2021年9月鑑賞映画ひとことレビュー

 

9月の鑑賞本数は30本。ようやく新作の公開が始まりだし、楽しみが増えて来ました。

では。今回も劇場鑑賞をメインに。

 

「シャン・チー テン・リングスの伝説」

コロナのせいで延期になってたMCUフェイズ4の本当の始まりを告げるニューヒーロー誕生物語。ていうかドラマ3作(とアニメ1作)観てないと理解不能な可能性があるフェイズ4って正直どうなんだろうってディズニー+に課金しながらふと思う今日この頃ですが、それはともかく、ここでアジア系ニューヒーローを持ってくるMCU、さすがです。で、とりあえずこの映画、いやいや普通に楽しみました。正直発表された時はシム・リウ、地味すぎじゃんというか他にもいるんじゃ…とか、中国忖度激しすぎじゃないとか色々邪念が入り込みましたが、そんなことは全くの杞憂。往年の中国・香港映画へのリスペクトに満ち溢れたこれぞエンタメっていうMCUでありました。実際、シム・リウ、素晴らしいです。映画鑑賞以前・以後でここまでガラリと印象の変わるキャスティングもまあないでしょう。なんというかこの人の親しみやすさ、隣のスパイビーならぬ隣のシャン・チー感。映画自体がかなりファンタジーに振れてる分、余計にこの人の普通っぽさが引き立って、MCUの特徴である”リアリティ”を醸し出してるのがさすが。その反動か、サンフランシスコを離れた辺りからドンドン安っぽくなっていってる印象があるのがどうにももったいないような感じもあるし、ある意味ありきたりな展開と面白味のないストーリーに終始した感じもあるのがなんともはや(テン・リングスが幾世代も続く謎の組織の割にこぢんまりとしてるのもなんだか)。ド派手なCGも(今の中国映画にありがちな)チープさ全開なのもある意味リスペクトなのかもだけど、全体にそっちへの傾倒が良くも悪くもありすぎたかなあというのが正直な印象でした。とはいえさすがの貫禄トニー・レオンをはじめ香港映画の重鎮たちが良い味出しまくりなのは見応えありだし、新たなヒーロー誕生物としてはその後の活躍を十分期待させるだけの魅力に溢れていたのは事実。これからのMCUの展開へのワクワク感も含め、ニューフェイズの開幕作としてはこれ以上望めない映画ではありました。

【75】

 

「スパイラル ソウ オールリセット」

1作目はともかく、シリーズを追うごとに扇情的で刺激を求めるだけになっていった(ように思える)このシリーズをリセットするのは多分にお金的な要素が多いんだろうけれど、それはともかく新たなシリーズの開幕を告げるというよりはスピンオフ的な側面が強い「スパイラル」。地下鉄の線路上に宙吊りにされ、舌を固定された男に向かって猛スピードの電車が迫り、男は無残な死を遂げる。それは猟奇犯が警察官をターゲットに仕掛けた、むごたらしいゲームの始まりだった。捜査を担当するジーク・バンクス刑事(クリス・ロック)と相棒のウィリアムは、過激さを増していくゲームに翻弄(ほんろう)されていく。やがて、ジークの父で伝説的刑事のマーカスの行方がわからなくなる…(Yahoo映画より)。この手の映画のお約束を守りつつ新しいことをやろうとしている気概は見えるものの、如何せんストーリー、演出がその野望に追いついていない感じが切ない映画となっています。特に製作・主役のクリス・ロック、力入るのはわかるけれどこの手のカッコつけが似合わないのは明らかにミスキャスト。グロ多めなこけおどしに終始した演出とギミックは肩透かしというか無理矢理感が半端なく、説得力にかける分興醒めしてしまいます。ただ93分という、良心的な上映時間でまとめあげたそのB級魂にはリスペクト。

【65】

 

「モンタナの目撃者」

「ボーダーライン」や「ウィンド・リバー」など渋い映画を作り続ける”ハヤカワNV映画作家”テイラー・シェリダン最新作にして、ほんと久々アンジェリーナ・ジョリー主演作。特にウィンド・リバー激推し者としては結構な期待をしていたのですが、今回は今ひとつな出来でした…。過去の体験からトラウマを抱える森林消防隊員ハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)は、ある日異様な様子の少年コナー(フィン・リトル)と出会う。彼は父親が殺害される現場に遭遇したため暗殺者たちから追われており、父が命懸けで守り抜いた秘密を知る唯一の生存者だった。ハンナは彼を守ることを決意するも、コナーの命を狙う暗殺者たちの追跡に加えて、大規模な山火事が発生し二人は逃げ場を失う…(Yhaoo映画より)。トラウマを抱えた主人公が危機を乗り越えることにより克服・成長していくという冒険小説の基本中の基本をきっちりやっているので決して面白くない訳ではなく、地味ながらきっちり押さえる所は押さえて基本に忠実かつ真面目な映画作りは好感が持てるのだけれど、如何せんそれ以上でもそれ以下でもないのが辛い所。アンジーは熱演だし、殺し屋のキャラ設定(完全にサラリーマンというかサイコパスでは無い、あくまで仕事としての殺し屋っていう描き方がある意味新鮮)、徹底したリアルな山火事の恐怖感など目をみはる所もあるのだけれど、それ以上突き抜ける所がなかったのが今回。「ウィンド・リバー」や「最後の追跡」のような儚く弱い人間の本当の強さからくる感動(ここがハヤカワNVたる由縁)があるにはあるけどちょっと弱かったのが残念でありました。まあ期待しすぎた感もあるので一概に今ひとつというのは憚れるけれど、もっと出来たよねっていう思いが消えないもったいない映画でありました。

【70】

 

「レミニセンス」

予告編が完全に「インセプション」だったのがなんだかなあだったけれど久々のオリジナルSF超大作って触れ込みだったので期待していたのですが、いやはやどうにもこうにもどうしようもないダメ映画でした。とにかく喋りすぎ。とにかく主人公はじめ登場人物みんな喋る喋る。その時の気持ちから状況まで何でもかんでもセリフで説明するもんだから余韻もへったくれもなくうるさくってしょうがない。やたらベタベタしまくりからの落ちぶれた主人公のヘタレっぷりっていうかネッチョリぶりも気持ち悪いし(完全にヒュー・ジャックマンの無駄遣い)、とにかくすべてが仰々しくて大げさ。設定自体もなんだかなあで、記憶を元になんとかするとかじゃあなく、結局ただの悪趣味な覗き屋というのはいかがなものかと。しまいにゃあ女々しく過去に閉じこもるなんて、こんなシナリオでよく映画化にGOサインが出たよねっていう程のレベルの低さ。売りの水没都市はなかなか魅力的ではありましたが、兎にも角にもテレビ屋演出があまりに顕著で、偏見でもなんでもなく、この手の映画における女性監督の悪い面ばかりが出てしまっているというダメ映画の典型のような映画でした。とにかくセリフで説明するっていう愚の骨頂をここまでやってる映画自体久々で、かえって新鮮でしたわ苦笑

【55】

 

「アナザーラウンド」

現時点での今年ベスト。”血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる”というトンデモ理論を実証しようと実験を始めるしょぼくれおっさん4人をめぐるコメディ…一応コメディに分類されるのだろうけれど、これはまごうことなき青春映画。人生に疲れ、それでもごく当たり前の幸せを手にしているおっさん達が、”ここではないどこかへ”行きたい、こうではなかった道があったのではないかという願望(妄想とも言いますが)。現実逃避といえばそれまでだけれど、おっさんなら誰もが持つそんな夢を地に足のついたリアルなストーリーとして描いたのが本作。きっちりとアルコール度数を計測しながらの飲酒という実験の様子は滑稽だし、お酒のおかげでハイテンションになり仕事が上手く回っていき、若さを取り戻し目がキラキラしてくのが痛快で笑えるのだけれど、ちょっとした綻びから徐々に破滅に向かっていく4人の人生それぞれの分岐が非常に切なく悲しい。普通にしていれば見過ごせていたことが、変化を願った事であからさまになっていくその反面的なシニカルさは強烈で、実際の人生でもこういう事が起こり得るのかという恐怖すら抱かせます。正直ストーリーだけを見ればそれほど目新しい物でもなく、しょぼくれおじさん立ちが何かのきっかけで弾けまくりやがて人生の重みを知るっていうのは王道中の王道ではあるけれど、それぞれのシーンがやたら楽しく、悲しく、切ないのは一重に演出の力と役者達のうまさ。マッツはもちろんその他の3人のおじさんたちが非常に魅力的でそれぞれのキャラを生かしつつきっちり人生を演じ切れているのが本当に素晴らしい。ネタバレになるので詳しくはいえないけれど、この映画のラストシーンからのエンドカットは個人的にここ10年くらいでのベストシーン。この開放感、この切なさ。素晴らしすぎ。

【90】

 

「MINAMATAーミナマター」

以前にも言ったかと思うのですが、ジョニー・デップは名優です。ハリウッドスターだから最近は奇行やらプライベートやらがやたら取り上げられて悲しい状況になっている感もありますが、「シザー・ハンズ」はもちろんの事、若い頃の「クライ・ベイビー」や「ラスベガスをやっつけろ」、年齢を重ねた最近の「グッバイ・リチャード」なんて、コスプレ以外でのジョニーしか出来ない仕事もきっちりとやっている本当にいい役者なのです。特に今回の映画のような破天荒なアウトサイダーを演じさせたら彼の右に出るものはそうはいないと思うのです。てな訳でこの映画。力作です。本当力作です。我々世代はもちろん水俣病の事は学校で習ってますし、この映画のモチーフになった写真も見た事がありますので知識としては知ってました。そんな水俣病闘争をカメラマンユージン・スミスの目を通して虚実混合で本当に本当に重厚に真面目に真摯に描いているので、相当重くて暗くて陰鬱です。酒に溺れて荒んだ生活を送るスミスが水俣病に苦しむ人々と関わることによって自らの使命を自覚し、戦うっていうのがストーリーの流れ。当時の日本と水俣の状況をしっかりリサーチし、気をてらうことなく当時の日本を的確(かどうかはわからないけれど少なくとも大きな違和感なかった)に再現した舞台の中にそのストーリーを落とし込む事によって劇映画としても十分堪能できる映画となりました。被害者でありつつ強制せざるを得ない水俣の人々の苦悩をきちんと描きつつ、憑依しまくったジョニーの熱演によりキャラの圧倒的な存在感でストーリーを紡ぐ、そんな王道をしっかりとやってのけたこの映画の良さ。非常に見応えのある映画でありました。しかし國村・浅野・真田・加瀬のレギュラーを脅かすルーキーの登場はいつの日になるのでしょうかねえ笑

【80】

 

「クーリエ:最高機密の運び屋」

予告編でまるで往年のヒッチコックのようなサスペンススリラーの娯楽作と思っていたらさにあらず。1962年のキューバ危機の裏で戦争の回避に決定的な役割を担っていた英国人セールスマン、グレヴィル・ウィンの”実話”を描いたスパイサスペンス。CIAと MI6の依頼を受けたウィンはモスクワでGRU高官と接触して得た機密情報を西側に運び続けるが…という事で実話です。この方のことを恥ずかしながら知らなかったのでストーリー予測は全く無く、映画の中盤まではザ・セールスマンと言った風の主人公が国家間の静かな戦争に巻き込まれる緊張感とサスペンス、GRU高官とのぎこちない友情の静かな感動のバランスの良さに、小品だけどいい映画だという感想だったのですが、GRU高官の亡命計画が始まったあたりからまさかの急展開。重厚かつ過酷な人間ドラマへとシフトしていきます。その展開の妙がこの映画のキモ。個性を生かした前半と、肉体改造をも含めた渾身の後半のカンバーバッチの力量再確認な渾身の演技と、GRU高官を演じたメラーブ・ニニッゼの静かな熱演が素晴らしく、運命に翻弄される2人の男の生き様がリアルに痛切に胸に迫ります。奇抜な演出も無く、至極真っ当で正統派な作りもこの映画にはよく合っていて、本当に素直にストーリーを追い、登場人物たちの運命に素直に感情移入、感動できる”良い”映画です。あまりに厳しい人生なのにこの方がユーモアを忘れていないという救いを与えてくれる”ご本人登場”をこの手の映画で邪魔ではないと思えるのがこの映画が良き映画である証拠かと思うのです。

【75】

 

その他の鑑賞映画

「パニック・フライト」

 才人ウェス・クレイブンさすがのお仕事。【70】

「EVIL エヴィル」

 ポスターはかっこいいんだけど…【50】

「アブダクション」

 捻りは効いてる。【60】

「ブラッドショット」

 ヴィン・ディーゼルの怪物化が進んでる気がする。【60】

「映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット」

 ちょっとパワーが落ちたのがもったいないかなと。【70】

「リーサル・ストーム」

 メル・ギブソンの無駄使い。【65】

「勇者たちの戦場」

 普通に楽しめるけど一捻り欲しい気も。【70】

「ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償」

 期待しすぎたかも。でも力作。【70】

「ドラッグ・ウォー 毒戦」

 さすがのジョニー・トーさん。かっこいいです。【75】

「最後の追跡 (NETFLIXオリジナル映画)」

 テイラー・シェリダンはこういう地の果ての街が似合います。【70】

「図書館戦争」

 アイドル映画に徹すれば良いのに。【60】

「まともじゃないのは君も一緒」

 作りすぎな感もするけれど役者2人は芸達者。【70】

「恋とニュースの作り方」

 ザ・ハリウッドな感じは良いです。【70】

「ロックダウン」

 上手いとは思うのですが、やっつけ感は拭えない。【70】

「リトル・シングス」

 豪華共演な割に見所が少ないような。【65】

「THE BITE 変身する女」

 グログロ・グチャグチャは気持ちいいのですが。【55】

「高台家の人々」

 中途半端。【50】

「トラジティ・ガールズ」

 全てにイライラします。【55】

「インサニティ」

 これはこれで。【55】

「頭文字D  THE MOVIE」

 あえて言ってしまいますが主人公がブサイクすぎて…泣【55】

「弥生、三月 君を愛した30年」

 コンセプトはいいと思うのですが、それを生かしきれてないなあと。【65】

「インビジブル 暗殺の旋律を弾く女」

 拾い物。展開の妙が楽しい。【70】

「エンドレス・エクソシズム」

 それなりに楽しめます。【55】

 

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よろしくお願いします!