「2023年1月鑑賞映画ひとことレビュー」

 

1月の鑑賞本数は32本。今年からリバイバル上映で劇場鑑賞した映画も記録として記載していきます。

では。

 

■「モルグ 死霊病棟」

 今年1本目がこれっていうのがなんとも。真面目でグロかったけれどそれ以上でもそれ以下でも無し【60】

 

□「ラーゲリより愛をこめて」

 第二次大戦後シベリア抑留からの強制収容所の過酷さについては様々な文献や映像が残っていて、この辺見じゅんのノンフィクションについても知識があったので、ある程度の内容は知っていました。それを踏まえて、やはり現代の役者・スタッフたちには荷が重かったっていうのが正直なところ。

 二宮君をはじめ、松坂桃李、安田顕、桐谷健太などそれなりな昭和顔役者たちが揃ってほんとに真面目に真剣に、この壮絶かつ心温まる物語を伝えようとしているのは伝わるし、この時代にこういう映画を作る意義も崇高で尊敬すべき思いもあるけれど、どうしても消費される娯楽としての比重が重いように感じてしまったのは昨今の大手邦画の悪しき流れといったところかなと。

 実際オープニングからの戦争〜収容所のシーンに悲壮さや悲惨さが足りなく感じてしまうし(リアルさと言ってもいいかも)、特に最近の海外戦争映画と比較するとそのファンタジーさは明らか。その甘さで映画に締まりがなく予定調和な感動ものに堕しているのが勿体ないというかしょうがないというか。今この物語を語る意義を本当に成し遂げようとするならば、そこの覚悟がもっと必要だったのではないかとは思いました。戦闘やラーゲリでの犠牲者やグロテスクな描写が殆どなく、戦争に対する明確な思想も思考も執拗かつ巧妙に隠した中で、あくまで不幸な人生のただの原因としてあっさり描いてしまっていると感じてしまう事に、大袈裟に言ってしまえば現代日本の病巣を見てしまった気がします。 

 あくまで物語としては良く出来ているし感動もしますが、本当にこの映画で感動する事に感じるちょっとした抵抗感がなんとも言いようのない気持ち悪さを感じてしまうのです。

【70】

 

■「ナイブズ・アウト:グラスオニオン」

 本格ミステリ映画としてなかなかに楽しかった「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」の続編でNETFLIXオリジナル映画。

前作もそうだったけれど、今回もノリノリのダニエル・クレイグVS曲者俳優という古き良きクリスティ映画の趣。成り上がりセレブと取り巻き達の、殺人事件を発端として暴かれる愛憎劇を、癖ありまくりのキャラ達と、ザ・職人芸なユーモア溢れるおしゃれな語り口で見せきってしまうさすがの快作でした。

 殺人ミステリーゲームから始まる物語は、一貫して成り上がりセレブ達の胡散臭さと馬鹿っぷりを強調。唯一の常識人でありそうな人物でさえ好感をもたれないようにいちいち癪に障る描写を加えているのにも徹底的な悪意と底意地の悪さを感じて最高。エドワード・ノートンをはじめとした芸達者な役者陣がそんなクソ野郎どもを嬉々として演じているのがまた巧妙かつ痛快で、空疎で浅はかなセレブリティを徹底的に馬鹿にするその展開もなんだか胸がすく思いでした(至る所に仕掛けられているセレブへの意地悪が本当に手がこんでるのがなんとも性格の悪さが出ててそこもまた)。

 ミステリとしてはミスリードありきな展開で、結構反則もあるけれど、まあそこはご愛敬。映画としての面白さを優先した結果としてはありなのかなと。

 ただこういう映画こそ映画館で集中すべき映画であると思うのですが、勿体ないというか切ないというか。

【75】

 

□「カンフースタントマン 龍虎武師」

 正直香港映画ほぼ初心者には語る資格のない映画ではありますが、それでも映画のアクションにまさに命を張った漢達の生き様には泣かずにはいられない、そんな映画バカ一代達の魂の聖典。

 香港アクション映画の根本を支えてきたスタントマン達の歴史から、発展、反映、そして苦難からの未来への希望を人間業とは思えない驚愕のアクションシーンとともに語り尽くす90分。昔の映画屋はどこの国でも同じなんだなあと妙に嬉しく思うと同時に、現在の状況もまたどこの国でも同じな事を改めて感じさせられました(宵越しの金は持たねえ的な刹那的な生き様がまたかっこいいというか愛らしいというか)。伝統芸としての香港アクションスタントの歴史と伝統、そしてそれを継承していこうとする若者達という構図はまんま日本の伝統工芸に継承問題で、香港におけるアクションは本当に国の誇りであるという事を再確認しましたし、激動の香港においてその伝統を守っていこうとする心意気にはやっぱり敬意を感じてしまいました。

 ブルース・リーの伝説の人ぶりやサモハン兄貴のパワハラ(笑)ぶりに驚きつつ、ジャッキーの扱いの少なさや冷たい目線(と感じてしまうのは気のせいでしょうか)がなんとも微妙。それでも冷静に現状を見つめつつ伝統を継承していこうとする若手達に頼もしさを感じつつ、映画の転換期である事を痛感させられる佳作です。

【75】

 

■「ラン・ハイド・ファイト」

 ハイスクール版「ダイハード」としてなかなかに良く出来てるアクション。高校内の銃乱射事件をここまでエンタメにしてしまっていいのかという引っ掛かりはあるけれど、そこは割り切るべきかと。主人公側よりも犯人達のキャラ立ちがなかなかに狡猾で工夫があるのがなんともアメリカ的な普通に楽しめるアクション映画。

【75】

 

■「川の底からこんにちは」

 いかにもCM系な監督の映画だなあっていう印象でした。普通じゃない事を普通に描こうとするその上から目線感性がどうにも苦手。

【70】

 

□「非常宣言」

 コリアンパワーここにありな大スケールの一大航空パニック映画。飛行中の旅客機にウィルスがばら撒かれるテロ事件が発生なんてハリウッドのB級系でさんざかあった展開を、怒涛の力技とツボを抑えた泣きドラマで豪快に突っ切った141分。まあいろいろとストーリー的にはツッコミだらけだし(いや実際ワクチン製造速すぎでしょ笑)、非常宣言って言ってる割にはあんまり関係無いし、クライマックスに至ってはイ・ビョンホンの暴走だし、ってな事でまあ冷静になればはてなマークの連続なのですが、それでもここまで見せ場を盛り込み泣かせよう、ハラハラさせよう、ドキドキさせようなんてサービス精神ありまくりなのはやっぱり気持ちいいものです。登場人物全員がいかにもなステレオタイプでコマとしてしか機能していないにもかかわらず(なんで韓国のサイコパス系はみんなアイドル顔なんでしょうか)、それなりに見せてしまうのはさすがの名優揃い。世界を巻き込んでの殺人ウィルス旅客機の逃亡劇はいろいろな国への忖度と国内感情に配慮した気持ち良くないところもちくっとするけれど(自衛隊にこれくらいの行動力があれば笑それでも日本政府の対応には結構感動したけれど)、それぞれのシーンの真面目でしっかりとした作り込み、ドラマつなぎとしての違和感の無さ(まあ豪腕なのも含めて)イ・ビョンホンさんやソン・ガンボさんの迫真の演技も含め、しっかり楽しめるエンタメ大作でした

。いやーほんとエンタメにかける韓国の力技には感服ですわ。

【75】

 

■「LOU NETFLIXオリジナル映画」

 昔ながらの孤高のハードボイルドアクションドラマを女性に置き換えただけな感じではあるけれど、それなりに楽しめます。ただもう少し女性て言う視点があれば。主人公のシワが良かった。

【70】

 

■「ファイナル・アワーズ」

 よくある地球最後の日の過ごし方映画だけれど、何気に人間ドラマとしてきっちりしていたのでびっくり。この手の完成度が高いのはゲームの影響が大きいのでしょうねえ。

【70】

 

■「エスケープ・ルーム2:決勝戦」

 前作もそうでしたがここまで手間暇かけてゲームを作り込む主催者側になんだか尊敬の念を抱いてしまいました。映画としてはとっ散らかってまとまりゼロな残念な出来。

【55】

 

■「黄龍の村」

 前半と後半でガラッと変わるオチ映画ではあるけれど、なるほどこの監督が出世してるのはうなずけます。とはいえ全体に漂う素人感はやっぱり気持ち悪いし、軽さがカッコつけから抜け出ていないのがどうにも若いかなと。

【50】

 

■「リサと悪魔」

 マリオ・バーヴァ師匠のゴシックホラー。これはもう当時の雰囲気を雰囲気として楽しむのが正解。

さすがのムード満点な絵作りと仰々しさがたまらない。【55】

 

□「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」

 Me Too運動のハッタントなったワインスタイン性的暴行事件を告発した記事を書いた女性記者達を描いた実話もの。

 実話がベースで当事者のほとんどが生存している今、このような骨太かつ娯楽に溢れた映画が作られるのがアメリカ映画の強み。決して性的暴力事件に対する強硬な告発だけではなく、女性記者二人のキャラクターをしっかりと描きこみつつ、サスペンス・ミステリーとしてのスリルと興奮を味合わせてくれるのは大統領更迭さえエンタメにしてしまった国の面目躍如と言ったところ。得てしてこの手の映画は主張ばかりが声高になり胸焼けを起こしてしまいがちなのだけれど、男性VS女性と単純な構造ではなく、あくまで犯罪者を告発すると言う二人のスタンスがまた素晴らしく(それなりに隠喩的な女性蔑視に対する問題定義はあるけれど、あくまでそこは主眼では無い)、ドラマとしての起承転結をしっかり作りつつ、犯人そのものでは無く、被害者を描いていくことにより性的暴行と言う暴力はいかに被害者を傷つけ、破壊するのかその影響の巨大さを改めて痛感させるその描き方にも伝統(って言うと語弊がありますが)を感じさせるのが流石。主役二人をはじめとする自然体な演技も含め「大統領の陰謀

」Me Too版として後世に語り継がれる社会派娯楽映画と言えるでしょう。評判が非常に良かったこの映画、しかしながら今年のアカデミーでは黙殺。

問題は根深い気がします。

【80】

 

■「モスル あるSWAT部隊の戦い」

 ISISに家も家族も故郷も奪われたSWAT隊員が命をかけてゲリラ戦を仕掛けていく戦争アクション映画。とにかく悲惨かつ悲壮な戦場の描写が秀逸。命令を無視し、独立部隊然としたSWAT隊員達の本当の目的が明らかになった時の悲しみと怒りは、これが実話ベースと知った時に余計深まりました。ものすごく真面目で真摯な映画。佳作。

【75】

 

■「マイ・ブロークン・マリコ」

 イメージ一新の永野芽郁は頑張ってましたがやっぱり育ちの良さが出てしまってまして。物語自体も正直よくあるものって思ってしまいました。やっぱりこの手の映画の場合オチが全てかと。ちょっと平凡。

【65】

 

■「宣戦布告」

 安っぽいアクションが全てをダメにしてしまってる勿体ない映画。この手のポリティカルアクションのめちゃ骨太なものが日本映画で復活登場するのはいつの日か…泣

【55】

 

□「ヒトラーのための虐殺会議」

 1942年1月20日正午からベルリン近郊のヴァンセー湖畔の大邸宅で開催された「ヴァンセー会議」をアドルフ・アイヒマンが記録した議事録に基づいて再現したドイツ映画。会議の内容は議事録そのままらしいのですが、これがとにかく怖い。ユダヤ人殲滅は既定路線で、「いかにして効率よくユダヤ人を殲滅させるか」が会議の主題。会議そのままの映画化だから盛り上がりは無いし、本当に普通の「会議」。この議題でこの普通が本当に恐ろしい。中にはこの議題に対して人道的見地から問題定義する奴もいるのかとでも思ったらユダヤ人にじゃなく、兵士に対する影響が厳しいから人道的にガスを使いましましょうなんて普通に言ってしまうその狂気。それぞれの部署・部隊同士の武勲に対する軋轢なんかも根底には見え隠れしたり、嫌味な法律家の嫌味な論法に苦笑する司会者なんて展開もあるにはあるけれど、そんな全ての根底がユダヤ人虐殺というその恐ろしさ。席順とかメモの配置とか形式にやたらこだわったり、やたら美人すぎる秘書も含め全てが狂気に包まれためちゃくちゃ怖いホラー映画。

【75】

 

□「ノースマン 導かれし復讐者」

 やたら評価の高いロバート・エガーズ監督の最新作。今回は9世紀の北欧を舞台にしたヴァイキング版「ハムレット」。どちらかといえばファンタジー・アクションといった趣だけれど、とにかく暗い。暗い。暗い。陰鬱すぎる北欧の空の下、王である親を弟に殺された主人公がその復讐心のみを糧に壮絶な戦いに身を投じるのが本筋だけれど、実は王が暴君で弟が賢者だったり、手籠にされていると思った母親が実は裏切り者だったり、なんともまあ血腥くてウルトラバイオレンス。ヴァイキング独特のヴァルハラ思想と相まってとにかくイヤーな空気が漂いまくりです。とはいえそれにハマればこれ以上ないくらいに骨太なファンタジーで、アレクサンダー・スカルスガルドの肉体美(でもこの人でくの坊なんだよなあ…)や、汚いのに美しいアニャ嬢の妖しさムンムンの色気、ニコール・キッドマンやウィレム・デフォー、イーサン・ホーク、果てはビョーグの壮大な無駄使いとともに、妙に勇猛かつ上がりまくるサントラを含め、爽快感ゼロのゴリゴリゴアアクションが堪能できます。

 ただこの監督、ファンタジー的なセンスは今ひとつのようなので(家系図には爆笑しました)、そこはまあ暖かい目で。

【80】

 

■「Z Inc. ゼット・インク」

 ハイテンションで楽しいゾンビものだけれど、それ以上が欲しかった。

【60】

 

■「神々の山嶺」

 谷口ジローと日本へのリスペクトがめちゃくちゃ素晴らしいけれど、アニメとしては今ひとつ。もう少しリアリティが欲しかったです。

【65】

 

■「SURVIVE」

 いやまあこう言うものと思って観れば特に問題は無いです。

【50】

 

□「母の聖戦」

 年間推定6万件の誘拐ビジネスが横行するメキシコを舞台にした実話ベースのクライムサスペンス…てそもそもこれが実話ベースってところに深すぎる闇を感じ図にはいられない、下手なホラーより遥に恐ろしい映画でした。

 主人公のシングルマザーの一人娘がある日突然犯罪組織に誘拐されるところから物語は始まるのだけれど、その始まりがあまりに唐突。いきなり車を止められ娘を誘拐した。返してもらいたければ金を払えとさも普通に言ってのけるティーン達のなんと恐ろしい事か。警察には相手にされず、別れた亭主はマッチョイズムの残りかすのような役立たず。そんな絶望的な状況の中、ただ娘の為だけに立ち向かう母親のなんと崇高な事か。映画はそんな母親の行動を通してメキシコに吹き荒れる暴力と悪意と堕落の嵐を躊躇なく見せつけます。母の娘を思うあまりにとる行動が過激になっていくに従ってどんどん頼りなくなる亭主や暴力に酔う軍人、裏で糸を引いていたように思えて実は小物だった友人など、男のマッチョイズムの対する辛辣な目線もまたこの映画のキモ。ソンブレロやバックルをこれみよがしに見せつける男達のなんと情けない事か。暴力や力に対する怒りが充満した物語をそのままの熱で描き切った監督(デビュー作だそうです)の熱意と、それを受けつつ、抑えた演技と表情で悲しみと苦しみと怒りを表現し尽くした主役のアルセリア・ラミレスのなんと素晴らしい事か。原題の「ある市民」と言う意味合いが物凄く重い、傑作です。

【85】

 

■「聖地X」

 奇想からの展開が良くも悪くも芝居なのが好みの分かれるところ。岡田将生のキャラをどう思うかで評価が異なる気がします。

【65】

 

■「ホワイト・ノイズ NETFLIXオリジナル映画」

 様々な思考と思想がミックスされ一筋縄ではいかない展開が楽しい高学歴映画。

 評価の高いノア・バームバック監督が、最近孤高の道を歩み始めているアダム・ドライバーと組んだヒューマン・ドラマにして普遍的な愛と死、幸福といった問題に独自の解釈と答えを提案した映画で、あらすじからのパニックものを期待すると肩透かし必至。なのでやたら評価が低いのだけれど、場面場面の演出力(家族間の会話のタイミングや被せぶり、それぞれのキャラクターが輝く瞬間などの見せ場の見せ方に非凡な力を感じます)や、本筋から一歩も二歩もずれた高尚かつ下世話(これが共存しているのも知的ていえば知的)な展開がなんだか癖になる映画ではあります。

 とまあなんとも言いようのない映画ではありますが、あくまで個人的にはこのノリは厳しかったです。

【65】

 

■「スレイヤー 7日目の煉獄」

 ザ・B級の安っぽさがどうしても気になってしまうセンス無き悲しいホラーファンタジー。ガイ・ピアーズ…泣

【50】

 

■「クリスマス・ウォーズ」

 メル・ギブソンが素のままのサンタクロースで大暴れする異色のアクション・ファンタジー。ってまんま同じような企画の映画が最近公開されておりますが、個人的にはこちらの方が好み。

 メルサンタは中小企業の社長のような立場。アメリカとのクリスマスビジネスの契約が昨今のガキどものクリスマス離れで打ち切られようとしている中、陸軍から持ち込まれたのが武器製造。渋々引き受けるメルサンタと、クリスマスに特別な恨みを持つハイソなクソガキ&雇われ殺し屋、そして陸軍との壮絶な三つ巴のバトルが始まる…って言うと何が何だかさっぱりわからないお話ですが、まさかのそのまんま。低予算なのかバトル自体は結構しょぼかったりするけれど、強烈なキャラ達の個性爆発がなかなかに楽しく結構勢いで見せられてしまいます。クリスマスファンタジーからのサイコパススリラーからの戦争アクションからの西部劇と言うわけのわからない展開のB級っぷりがやたら楽しい怪作です。

【65】

 

■「心霊写真」

「女神の継承」のパークフム・ウォンプム監督のデビュー作。本国大ヒットの心霊ホラーって事でしたが、実際そこここに光るところはあるけれど全体としてはよくある心霊ものの枠を超えられず。とはいえ最低限のレベルは遥に超える見応えはあります。

【60】

 

□「イニシェリン島の精霊」

 人間というものの常識では測りきれない面を描いてくれるマーティン・マクドナー監督の相変わらずの快作にして、どこか変な味わいのする傑作。

 本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島・イニシェリン島。島民全員が知り合いである平和な島で、パードリック(コリン・ファレル)は長年の友人であるはずのコルム(ブレンダン・グリーソン)から突然絶縁されてしまう。理由も分からず動揺を隠せないパードリックは、妹のシボーンや隣人ドミニクの助けも借りて何とかしようとするも、コルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と言い渡される…(Yahoo映画より)。

 簡単に言ってしまえば、自己肯定感と自己評価がやたら高い二人の男の異常すぎる意地の張り合いの成れの果てといった映画なんだけれど(まとめすぎか笑)、そんな二人の行動を、丁寧に、細かく、詳細に描くものだから見てるこっちは絶えずどちらかの心情にコミットしてしまい惑わされまくり。実際両名とも近くにいたらかなり嫌な奴だろうし(一人はちょっと足りない空気の読めない男、もう一人はやたら芸術家ぶったかっこつけ)、近寄りたくはないけれど、島民みんなが知り合いという田舎の中ではこの二人は拘らざるを得ないのがこの映画の上手いところ。指を切るという行為や、イニシェリン島という舞台(しかしここのロケーションは本当に素晴らしい。)、アイルランドという複雑な背景を持った土地など、全てのシーンや行動に暗喩や比喩があるのだろうけれど、あえてそこは踏み込まず(実際ネタバレ評論は未読)、人間対人間の関係が、当たり前だれど家族対家族、ひいては国対国にまでつながっているのだという事を思い出せてくれるような良質な人間ドラマでありました。とにかく主役を演じた二人の名優がそんな複雑な人間をきっちりと演じているのもさすがだし(コリン・ファレルの眉毛はもはや別の生き物ですな)、唯一(と言ってのいいのか)常識人である妹や、島の悪意を一身に背負いつつ、飄々とそれを受け入れながらしぶとく生きてるドミニクなど、島=アイルランドという小国を象徴する人々のドラマが妙にざわつかせる、そんな高い感受性と知性を求める映画でありました。

【75】

 

□「金の国 水の国」

 原作者の作品が好みでして、この原作も既読済みかつ大好きなコミックでありまして。アニメ映画化って聞いた時にまあやるならこれよねとは思ってました(あと「雨無村…」を実写化希望)。で、実際非常に原作に忠実、かつリスペクトに溢れた佳作でした。この作者の特徴である、何かしら理由や原因はあるけれど、基本全員いい人っていうのがなんとも優しげで心が洗われます。結構壮大だけれど細部までしっかりと練られていて伏線もしっかり回収、それでいて初々しいカップル二人をきちんと応援したくなる、そんな本当に王道かつ良質なストーリーが、気を衒わない演出と大袈裟にならない程度の良質な作画、また旬だけれど、決して下手ではない二人の役者の絶妙な配役(特に賀来賢人は思いの外上手)で描かれるため、本当に素直いに観れる良作となっています。もちろん好みに合わないとかそういう事もあるだろうけれど、ここまで万人に素直に勧められるアニメはそうないであろう、そんな誰もが幸せになれる映画だとは思います。

【75】

 

■「人肉村」

 雰囲気はいいんですがね。

【50】

 

■「ディヴォージョン:マイ・ベスト・ウィングマン NETFLIXオリジナル映画」

 ジョナサン・メイジャース主演・アメリカ海軍初の黒人飛行士を描いた戦争アクション。実話がベースという事で、こんな英雄がいたのねっていう意味では価値のある映画ではありました。もう少し怒りと踏み込みがあれば良かったのですが。

【60】

 

□「デモンズ」

 実にン十年ぶりに劇場鑑賞。当時は本当に怖かったのですが、今観ると結構あっさり系でした。

いやそれでもこのエログロ特殊メイクはやっぱり楽しすぎです。

【採点なし】

 

なんと10年めを迎えた台東区の銭湯「有馬湯」をキーステーションにお送りする映画やその他社会のもろもろについて、一癖も二癖もあるおっさん四人が縦横無尽に語りまくる老舗ポッドキャスト「セントウタイセイ.com」。激動の時代を生き抜いてきた友人四人の生き様をぜひ!