「2022年9月鑑賞映画ひとことレビュー」

 

9月の鑑賞本数は24本。珍しく仕事が忙しくて劇場に行くのが難しく、リバイバル系で見逃しが多かったのが悔しいです。

 

では。

 

■「ブレット・トレイン」

 まさか伊坂幸太郎(結構好きな作家さん)の小説がハリウッドで、しかもブラピ主演で映画化される日が雇用なんて想像もしていませんでした。いや正直設定だけの借り物でザ・ハリウッドなアクション大作(それはそれでOK)になるものだとばかり思ってましたがさにあらず。原作リスペクトもしっかりの愛すべきバカ映画でした。

 謎のバックを巡って京都行き新幹線に集結した曲者の殺し屋達(というには目立ちすぎるし個性ありすぎですが笑)の壮絶バトルをド派手なアクションと捻ったユーモアで描いた俗に言うタランティーノ系の映画ではあるのですが、まずそれぞれのキャラ立ちがなかなかに素晴らしく、それぞれ見せ場がしっかりあるのがなんだかほのぼの。飄々とした初老の(!)巻き込まれ方殺し屋を演じるブラピが本当に楽しそうだし、アーロン・テイラー・ジョンソンは一番美味しい役どころで気合入りまくり。相棒のトーマス好きなブライアン・タイラー・ヘンリーや小生意気な小悪魔ジョーイ・キングや我らがヒロユキ・サナダは左右がの貫禄。1人だけ殺陣がキレッキレでレベルが違うのが流石。個人的にお気に入りのマイケル・シャノンさんやサンドラ・ブロック嬢までご登場のアンサンブル映画としてはこれ以上ないほどの豪華っぷりといい感じな化学反応でそれだけで十分楽しめます。

 まあツッコミどころはあまりにメタすぎる日本も含め多々ありますが、それはもうそう言うものと楽しむのがこの手の映画のお約束。日本の新幹線なのに乗客がほぼほぼ外国人だったり、富士山が滋賀県あたりにあったりするのがなんだか微笑ましかったりするのですがそれに目くじら立てるのは大人気無いってものです。大体日本の新幹線、自動運転じゃ無いですし。運転手さんの影も形もないのはさすがにやりすぎかとも思いましたが、そこはそれメタジャパン(笑)。

 伊坂幸太郎作品のお楽しみの一つである伏線回収(因果は巡るって感じですかね)が取ってつけたようとはいえ組み込まれているところや、何気に伊坂作品における人間に対する目線がきちんと理解されている(と感じる)ストーリーになっているのがなんだか嬉しかったりしました。いや相変わらずのアクション偏重によるバランスとリズムの悪さの問題は解消されていないけれど(実際ちょっと長すぎる)、それでもそう言う目線を描こうとする意思が見えたところにこの監督さんの成長が見れて、その点も好感が持てました。

【75】

 

■「地下室のヘンな穴」

 なんと言うか、狙いすぎて失敗したダメな映画の典型。設定自体はなるほど面白く、うまく生かせばスパイク・ジョーンズになれたのに、この監督にはそこまでの腕と知性が足りなかったようで。

 アランとマリーの中年の夫婦が、不動産業者に案内され、郊外のモダニズム風の一軒家を訪れる。その家の地下室には穴があり、不動産業者によるとそこに入れば12時間進んで3日若返るという。その家に引っ越すことにしたアランとマリーだったが、その穴をきっかけに夫婦がそれぞれ胸の奥にしまっていた欲望や衝動があらわになっていく…(Yahoo映画より)

 美と若さに執着していく妻や、男としての自信を取り戻そうと人工ペニスを移植しようとする友人など、人間の欲望の行き着く先をヘンテコな設定やガジェットで描こうとしている(だろう)この映画、そう言う意味では結構知的(かな?)なのだけれど、如何せんそのノリがコントちっく。フランス風のエスプリが効いているわけでも無く、ハリウッド風なスクリューボール的なノリも無く、ただ変なものを淡々と描いているだけなのでどうにも退屈。後半の展開はなるほどととは思いつつもそれ以上でないのはそれまでのキャラの描き方がどうにも上手くないからか。実際誰にも感情移入出来ないのは狙っているわけじゃ無くただ下手なだけなのがなんとも。この手の映画の場合、設定からストーリーを作り鵜出すのか、ストーリーから設定を捻り出すかで大きく違ってくるのだけれど、この映画は前者。その場合、設定から色々な可能性を引き出し選択するのがもちろん重要なんだろうけれど、どうにもそこに失敗したしたような印象です。

 とはいえ設定自体はかなり目新しくて面白いし、もっと考えれば色々な可能性があったのは本当。そういう意味でもちょっと残念というかもったいない映画でした。90分未満のランニングタイムは魅力的でしたが。

【60】

 

■「デリシュ!」

フランスを舞台に世界初のレストラン誕生秘話を描いた歴史ロマン。フランス革命前夜。自慢の創作料理を貴族達から非難され宮廷料理人の仕事を失った失意の主人公が、弟子の女性との出会いより、世界で初めての一般人向けレストランを開業するまでの道のりを格調高く、それでいてドラマチックに描いた秀作。当時のフランスの生活や社会情勢が勉強できて一石二鳥です(ジャガイモの立ち位置なんて知らなかった)。主人公が地位や名誉欲から、本当に大事な事に気づいていくという流れや、その成長に大きく影響する弟子の女性との絡み、そしてその女性の素性まで非常に王道な展開なので、ある意味安心して観れるのも高得点。裏テーマであろうフランス革命へ通じていく貴族や格差への不満なんかも声高に叫ぶのでは無く、あくまで主人公の目線で物語が進むのもお上手。

 登場する料理は美味しそうだし、役者達も安定した演技。奇を衒う事なく、あくまでオーソドックスに落ち着いた作りの中、美術や料理など細やかな神経が行き届いているという手を抜いていない真面目な姿勢にも好感。

 オーソドックスな分面白みにかけるのも事実だし、予定調和な展開って言ってしまえばそれまでなので、珍奇な味をお望みならばかなり物足りないのだけれど、やっぱり安定かつ生真面目な面白さはそれだけで豊かな気分になれるもの。なんだかほっこりする良い映画でした。

【75】

 

■「ヘルドッグス」

 公開時仕事終わりにレイトショーで観るという俺ルールが何故かある原田眞人監督作品。またまた岡田君とのコンビ作は仁侠ものっていうよりはハリウッド風のアクションバイオレンス映画でした。

 警官時代に愛する人が殺される事件を止めることができず、その苦悩を抱えながら生きる元警官の兼高昭吾(岡田准一)。警察は関東最大のヤクザ組織「東鞘会」への潜入捜査を彼に強要し、データ分析で相性98パーセントと判定された無軌道なヤクザ・室岡秀喜(坂口健太郎)とコンビを組ませる。東鞘会最高幹部の一人でもある土岐勉(北村一輝)が率いる東鞘会・神津組に潜り込むことに成功した二人は、抜群のコンビネーションを発揮。連絡係の衣笠典子(大竹しのぶ)の協力を得ながら、組織内でのし上がる…(Yahoo映画より)

 とまあお話だけなら結構なサスペンスミステリ系かと思いきや、基本はド派手なバトルの力技で押し切る必殺仕事人。岡田くんのリアル格闘技スキル全開アクションが炸裂しまくり、人がグログロ死んでいきます。っていうか引くぐらいにガンガン殺しまくるので、映画の立ち位置を発見するのが難しかったりしますがそれはまあ「ガンヘッド」原田眞人の得意技。邦画の枠をちょっぴり超えたファンタジー感がなんだか面白いところでもあります。実際映画としては結構ちゃんとした作りで、エセでネオな日本での”YAKUZA”VS公安のハードで非情なバトルはその作りこみも含め見応えがあります。相変わらず何言ってるかわからない妙なリアル感を出そうとして失敗する台詞回しやら、キャラ立ちのための小細工演出がうざかったりもしますが、まあそれはこの監督の良くも悪くも個性って事で。アクションに振り過ぎたせいか、それともそのアクションで関係性を描こうとして失敗しているのか、相棒坂口くんとの絆的なものが今ひとつ深く感じなかったり、ヒロインの松岡茉優があまりに不思議ちゃんだったり、色々細かいところが大雑把な分(敵のヤクザさん達の表面だけのキャラ立ちもなんだか微妙です。MIYABIは頑張ってましたがあまりにパターンすぎて笑)、ドラマとしての盛り上がりに欠けたりしているのだけれど、妙な殺伐感と寂寥感は流石でした。

 まあ全体にもったいないなあていうのが正直なところなんですが、ここまで無国籍で本格的(に見える)アクション映画(だけでは無いけれど好きなものを)をこれだけの規模で好き勝手撮れる立場の監督は日本ではそうはいないとは思うので、どこに向かっているのかいまいち不明な岡田くんの将来に責任を持つ覚悟だけは持って欲しいと思います。

【75】

 

■「LAMB ラム」

 なんだか妙に評判がよろしかったので結構な期待をしていたのですが、なんとも奇妙な、変な後味を残す寓話。

 アイスランドの山間で羊飼いをしている夫婦・イングヴァルとマリア(ノオミ・ラパス)。ある日、出産した羊から羊ではない何かが生まれ、二人はその存在を“アダ”と名付けて育てることにする。子供を亡くしていた二人にとって、アダとの生活はこの上ない幸せに満ちていたが、やがて夫婦は破滅への道をたどることになる…(Yahoo映画より)

 兎にも角にもアダの存在が不気味すぎ。羊の顔に人間の身体。ミノタウロスの羊版の怪物を普通の子供として本当に普通に受け入れ育てている夫婦の狂気。ある意味障害のある子供を愛する事と変わりがないという、比喩的で心豊かなホームドラマとして制作しても行けそうな感じではあるけれど、北欧の方々にはそんなメンタルは甘ちゃんなようで、寒々として厳しい自然の中に生きるちっぽけな人間達を冷徹かつ一歩引いた諦観な目線で描いています。

 実際、”孤独”がテーマであろう本作にとって、身勝手な理屈で自然を破壊している人間への天罰っていうのは裏テーマなんだろうけれど、それでもこの”アダ”ちゃんがどんどん人間の子供(しかも可愛い)に見えてくるにしたがって、そんな人間側の身勝手さが浮き出てくるのがどうにも居心地を悪くさせるというか不快感満載。途中参加のヤクザな弟が当初普通にアダちゃんを怖がって排除しようとするのに、その可愛さ(というか子供だからか)に凋落されるのもなんとも暗喩的。そんな風に裏読みすればするほど奥深い映画ではあると思います。

 ラストのトンデモ展開(でも彼はなかなかにカッコ良い)も含め、あくまで寓話としてのスタンスを崩さなかったところもこの映画のポイントで、そういう意味も含め一見の印象とは違う、なかなかに癖の強い映画だと思われます。

【75】

 

その他の鑑賞映画

■「欲望の翼」

またまた恥ずかしばがら初見。本当センスの塊。何気にアクション描写がかっこいいのもなんだか良いです。【70】

■「龍が如く 劇場版」

つい最近極をプレイしてしまいまして。真島ちゃんはいいんだけど桐生ちゃんが違う。【55】

■「サマリタン(Amazon Primeオリジナル映画)」

貫禄のスタさん寵愛映画。老いてますます盛んで渋み倍増。映画としては普通。【70】

■「ビースト(2022)」

往年のサバイバル映画を彷彿とさせる展開は良いのだけれど、如何せん演出が昨今すぎて映画に合って無い。全体にサスペンスに欠けるのは CGライオンの出来も含め作りが荒いから。残念。【70】

■「東海道四谷怪談(1959)」

怖い。怖すぎる。やっぱり古典邦画の怪談が一番怖いです。【70】

■「a-ha THE MOVIE」

全体にツッコミ不足な感もあるけれど、往年のファンとしては3人の確執が悲しいようで納得。【70】

■「デイシフト(NETFLIXオリジナル映画)」

ジェイミー・フォックス主演のニューエイジヴァンパイア映画。新鮮味があってバカで楽しかったけれど、それ以上でもそれ以下でも無いのがもったいない。【75】

■「軽蔑(1963)」

こちらも恥ずかしながら初見。古き良きザ・フランス映画に見えてしまうのはある意味年を取った証拠なんでしょう。切ない。【70】

■「ジーサンズ はじめての強盗」

なかなかによくできた名優共演のヒューマン・コメディ。社会問題を織り込みつつ、伏線が回収される感動も味わえる良質なコメディでした。バカな邦題に騙されないように。

■「善き生徒たち(NETFLIXオリジナル映画)」

イタリアの監禁強姦事件を元にした実話の映画化。とにかく胸糞わるいクソ野郎ばかりが出てくるので結構な心構えが必要。ただ映画としてはツッコミ不足かと。【70】

■「フォールアウト(NETFLXオリジナル映画)」

スクールシューティングで生き残った生徒達のその後を描いた社会派青春もの。青春ものとしては良くできてますし、事件が引き起こす大きすぎる影響に心底震えます。そしてこんな事件の対応がマニュアル化されているアメリカの病理にも。【70】

■「ヘビー・メタル」

伝説のアニメ映画がついに観れました。配信万歳。映画はなるほど古典です。【65】

■「アンダー・ザ・ウォーター」

題材は大好物なんですが。惜しい。盛り込みすぎて空中分解した感。【60】

■「怪談新耳袋 劇場版」

もうちょっと頑張れた気がする。【50】

■「プレミアム・ラッシュ」

快調なスピード感がたまらない傑作。微妙な映画を作り続けるデヴィッド・コープ一世一代の大仕事。 めちゃ手間がかかっているであろう撮影と楽しそうな役者達が本当見ていて感動。【75】

■「ダーク・クエスト 漆黒の騎士団」

自主映画でした。【50】

■「ザ・ディープハウス」

ここまで魅力的な設定と、絵作りに物凄い手間隙かけておきながらなぜにこんな手抜きシナリオなのか。本当に本当に、もったいない映画。さすがにあと三捻りくらいは出来たはず。【50】

■「スパイクガールズ」

バカに振り切ったのは潔し。まあここまでバカならなんでも許せます。【60】

■「ポゼッション・エクスペリメント」

題材や目の付け所は面白いんですが。そこからが映画作りのセンスと才能だと思います。【55】

 

ここでお得なポッドキャストをご紹介!台東区の銭湯「有馬湯」をキーステーションにお送りする映画やその他社会のもろもろについて私の友人であるアラフィフ男どもが熱く激しく語りまくるポッドキャスト「セントウタイセイ.com」。かなりマニアックなものから有名どこの邦画を独特すぎる視点で時に厳しく、時に毒々しく、だけど基本は面白おかしく語りつくしておりますので、是非聞いてやってくださいませ。

よろしくお願いします!