「2022年10月鑑賞映画ひとことレビュー」
近年稀に見る仕事の忙しさ(コロナが本当に憎い…)で映画館はおろか配信でさえも見る時間がなかったという悲しい事態となってしまいました。というわけで鑑賞本数は最低の18本。悲しい…
では。
「ニューオーダー」
大好物なディストピア系絶望SFの新たなる傑作。SFっていうよりは社会派サスペンスの方がしっくりくる感じですが、これをSFっって言ってあげないとあまりに暗い気分になってしまうので、あえてそう言い聞かせたいくらい、劇中の恐怖がおおよそ嘘ごとと思えないくらいのリアリティで襲ってくる力作です。
マリアン(ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド)が住む豪邸には名士たちが集い、彼女たちの結婚パーティーが開かれていた。一方、そのすぐそばの通りでは広がり続ける貧富の差への抗議行動が行われ、人々が暴徒と化す。ついにパーティー会場にも暴徒が押し寄せ、晴れの舞台は一転して殺りくと略奪の場となる。マリアンは難を逃れたものの悪夢は始まったばかりだった…(Yahoo映画より)
幸せな人生の絶頂期から一転、絶望の底へと叩き落とされるっていうのはおおよそ映画的なシチュエーションではあるけれど、この映画はその描き方が非常に上手い。幸福な結婚式のそこここで流れる不穏な空気をちょっとした描写や台詞を積み重ねつつ、いきなりの急展開(ここの演出が秀逸)からの逃亡、そして狂気からの破滅が描かれていくその救いのなさと絶望感は昨今稀に見る悲惨さ。美しかった主人公が、逃亡から蹂躙され破壊されていく様は全く遠慮が無く、それ故に劇映画としてどうなのかという気持ちもあるけれど、そんな事は百も承知でのこの展開に監督の信念が伺えます。明言してはいないけれど、現代のメキシコをカリカチュアしたこの世界観が本当に恐怖だし、また絵空事ではない遠慮無いラストの展開も含め恐怖が一層この鬱展開をリアルに見せています。
とにもかくにも強烈な印象が残る映画ではありますが。あえてこのストーリーで映画化した監督以下のスタッフ・キャストの心意気がなんだか頼もしい、そんな映画です。
【75】
「それがいる森」
いやー凄まじいものを見てしまいました。というか久々に観たことを後悔した今年ワースト確定の恐ろしい映画、いや映画っていうのもおこがましい、高校の自主映画にも劣るようなトンデモなモノでした。
*こここからネタバレ*
いやまあ予告編と監督かザ・Jホラーと思うわけじゃないですか。実際、監督があの「リング」の中田氏なわけだし、「それ」っていったら「IT」を想像するのが普通だし。それがまあ蓋を開けたらまさかの宇宙人。それも昔の小学生がムーを見て勢いで描いたようなザ・宇宙人。それをこんなクソ真面目に映画化しようとしたその製作陣のあまりのバカっぷりにまず脱力。実際、小学生の勢いの方が全然マシで、役者はともかく製作者達、特に監督のやる気のなさと言ったらもう犯罪レベル。
別に宇宙人がちゃちくても、ストーリーがあまりに酷くても、一部の役者が演技をするレベルじゃなくてもそれはそれでいいんですが、お金を頂戴して時間を割いていただく以上、なんとかしようとひたすら考え、工夫し、努力するのは製作者の義務だと思うし、それがたとえ稚拙でダメダメでもそれが映画にお金を払う最低限のラインだと思うわけです。それがこの映画全く見えない、感じない。基本の感情を抑えず、独りよがりにもなりえていない取ってつけたような家族ドラマを不愉快に取り入れたシナリオ、雰囲気作りさえ出来ない撮影、一昔前以前にセンスがなさすぎなデザイン、今年作とは思えない陳腐すぎるCG、それはもうある意味犯罪レベルだと思ってしまうわけです。
相葉くんやその息子のジャニや子役達の演技がどうしようもないのはもう仕方ないし、実際いろいろな大人の事情が絡んでいるのもわかるのですが、それでもこれはあまりに無策。諦めとやけくそで作られたいいかげんな出来損ないを見せられる観客側の気持ちを少しでも気遣えばこんな映画にはならないはずで、最近のこの監督の才能の枯渇(というよりは姿勢の問題な気もします)の急激なスピードとともに、スタッフ全員のやる気のなさと上から目線に悲しくなる超駄作でした。
【40】
「七人樂隊」
香港を代表する7人の監督が1950年代から未来までの各時代を1話ずつ担当し香港の人々の生活を描くオムニバス。それぞれがなんとも言いようのない余韻を残す大人の映画でした。
それぞれその当時の香港の生活や風俗を再現したドラマになっているのですが、根底にあるのは香港という特殊な空間の中で日々を懸命に生きる人々のドラマは、結局世界中のどこかで日々を生きている人々と変わらない日常を精一杯生きているというその尊さを改めて表しているようで深く染み入ります。
個人的にはやっぱりサモハン師匠とユエン・ウーピン師匠のが慣れ親しんだ古き良き香港映画という感じでお気に入り。それ以外もジョニー・トー師匠のさすがの完成度や、郷愁と哀切に満ちた物語達が並ぶ中で、ラストのツイ・ハーク師匠のやつだけは語学力と香港映画知識がついていけなくて少々悔しい思いでした(笑)
この映画の中では香港返還からの独立運動が直接的にはほぼ描かれません。それをもって骨抜きだの魂を売っただのや、また老人達の過去回帰だのという意見がそこここで見られたりもします。個人的にもここまで(映画内で)描かれない事に最初は戸惑いもあったのですが、よく良く観てみると至る所に香港のルーツというか根底に流れる思想、中国でもなく、英国でもない、そんな難しいけれど確実に存在する独立した確固としたプライドが映画の1本の芯としてある事が全ての作品(全ての時代)から理解できる事、それがこの映画の存在意義ではないかと思います。
このタイミングだからこそのこのオムニバス。そんな映画的意義を感じながら浸るべき映画です。
【80】
「PIG /ピッグ」
みんな知ってるニコラス・ケイジ。自分の浪費癖のためか、まあB級ともC級ともつかない微妙な映画に主演しつつげ、名前の後ろにwがつくような切ない立ち位置になってしまっていたのですが、個人的にはどうしても嫌いになれない俳優さん。それはもう完全に「バーディ」の呪いなのですが(なのでマシュー・モディーンもその括り)、そんなケイジさんついにキャリア復活!、アカデミー当確!なんて柄にもない絶賛(と哀れみ?)に溢れた名演技を見せたと言われたのがこの映画。いやなるほど、これはそんな称賛に値する佳作でした。
アメリカ、オレゴン州。森の奥深くに暮らし、トリュフハンターとして生計を立てている孤独な男ロブ(ニコラス・ケイジ)。ある日、トリュフ採取のパートナーでもあるブタを何者かに奪われてしまう。ブタを奪還しようと、ビジネスパートナーの男とポートランドの街に向かったロブは、手掛かりを追ううちに自身の壮絶な過去と相対する…(Yahoo映画より)
あらすじだけだとなんとも言いようのない複雑な感情になりますが、これは孤独と後悔にまみれた負け犬の再生の物語。何もかも捨て、孤独で汚すぎる(本当臭いを感じるくらいのリアルな汚れ)隠遁生活をしていた男の(嫌々ながらの)復活劇をケイジさんが抑えまくりつつ、滲み出る狂気と怒りを見事に表現。圧倒的な負け犬オーラをここまで表現できるのは往年のミッキー・ロークかケイジさん以外にはついぞ思いつきません。その上ケイジさんの武器である狂気を放つ目力は流石の威力。唯一の友達であり家族である豚さんが誘拐されてからのケイジさんの狂気と信念に溢れる行動はあまりな孤独と絶望をこれでもかと感じさせくれるので、観ていて本当に疲れます。ある意味ケイジさんの人生そのままなストーリー・キャラクターなので、それをもって名演と言ってしまうのもなんだか微妙な気もしますが、ケイジさんがこの映画に出演した事自体、本当にキャリア復活に賭ける意気込みの表れなのでしょう。またそんなケイジさんの気持ちを十二分に理解してこういう雰囲気の映画に仕立てた監督の力量は大したモノで、的確なショットと見せる演技の両立をしっかりと行っているのは新人離れした腕だと感心しました。
かなり見る人を選ぶ映画で、実際?が頭に延々と浮かぶ人もいるかと思うのですが、予告編や今までのケイジ映画の印象から大きく異なる、真面目で真摯な人間讃歌でした。
【75】
「RRR」
いやーインド映画。とにかくゴージャス!アクション!ラブ!ダンス!盛りに盛ったド派手な見せ場が息つく暇もなく怒涛の如く押し寄せる驚天動地の3時間!観客の心を虜にし妙にパワーを増幅させるもその代償にエネルギーとカロリーを吸い尽くす、そして強烈すぎる中毒性を持ったまさに”観るヘロイン”。世に言う”映画”の概念を打ち壊す”面白ければなんでもあり”な戦争を仕掛けまくってるインド映画(いや決してこの路線が全てな訳では無いのですが)の新たなる強力すぎる兵器がこの世紀の傑作「RRR」です。
1920年、イギリスの植民地政策下にあるインド。野性を秘めた男・ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr)はイギリス軍に連れ去られた村の少女を救うため、仲間と共にデリーへ向かう。そこで、ある出来事をきっかけに内なる怒りを燃やす男・ラーマ(ラーム・チャラン)と出会い、互いの身分を知らないまま親友となる。しかしラーマはイギリス軍の警察官であり、ビームの本当の目的を知った彼は友を投獄する…(Yahoo映画より)
とにかくアクション!ダンス!そして2人の英雄の熱すぎる生き様と友情を描く事だけに全神経を集中しているのでストーリーもそれのためだけの存在。「努力」「友情」「勝利」(いや努力はあんまりしてないかも)! ザ・少年ジャンプイズム溢れる展開に熱くならない男子はいないはず。そう、これはまさに往年の少年漫画そのもので、「アストロ球団」とか「魁!男塾」とか「男組」とかその手の古き良き少年バトル漫画をそのまま実写化したような外連味といかがわしさ、そして異常な熱さは我々世代には妙に懐かしい気持ち。今の日本じゃあの濃厚な暑苦しさを表現できる役者や監督は良くも悪くも絶滅しているし、実際企画自体が笑い者にしかならないだろうけれど、それを大真面目に、そして大興奮できる映画にできるだけの熱さを持つ役者、監督、予算があるのはもはや世界中でインドだけ。しかも尋常じゃ無い身体能力を生かしたセンス溢れるアクションや、ツボをつきまくった興奮を誘発しまくる爆上げ演出の巧さ、お約束の唐突なのん盛り上がりまくるミュージカルシーンなど、映画の持つポテンシャルを最大限に(そして節操なく)生かした映画作りはもはやボリウッドだからこそ許されるテクニック。って言うかこれ例えばハリウッドでこういう感じで作ろうとしたらしようとしたらカルト以上の扱いにはならないような骨抜き映画になるのが目に見えているのは、良くも悪くも洗練されてしまった西洋映画界の限界なのかもしれません。
何言ってるのかよくわからなくなってきたけれど笑いろんな論評や映画史や映画記号論(今もあるのでしょうか)やそんな理屈を全て銀河の彼方にぶっ飛ばし、ただただ、本当にただただバイオレンスと愛と誇りと使命のために生きた漢達の生き様(とダンス)を考えないで感じさせるためだけにトコトンまで突き詰められた純度最高のヘロイン映画でした。まあさすがに3時間は疲れましたが苦笑。
【80】
「カラダ探し」
原作未読。どんな感じなのかも一切知りませんでしたので純粋に映画としての感想なのですが、なんとも言えない微妙な空気でした。
「カラダ探し」と言うループする呪い(?)に巻き込まれた高校生6人のサバイバルを描くホラー映画…って言う認識で間違って無いと思うのですが、実際はザ・青春もの。しかもどちらかと言うと少女漫画に近いノリかと。
全身が血で染まった少女”赤い人”が出現、その日から同じ日を繰り返すことになった主人公をはじめとする6人の少年少女。その設定自体殺戮と戦いの日々を繰り返す中で友情を恋が芽生えていくって言うのは終わりなき青春時代の中で永遠に生きていたいって言う少女たちの願望(って言うか作り手が描きたいドラマ)を描くための舞台装置なわけで。だから辻褄の合わなさとか説得力は問題じゃ無いって言うかもしれないけれど、この手の映画ってそこが一番重要。結局それが観客に納得できない設定じゃ無いと何もかもが嘘っぱちと一歩引いてしまうので、感情移入的な部分でどうしても微妙な感じになってしまう。だからこそそこに一番気を使い綿密に計算しなければいけないのだけれど、この映画はそこが本当にお座なり。一応それなりの設定が用意してはあるけれど、何もかもこの映画で”見せたいドラマ”を見せるためのご都合主義な設定になっているのはやぱり興醒め。目的と手段が間違っている感じがどうしてもしてしまいました。
まあ実際橋本環奈のアイドル映画っていう側面もあると思うので、そこまで色々言うのも野暮かもしれませんが、じゃあそこが良かったかって言えばそれも微妙。元気な笑顔がトレードマーク(ってあくまで個人の印象ですが)の人になぜこんな好感を持つことが難しい隠キャを演じさせ、しかもそれが全然魅力的に見えないような演出しかできないのか。例えば殺戮からのサバイバルでキラキラ生命力を溢れさせるようなサラ・コナー的な演出は出来なかったのか、それとも単に橋本環奈の力不足なのか、それはわからないけれどここまで魅力的では無い、と言うか昭和の女の子的なのは今のご時世合わないなあとは感じました(他の女の子たちがザ・今風だっただけに)。それも味といえばそうですが。
まあ色々問題はありますが、口に腕を突っ込まれるなんて死に様を普通に披露するアイドルには素直に敬意を評します。
【60】
「アムステルダム」
クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントン。それに加えてクリス・ロック、アニャ・テイラー=ジョイ、ゾーイ・ザルダナ、マイク・マイヤーズ、マイケル・シャノン、はたまたラミ・マリックにロバート・デ・ニーロ、はてはテイラー・スウィフトまで、あまりにゴージャスすぎるキャストで描く、愛と友情のクライム・サスペンス。
1930年代のアメリカ・ニューヨーク。医師のバート(クリスチャン・ベール)と弁護士のハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)、アーティストのヴァレリー(マーゴット・ロビー)は第1次世界大戦の戦地で出会い、終戦後にアムステルダムで友情を確かめ合っていた。ところが、バートとハロルドが殺人事件の容疑者となってしまい、3人は無実を証明するため、ある作戦を企てる…(Yahoo映画より)
シンプルに上手で良く出来た映画。
1930年代という時代背景をうまく生かしつつ二転三転する考えられたストーリーに加え、豪華すぎるキャストたちの絡みによる化学変化をしっかりと計算した上での的確かつ正確なキャスティング、それに答えた上で、それぞれの役割を楽しそうに、かつ主張しすぎない絶妙のバランスで演じた役者達のさすがのプロフェッショナル感など、全てがザ・ハリウッドな一流の仕事ぶり。久々にそんな古き良きハリウッドな映画が観られて幸せな時間でした。
主人公3人のキャラ立ちが結構カリカチュアな分(まあベイルさんは相変わらずやりすぎですが笑)、映画全体がちょっとしたユーモアに包まれて理解しやすくなっているのもハリウッド的。往年のスタイリッシュで洗練された空気感が再現されているのもなんだか嬉しいし、3人の友情が倫理的に正義の方にきちんと振れているのもなんだか良い気分。絶頂期のコーエン兄弟の映画のようなある程度の俯瞰した目線からの”愛が勝つ”的な物語は昨今の流行から少し離れている分新鮮な感じもしました。
まあ逆に若い人たちには時代遅れな感もあるし、テンポがのんびり(それでも昔と比較したら相当早いし色々工夫もしてる)だろうし、実際こういう映画が現代でヒットするかと言われれば難しいだろうけれど、アメコミヒーローものやド派手でハイスピードなアクションものだけじゃなく(もちろんそれも大好物ですが)、こういう映画こそハリウッドの底力。ザッツ・エンターテインメント。楽しかったです。
【80】
その他の鑑賞絵映画。
■「タイガー・コネクション」
ドニーさんが色々若い。キレッキレ。【60】
■「ジャングル」
結構狂気。【60】
■「ヴォクトリア女王 最期の秘密」
とにもかくにもジュディ・デンチ。御用達監督フリアーズの面目躍如。【75】
■「大巨獣ガッパ」
恥ずかしながら初見。いやこんなちゃんとした映画だったのね。【60】
■「ブロークン・アイデンティティ」
アイデアは面白いけれど…【60】
■「嘘喰い」
なんでこんなに全てが薄っぺらく安っぽいのでしょう。中田監督ほんとに終了…泣【50】
■「バブル」
日本のアニメの悪いところが全て出たような悲作。絵が綺麗で動きゃいいてもんでもなかろうに。【50】
■「バーフバリ 伝説誕生」
伝説が誕生してました。胸焼け。【70】
■「ターミネーション」
なんだかSFオタクが空回り的な微妙な短編集。【50】
■「ウィンタースキン」
可もなく不可もないサスペンス。【50】
■「西部戦線異常なし(2022 NETFLIXオリジナル映画)」
往年の名作を現代にアップデート。戦争の悲惨さとリアルは今も昔もなんら変わらない事を改めて思い起こさせるその思想と信念をしっかりと意識しての真摯なリメイク。魂の入った良作。【75】
ここでお得なポッドキャストをご紹介!台東区の銭湯「有馬湯」をキーステーションにお送りする映画やその他社会のもろもろについて私の友人であるアラフィフ男どもが熱く激しく語りまくるポッドキャスト「セントウタイセイ.com」。かなりマニアックなものから有名どこの邦画を独特すぎる視点で時に厳しく、時に毒々しく、だけど基本は面白おかしく語りつくしておりますので、是非聞いてやってくださいませ。
よろしくお願いします!