2016年12月鑑賞映画ひとことレビュー

 

早いもので今年も終わり。

というわけでラスト12月の一言レビューを。

12月の鑑賞本数は21本。

例によって箸にも棒にもかからないものは書きません。

では。

 

「ブレア・ウィッチ」

今更感がありまくりのまさかの続編。今改めて1作目を見るとなんだかんだでよくできてたなあと思ったりもしますが(かなりの緊張感とスリルがあり、全体に漂う不穏な空気というかイヤーな雰囲気は何気にしっかりした演出の賜物でしょう)、正直その続編と言われてもあまり興味は持てなかったのですが、それでも観ようと思ったのは監督がアダム・ウィンガードだったから。この監督、デビュー作「サプライズ」で名を上げた期待のホープで、特に2作目「ザ・ゲスト」のサスペンスミステリーとしての完成度はなかなかのもの。次回作がハリウッド版「デスノート」なので、そういう意味でも今回のような企画モノで本当の実力を確かめようと思ったりしました。で。結果。この監督、やっぱり侮れないなというのが結論でした。基本、1作目を踏襲したファウンドフッテージもので、まあ雨後の筍のように作られたフォロワーとそう大差はないのですが、そこはウィンガード、その中でも音と映像(何気に1作目に敬意を捧げてるのも高感度大)で緊張感を盛り上げつつ、キャラクターへの丁寧な演出で感情移入をしっかりとさせるという基本を守っています(ここやっぱり大事で特にこういう手法の場合ここが一番の分岐点かと思います)。1作目の謎に対して答えを用意(というか見せてしまう)してしまうというのは結構諸刃の剣かなあとは思いますが(特にその正体が今ひとつなので)そこはやっぱりB級魂。明かさずにはおれないその気持ちこそがこの監督の愛すべき長所なのでしょう。まあ全体としては手法も含め今更感がハンパない遅れてきた映画ではありますが、さらに強化された悪意に満ち満ちた雰囲気と恐怖感は一見の価値ありかと。いやまあ映画館で高い金出してまでという気持ちも少しありますが(笑)

★★★

 

「シークレット・オブ・モンスター」

異様な雰囲気の予告編が気になり、期待した本作。いやー予告編詐欺でした。

一人の少年が独裁者になるまでの軌跡を描くということで、サルトル原作ということもあり、心理学的・文学的なアプローチで丹念にその心の内を描いてくれるものと思っていたのですが…アートデザインや映像、音楽などやたら豪華で仰々しく、それはそれで見応え、聴きごたえはあるのですが、如何せん語りが微妙。この少年の非常識な行動の理由が全くわからないし、それならそれでその理解不能さを共有できる人物を出せばいいのにそれが一切いないため、見てるこちらはただただ退屈。もちろん神目線の理解不能さを見せる映画もあるし、それはそれで傑作も多いのですが(キューブリックですね)、それにはよほど卓越した演出力と観察眼が必要なわけで、いかんせんこの監督にはそこまでの才能とセンスがない。だからただ頭のおかしな少年の奇怪な行動(しかも理由が見えないだけでやってる行動はありきたり)を見せられただただ不快な気分になるだけで、途中何度も投げ出しそうになりました。実際、唐突に独裁者として登場するラストに違和感しか感じないのは、この手の映画として失敗している証拠。総じて監督の力量不足が原因のもったいない映画でした。ただ、重厚すぎる音楽だけは傑作です。

★★

 

「東京無国籍少女」

いやまあ押井監督の実写映画はもはや批評云々の問題ではなく、もう独特の「つまらなさ」がもう恒例なので、今更どうこう言うべきものではないのかもしれませんが(笑)、それでもこれはひどい。いやもうこの世界観は押井氏以外にはありえないのでそれが嫌なら観るなって話ってなんですが、これはもう実写の邦画では表現不可能な世界観であって(アニメなら違和感ないんです。つまりはそれだけ非現実な世界観なわけで)それを無理やり実写でやってしまったコスプレ感が…もはや学生の自主映画と大差ない感じがハンパなく恥ずかしい。まあそれはそれでそう言うものとして楽しめばいいわけで、そこに文句を言うのは間違っている気もしますし、ラストの超絶アクションもそう言うものとして楽しめばいいだけなんですが(とはいえそのアクションも全体的にゆるく締まりがない感じなのは何故なのでしょう)、全体として正直少しゆるいと言うか練り込み不足感は否めないかと。そう言う意味で”押井”印のスチャラカ実写映画の中でも失敗作なのではないでしょうか。

★★

 

「ドント・ブリーズ」

これぞ”ザ・B級!”というまさに快作。”目の見えない老人が実は凄腕の殺人マシーンでした”というワンアイデアで一気に突っ走ると思いきや、途中から都市伝説的なサイコサスペンスへシフトしていくというウルトラB級テイストがたまらないまさに20年に1本のバカ映画(ホメ言葉)です。圧倒的な存在感で凶悪”ブラインドマン”を演じたスティーブン・ラングの怪演はもとよりどこから見てもDQNな三人組もナイスキャスティング。特にヒロインのビッチ感の中の高潔さと真面目さのブレンド感はナイスなチョイス。そんな絶妙なキャスティングを得て、微妙だったリメイク版「死霊のはらわた」のアルバレス監督も見事なB級手腕を発揮。見せるものはきちんとみせ、見せないものはごまかすというB級の鉄則をきちんと踏まえ、それに加えての”やりすぎ感”もバッチリ。目が見えないということは音が重要になるということでその辺りもきちんと踏まえ、きちんと作り込まれ練りこまれたシナリオを丁寧かつ過剰な遊び心満載で演出した監督のセンスは、これ1作ではわからないけれどもしかしたら化けるかも。特に銃がこれほどまでに”凶器”として怖いのは久しぶりの感覚でした。

とにもかくにも全体に張り詰めた緊張感と後味悪すぎるラストが妙に心地いいこのB級映画、快作です。二本立てで観に行ったら目当てじゃない方がめちゃくちゃ面白かった系映画の称号を与えます。

★★★★

 

「ライト/オフ」

二本立てで観に行ったら目当てじゃない方がめちゃくちゃ面白かった系映画第2弾。映画館で見逃したのでソフトで鑑賞。You Tubeで話題になった動画の映画化ということでイロモノかと思いきやしっかりと作られたB級映画の佳作でした。昨今多すぎるこの手の心霊映画で一番気になるのは幽霊の存在意義。目先の怖がらせばかりの力が入っていて肝心のストーリーがおざなりにされているのが大半で、結局幽霊何がしたいの?って意味のない感想が浮かんだりするのですが(結果と過程が逆なわけですね)、この映画、その辺りをしっかりと練りこんでいるのが好感度高し。まあライトのオン・オフで現れる幽霊という大前提があるので、ある意味そこからの逆算で考えて行ったのだろうけれど、まずは一家族だけに舞台を限定したことが正解。下手に広げることなく一家族にまつわる物語としたことにより深くキャラを掘り下げることができ、またそれによって感情移入が容易になり恐怖感も倍増。実際相当怖い映画となりました。さらに幽霊をダイアナという化け物として理由づけした設定を用意したことにより、物語として枠ができて、しっかり筋が通った映画となりました。ライトのオン・オフで見えたり見えなかったりする幽霊の描写も秀逸で、きちんと考えられている描写も多数あり、そういう意味でも”真面目”な映画でした。「イット・フォローズ」と双璧をなす、間違いなく今年を代表するB級映画の傑作です。

★★★★

 

「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」

(ネタバレあり!)

公開前に色々とマイナスな情報が流れ、正直不安だったSW新スピンオフ第1弾。やれ暗いだの地味だの中国市場気にしすぎだの、果ては取り直し指令まで出る始末だったこの映画がまさかここまでの傑作になろうとは…ほんとわからないもんです。「新たなる希望」の冒頭字幕で説明されたデススター設計図入手にまつわる無名の戦士たちの熱き戦い。それを往年の戦争映画(「ナバロンの要塞」とか「戦略大作戦」とか)のテイストで描かれた日にはそれはもう興奮するなって方が無理ってもので。”ローグ=ならず者”集団ってところは「特攻大作戦」を彷彿とさせるし、監督のギャレス・エドワースは「ゴジラ」の時に見えていた妙な自主映画作家的なこだわりを捨て、あくまでもSWシリーズの1作に徹しているのも素晴らしい(とはいえ天変地異的破壊シーンを始めとすデス・スターの圧倒的な存在感、空に浮かぶスター・デストロイヤーの勇姿、海岸を練り歩くAT-ACTのかっこよさなどそこここにSWマニアとしての矜持が見えるのが面白い)。そしてこの映画が異質なのは現実世界の情勢をかなり意識していること。帝国はもちろん悪だけれど、反乱軍も決して純粋な正義ではないし、過激派もいれば穏健派もいるわで一枚岩でもない。そんな複雑な情勢の中で歴史を作った戦士たちに光を当てるというのは本当に戦争映画の方法論。SWを神話じゃあなく、あくまでSFとして捉えたところが「ローグ・ワン」の新機軸であり、SWワールドの可能性をさらに広げることに成功したことがこの映画の本当の功績だと思います。まあ多分クライマックスのシールド関係のド派手な戦闘シーンは噂の追撮なんだろうし、そこここでバランスがおかしいところもあるものの、まさかのモフ・ターキン!を始めとするEP4のキャラの絶妙なバランスのチョイ見せや、ダースベイダーのチョイ役以上の大活躍、我らがドニー・イエンのまさかの一番美味しいとこどりなど、ファンならずとも興奮すること必至なサービス精神も旺盛。正直ディズニーの商業主義に毒されたものが出てくるとばっかり思っていたSWにまさかここまでガチな映画が出てくるとはいい意味で予想外でした。

★★★★

 

「聖杯たちの騎士」

復活してからのマリック教授はもはや詩人というか哲学者なのでもう面白いとかつまらないとかそんなありきたりな判断をしてしまうこと自体がもうおこがましい。この映画に関してももう全てを理解することは僕のような凡人には不可能。もう観た後の感覚(感想ではないです)を信じるしかないという次元の話になってしまいますが、そういう意味においてこの映画、正直僕の感性には合わなかったです…というのも今回、聖杯=真実の愛=理想の女性を探す主人公の心の旅がテーマなので、そこまで恋愛に対して深く考えたことのない自分にとってマリック教授の愛に対する深淵な考察がどうにもピンとこないというか悲しいくらいに心に響かなかったです。それはもうある意味自分という個人に根ざす問題なので、この映画に関してはそれぞれ人によって感じ方、面白方が違ってきて当たり前。もちろん圧倒的な映像美と独特なかつ考え抜かれた編集によるマリック節は今回も全開で、純粋にそこには感嘆、嘆息するのだけれど、復活する前の「天国の日々」とか「地獄の逃避行」のようなシンプルかつ重厚にドラマを語るマリック教授の一般向けの公開講義を是非お願いしたいです。

★★★

 

「バイオハザード ザ・ファイナル」

いやーひどい。つまらない。ここまでひどい映画を劇場で見たのは久しぶりでした。ありきたりかつおざなりかつ辻褄が全く合ってないシナリオ、やたらガチャガチャして何が起こっているのかさっぱりわからない陳腐な演出。暗すぎて何やってるかわからない映像。加齢のせい(?)かキレが全くなくなったのに無理してやってるのが逆に痛々しいアクション。もう全てが最低レベル。これがファイナルというのはこれ以上醜態を晒さずに済んで逆に良かったのかも。さすがのダメな方のポール・アンダーソン、この人がどうしてここまで映画を撮り続けることができるのか不思議でしょうがないのだけれど、これが日本で大ヒットしてるのを見ると、日本における洋画の立ち位置がわかるようで、色々な意味で切なくなりました。

 

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」

力作。イギリス軍諜報機関のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、ケニア・ナイロビ上空の偵察用ドローンからの情報を基に、戦地からほど遠いロンドンでアメリカとの合同軍事作戦を指揮している。大規模な自爆テロ計画の情報をキャッチした彼女は、アメリカの軍事基地にいるドローンパイロットのスティーブ(アーロン・ポール)に攻撃を命じるも、殺傷圏内に少女がいることが判明し…(Yahoo映画より)

という内容からもわかるように、ひたすら重いサスペンス。登場人物それぞれに自分の理があり情があり、正義があり、悪がある。それが一つの究極の判断を巡り各々自分に問いかけ、時に爆発し、時に激論を交わし、時に苛立ち、時に怒る。その様子を畳み掛けるスリルとサスペンスで引っ張る演出は暴走することもなくある意味淡々と描いていく。だけれどそれぞれの役者(全員ハマリ役。特にヘレン・ミレンの猛女ぶりが凄まじい)の熱演が淡々とした演出の中でひときわ際立ち、それぞれの心の葛藤を明確に表していくのが素晴らしい。またこの正解のない問題に対してこの答えを用意する製作陣の心意気というか根性もまた素晴らしく、その硬派な姿勢がこの映画を見るべき力作にしているのだと思う。観てる間はその強烈なスリルとサスペンスに圧倒され、観終わった後にくる圧倒的な感情のうねり。あまり宣伝もされてなく、劇場も少ないけれど、色々な人に観て欲しい真面目で硬派で真摯な良質のサスペンス映画です。必見。

★★★★

 

ここでお得な映画番組情報‼︎台東区の銭湯「有馬湯」をキーステーションにお送りする毎回1本の映画について僕の友人である40代男達が語るポッドキャスト「セントウタイセイ.com」。かなりマニアックなものから有名どこの邦画を独特すぎる視点で時に厳しく時に毒々しくだけど基本は面白おかしく語っておりますので、是非聞いてやってくださいませ。

よろしくお願いします‼︎