と苦しみに対する努力と犠牲の精神をこちらが読み解く努力が必要な映画である事を理解してナンボなんだと感じました。

 ちょっと何言ってるのか分からなくなってきましたが、いずれにせよこのような偉業がこうして映画として残されるという事実に作り手の真摯な心意気が感じられて、それに一番感動しました。

【70】

 

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