2019年3月鑑賞映画ひとことレビュー
遅くなりましたが…
3月の鑑賞本数は23本。Netflixの恩恵を被っている割には今ひとつ本数が伸びないのがちょっと悲しい…
では。
「グリーンブック」
本年度アカデミー賞受賞のヒューマンドラマ。こういう映画が賞を取るのがアカデミーていう見本のような超優等生な映画でした。人種差別という非常に重いテーマをユーモアとペーソスで上手にコーティング、暖かくもほろ苦い、古き良きハリウッドの伝統を受け継ぐまさに王道なドラマなので、安心して楽しめます。まあそれに対して某スパイクさんなんかはブーブー文句を言ってたりもしますが、それはそれ。重いものが好みな人も居ればわざわざ高い金払ってや嫌な気持ちになりたく無いっていう人の方が多い昨今、こういう手法の方がある意味上手いやり方だという気もします。とはいえここまで甘過ぎるのもリアルにどうかと言う気持ちにもなりますが、この映画に関してはもうヴィゴが全て。もともと持ってる自分のイメージと180度違う(しかも人種まで)キャラをここまでしっかり演じきるその役者力にともかく脱帽。この憎みきれないロクデナシなイタリア系(スコセッシ映画並みのイタリア感)主人公をここまで魅力溢れる人物にしたヴィゴの力はまさに主演男優賞。正直マハーシャラ・アリよりもヴィゴの方が圧倒的に上手でした。結構甘々で、リアリティよりもファンタジーに偏りがちなこのお話に、その事に気付かないくらい入り込めるのはヴィゴのリアルなんだけどそこはかとなくコメディに寄ったそのバランス良過ぎる演技のおかげ。受けのマハーラシャさんの安定の旨さと相まってバディロードムービーとしての王道として古き良き伝統を受け継いでいるのがオールドファンとしては何気に嬉しかったりする、そんな佳作でした。
【85】
「スパイダーマン:スパイダーバース」
いやもう多分これからのアニメはスパイダーバース以前/以後と語られる事になるであろうというくらい圧倒的な衝撃を受けたエポックメイキングになりうる傑作。CGと手書き(!)を駆使したその映像はまさに「アメコミが動いている」という印象。とにかく全てのカットに凄まじいまでに手がかかっていて、一切手抜きがないものだから、情報量が凄まじく、一回観ただけではその全容はきっと把握できないだろうという超レベル。モーションキャプチャーでクネクネ動き回るキャラのリアルさは勿論、スパイダーマン特有の浮遊感の気持ち良さや、空間を縦横無尽に動きまくる無重力感は酔いそうになる程(IMAX3Dだと増加します)。とにかくその革新的映像を体験するだけでも観る価値ありです。そんな新体験の映像で語られるのが王道の成長ストーリーというのがまたこの映画のお見事な所。主人公のマイルスがマイノリティな黒人少年だったり、メンターとなるピーター・パーカーがホワイト・トラッシュだったりという設定からして新機軸(意識はないかもですが)なんだけれど、その二人がヒーローとしての自覚と責任に目覚めていくストーリーはスパイダーマンの王道。なので革新的な映像なのに至極素直に映画に入っていけます。色々なユニバースのスパイダーマン登場それぞれの絵柄(!)そのままで登場するサービスシーンもそれがきちんとストーリーに絡んでいるという驚き。そういう所でももこれが「映像ありき」の映画では無いという証拠で、その王道のストーリーを語るためにこの映像が必要だったという間違っていない順番がこの映画の素晴らしい所。兎にも角にも「未来のミライ」やらが束になっても絶対叶わないアメリカエンタメ界の底力を痛感した傑作です。
【90】
「ウトヤ島、7月22日」
ポール・グリーングラス版とは違う目線で2011年7月22日のノルウェー連続テロ事件を描いた映画。何と言ってもこの映画最大の特徴は事件発生から終息までの72分間をワンカットで描いた事。この手のワンカットものって本当すごいなあと思うのは、全てを思考して計算して準備してリハーサルして迎える本番で一つのミスも許されないプレッシャーのなかで撮影してるって事。その努力・苦労には本当に頭が下がる思いでありますが(「カメラを止めるな」ですな)、映画の出来はそれとこれとは別。この映画に関してはどうにも無理矢理感が目立ってしまったちょっと残念な映画となってしまいました。いやそこまで酷いという訳では無くて、一切の情報が無い圧倒的な恐怖感の中いつ殺されるか分からないという圧倒的な状況の再現率は相当高く、ワンカットという緊張感と強要される集中力と相まって、観ている間そのサスペンスのテンションにやられっぱなし。なので相当疲れます。主人公の女子学生の行動に絞ったその構成もなかなかで、その女子学生の目を通して観る状況はまさに地獄。絡むキャラたちもそれぞれ個性的でそういう意味では作劇としてもきちんとした映画ではあるのだけれど、72分という時間の制約がどうも悪い方向に行ってしまったようで、途中時間稼ぎとしか思えないシーンが何回も挿入され、しかもそれが映画のリズムを壊してしまっているのが勿体無いというか力不足というか。ワンカットという括りがなければそこは上手く処理できた些細な事なんだろうけれど。そういう意味でもワンカットの功罪が両方如実に出た映画であると言えるでしょう。
【85】
「運び屋」
イーストウッド師匠久々の主演・監督作。という事で相当期待してました。粗筋などから、最近の豪勢な実録ドラマ路線(それはそれで老生の円熟味で渋くていいのだけれど)からちょっと離れた往年の(やっぱり自分が好きだった)エンタメ寄りな映画になると期待してました。結果、昨今の師匠の中では一番エンタメ性の強い痛快作となっておりました。師匠も御歳89歳。90歳の主人公はそのまんま師匠。映画は商売に失敗し、孤独な老後を過ごす主人公の最後の冒険を通じた後悔と贖罪の物語なのだけれど、その冒険が犯罪であり、しかも主人公が聖人では無く、普通の俗物というところがミソ。元々若い頃は主役を演じる際は全て師匠本人というスタンスなので、今回もその路線を踏襲した感じ。なので今回ももうまんま師匠の人生の縮図。というかこれはもう映画という名の師匠の壮大な家族へ向けての言い訳。なので正直この主人公の生き様には?と思う所も多いし(浮気や自分勝手な行動を妻に悔いておいてその足で若いネーチャンとイチャイチャするのはどうなんだろう笑)、そもそもその贖罪の手段が犯罪というのも(しかも麻薬密売)てのはどうにも納得できないし、ブラッドリー・クーパーにどの面下げて説教出来るんだとか色々思う所はあるけれど、それはもうこれまで人生の酸いも甘いも経験し尽くした師匠だからこそ許されるもの。こういうキャラを嬉々として演じている師匠のヤンチャぶり(というか開き直り)にホノボノしつつ、反面教師として観るのがこの映画の真っ当な見方なのかもしれません。
【75】
「イップ・マン外伝 マスターZ」
イップ・マン3で華麗すぎるアクションと甘いマスクで存在感を示したマックス・チャン=チョン・ティンチのその後を描いたスピンオフ。いやーこれはもう古き良き日活活劇というか東映ヤクザ映画というか昭和任侠伝というか、とにかくもうコテコテすぎる人情映画であり勧善懲悪映画。なので物語に関しては安心して楽しめます。それに加えてマックス・チャンのキレキレすぎるアクションの数々。キレすぎてて何やってるか分からないくらいの激しすぎるアクションがユエン・ウーピンの伝統芸ワイヤーアクションによってさらに魅力爆発。それに加えて斜に構えた演技にイケメンっぷりも妙にはまりもうこれだけでお腹いっぱい。まあ映画監督としてのウーピン氏の腕前は…なので稚拙な所や大雑把な所もいっぱいあるのだけれど、それもまたご愛嬌。その荒削りな所がパワーになっているあたりも往年の日本映画を彷彿とさせて興奮は増加。まさに”考えるより感じる”映画となっております。すでに公開が決定(やった!)しているイップ・マン最終章では是非もうゲストでいいので負の感情では無い正々堂々とした詠春拳対決を見せて欲しいと切に願います。
【85】
「キャプテン・マーベル」
壮大なるクライマックスへ向けての最後のピースである「キャプテン・マーベル」。さすがのマーベル、今回もさすがの面白さでありました。今回は”自分探し”がテーマのミステリーアクション。かなりチートなパワーを持つキャプテン・マーベルの失われた記憶に隠された秘密を巡り様々な陰謀に巻き込まれ立ち向かうヒロインの戦いと成長を描くというのはマーベルのヒーローもののある意味定番。というかマーベルの上手いのはシリーズ1本目は必ずヒーローの成長をテーマにしている事。もちろん作劇の定番である成長物が選択されるのは至極当たり前なのかもだけれど、スーパーパワーを持っていても彼らが一人の未熟な人間として等身大に観られるような描き方が徹底されているのがマーベルの戦略のうまさ。なので今回のキャプテン・マーベルにしても品行方正な完璧な人間では無く、傲慢で高飛車なようで人間的な弱さを併せ持つ魅力的なキャラとして描くことに集中しているのがわかります。それは演技派ブリー・ラーソンをキャスティングした事にも関係。肉体改造でヒロインの外見を作りつつ、内面の人間らしさを繊細に表現できる役者という意味でもこのキャスティングは成功だったと言えるでしょう(普段の凛々しさの中、時たま見せるたまらなく可愛い表情がこの人の真骨頂なのでしょう)。まあ映画としては構成に難ありで、こういう複雑な構成にせずにストレートにした方が伝わりやすかったとは思いますが、サミュエル・L・ジャクソンの若かりし頃の姿(しかしこれがCG処理だと知った時の衝撃…技術の進化に驚くばかり…)のバディ&コメディリリーフぶりも楽しく、やっぱり立ち上がるヒロインの姿に普通に興奮したりもするので、全体としてはさすがのマーベル映画というレベルの映画でした。しかしここまでチートなキャプテン・マーベル、一人でサノス倒せるじゃんと思いきや…(!?)
【75】
「バンブルビー」
圧倒的物量と精巧すぎるCG、そして頭の悪すぎる中二病的ストーリーでどんどん尻窄みしていった「トランスフォーマー」シリーズのスピンオフにして仕切り直しの(製作側にとって)勝負作。監督にコマドリアニメの俊英トラビス・ナイトを起用しての賭けは果たして成功か否か。で結果。これ非常に良く出来た快作でした。とにかくバンブルビーが可愛い。彼ある事情で話す事が出来ないのだけれど、そのジェスチャーや動きで感情が全て理解できてしまうのはさすがのアニメ監督、その動作や見せ方が全てが完璧。一人の寂しい少女の良き友人であり、ペットでありメンターでもある、そんなかけがえのない存在がものすごく魅力的に描かれているから、もうそれだけで成功なのだけれど、それだけでなくバトルにおいても速さやカメラワークで誤魔化すのではなくきっちりと見せてくれるものだから一々興奮。敵キャラも性格設定もそうだけれど兎に角カッコいいというかおもちゃが欲しくなるような動きをきちんと見せてくれるのが本当に素晴らしくて、その辺りは動きにこだわるアニメ監督をこの作品に起用したプロデューサーの慧眼。ストーリー自体も少女の成長物語から離れない作りが徹底されていて、宇宙規模だった今までよりもスケールが小さくなったようでいて実は前日譚として機能しているという凝った作りは非常に上手いというか中々知的。主人公を演じるヘイリー・スタインフェルドがチャーミングに等身大の少女なのがまた素晴らしく、兎にも角にも”少女の成長物語”というジュブナイル路線で80年代を駆け抜けたスピルバーグ印の諸作品のような心温まる痛快作でした。
【85】
「ブラック・クランズマン」
これは一言、「言えばいいってもんじゃあない」って感じかと。声高にテーマを直接そのまま叫んでしまうのはちょっと幼稚じゃあないかなあと。そりゃストレートな分熱い思いというか、主張は非常に伝わるけれど、それならこんなコメディのようなストーリーを仕立てる意味が無いかなあと。政治がしたけりゃ政治家になりゃあいいんでないかなあなんて観た後思っちゃたりする映画なら、そういう映画の作り方をすればいいのに、こういう”物語”を語ろうとするのなら”物語”で完結させるのがカッコいいと思うのだけれど。そういう意味でどうにも幼稚な映画だと思います。スパイク・リーは元々そういう人だからそれはそれでいいのだろうけれど、正直「グリーン・ブック」の方がよっぽど問題提議としての意義も強いかと感じました。
【65】
「レゴ(R)ムービー2」
前作がその年のベスト1だった者として今回も期待大でした。そしてその期待は裏切られる事はありませんでした。襲撃事件から数年が経過したブロックシティは、荒れ果てていた。ある日、お気楽なエメットの前に謎の宇宙人が出現し、ルーシーやバットマンを連れ去ってしまう。仲間の救出に向かったエメットがたどり着いたのは、クイーンが支配する銀河で最も危険な惑星だった…(Yahoo映画より)とまあストーリーは完全に前作の続き。今回も一筋縄ではいかない、尽く外しまくったストーリーが展開するのだけれど、前作に続きまさかのハートウォーミングな家族のストーリーとして着地するそのストーリー構成の巧みさは、前作に勝るとも劣らないアクロバティックな驚きと興奮に満ちていて本当に刺激的。パロディと一見幼稚なギャグ満載に見えるこの映画自体が”そうである意味”があるというその多元的な構造なのが前作と同じく非常に知的。「スパイダーバース」にも絡んでいるフィル・ロード、クリストファー・ミラーのバカなようでいて実は相当切れ者コンビの本領が今回もいかんなく無く発揮されています。ファンタジーがリアルを超えるその瞬間の興奮は映画以外では絶対感じる事の出来ない類の感情で、この二人は製作した映画全てでそれを意識しているのが明白。なので今一番映画的興奮を味わえるのはこの二人の映画であると痛感しました(ちなみに「ボヘミアン・ラプソディー」のライブエイドのシーンもファンタジーがリアルを超える瞬間だったと思います)。まあそのお馬鹿すぎるノリやパロディ満載感でちょっと敷居が高いかもしれないこの映画ですが、そういうノリが合わなくても(というかそこを流しても)本来映画の持つマジックを感じられる稀有な傑作シリーズです。
【90】
その他の鑑賞映画
「CARGO カーゴ」【65】
「LBJ ケネディの意思を継いだ男」【70】
「ザ・リチュアル 生贄の儀式」(Netflixオリジナル映画)【65】
「聖おにいさん(2013)」【55】
「ブレイン・ゲーム」【75】
「トイ・ソルジャー」【65】
「二人の女王 メアリーとエリザベス」【70】
「エレクション」【75】
「MUTE」(Netflixオリジナル映画)【75】
「キラー・メイズ」【60】
「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」【80】
「ANON アノン」【60】
「ソード・オブ・ディスティニー」(Netflixオリジナル映画)【70】
「ピッチ・パーフェクト ラストステージ」【50】
ここでお得な映画番組情報‼︎台東区の銭湯「有馬湯」をキーステーションにお送りする毎回1本の映画について僕の友人である40代男達が語るポッドキャスト「セントウタイセイ.com」。かなりマニアックなものから有名どこの邦画を独特すぎる視点で時に厳しく時に毒々しくだけど基本は面白おかしく語っておりますので、是非聞いてやってくださいませ。
よろしくお願いします‼︎