アメリカン・スナイパー
アメリカ最強の狙撃手、クリス・カイルの自伝を基にした戦争ドラマ。
っていう今更の内容を書く必要もないくらい話題の映画ですね。全米大ヒット、各方面で論争を巻き起こし、アカデミーの大穴とも言われ(結局一切絡まなかったけど)、日本でも初登場第1位。評論家(と昔ながらの映画通)にやたらと受けはいいけれど、まあそんなにヒット作がなかったイーストウッド御大にとって、齢84にして何回目かのピーク(というかブーム)が訪れるという事態に。
で、ここまで話題になっていて、いたるところでこの映画の評価なり評論なりが出回り、かついままた御大の回顧がやたら書かれたりしてるので、この映画に対しての自分なりの評論ていうのが今ひとつ意味がないというか、分析に関しては正直勝てる要素がない(というか勝ち負けではないけれど笑)ので、本当に個人的な感想を書き連ねていこいうと思います。
観終わった後の正直な気持ちは「うーん、どうなんだろう」でした。
と同時に「これは簡単な映画ではないなあ」とも。そして「正直どうしたもんか」っていう戸惑いも。
いや決してつまらないわけではないし、映画としての完成度はさすがの一言。余計なものを一切省き、研ぎ澄まされたナイフのようなシンプルさは円熟期の御大の特徴だけれど、今作でもそれは健在で、一切の装飾を施さないそのスタイルは自然を捉えたドキュメンタリーのようにシンプルな感動を持たらせてくれます。
この映画、クリス・カイルの半生を描いたノンフィクションなわけで、人生には映画のようなドラマティックなシーンがあるわけでもない(現実に編集があるわけじゃなし)。人生の場面場面を切り取って構築されるこのような映画の場合、こういうシンプルなアプローチは退屈しがちになるのはある意味しょうがないこと。その体躯さ加減を演出や編集、画面構成や語り口でどういう風に解消すのかが監督の腕の見せ所なわけで、そういう意味ではさすがの御大、そんな中でも映画全体に流れる緊張感と狂気は見事に表現されてます。しかも御大の達観はもはや神レベルで、クリス・カイルというまさにザ・アメリカンな人物が戦場で狂っていく様をなんの誇張もなく、ただ淡々と描くことで、逆にアメリカのこの40年の苦悩と迷走と衰退を表現してます。またその中で自分のメッセージを声高に叫ぶのではなく、しみ込むように表現し、かつ観客にその意味について考えさせるその方法がここまで許されるのは御大の今までの経験と年齢からくる達観のおかげ。
要はこの映画、一人の兵士の生き様を通して、「アメリカええ加減目を覚ませや」っていう御大の母国への提言(とうか苦言?)を表現する映画であってそれ以上でもそれ以下でもないわけで。そういう意味においてこの映画には無駄が多い。だからこそ逆に敵の狙撃手は必要無かったと思うし(テーマを明確にするためのキャラってのは十分承知ですが、それならある意味スターリングラードみたいな分かり易い映画にするべきかとも思う)、西部劇のような設定や展開は正直無意味。それを嬉々として描いてる評論は論外かと)戦闘シーンにもここまでの派手さは必要なかったのかも。ブラッドリー・クーパーは確かに名演だけど(特に死んだ魚の目状態は見事)あまりに繊細かつシンプルすぎる(正直それを印象づけられるほどの演技ではないと思う。抑揚がないから大事なところが印象に残らない。そういう意味でまだまだデニーロとかには叶わないかなあと。あと彼がなぜ伝説になるくらいのスコアを残せたのかという説明がない以上、そこに説得力を持たせるのは役者の仕事だと思うのだけれど、どうにもそれがわからないのは役者の力不足ですよね)どうにもこの人のキャラ立ちの無さはいかがなものかと。どうも御大の狙いとブラッドリーの狙い(彼はもう少しエンタメよりにしたかったんだろうなあ…)ズレが前述したようなこの映画のちょっとしたアンバランスさの原因なのだろうけれど、まあ御大のことだからテーマを明確にするためのある意味狙いかもですが(そしてそれは成功してます)。
結局、戦場のリアルなら「ブラックホークダウン」の方が遥かに迫真だし、戦場の狂気とPTSDならほかにもたくさんの名作があるわけで(「西部戦線異状なし」から脈々と受け継がれてます)、今あえてこのような表現方法でこの映画を製作した意図は、やっぱり御大の(ある意味)祖国への遺言なわけだと思います。その実、御大のアメリカへの複雑な思いも関係しているのかも。苦言を呈しつつも実はそれほど愛してないアメリカへの想いの無さというか興味の薄さというか諦めが底の方にあるように見えるのは穿った見方なんでしょうか。でもラストのクリスの葬儀の様子を物凄く怖く感じたのは僕だけではないと思います。そういう意味では御大の意図はしっかりと伝わってきました。
ただ。正直前作「ジャージーボーイズ」のような、これぞ映画!!っていうエンタテインメントの方が遥かに御大の腕の冴えが見えると思うのは僕の個人的趣味なんでしょうかねえ…(泣)
★★★
アメリカ最強の狙撃手、クリス・カイルの自伝を基にした戦争ドラマ。
っていう今更の内容を書く必要もないくらい話題の映画ですね。全米大ヒット、各方面で論争を巻き起こし、アカデミーの大穴とも言われ(結局一切絡まなかったけど)、日本でも初登場第1位。評論家(と昔ながらの映画通)にやたらと受けはいいけれど、まあそんなにヒット作がなかったイーストウッド御大にとって、齢84にして何回目かのピーク(というかブーム)が訪れるという事態に。
で、ここまで話題になっていて、いたるところでこの映画の評価なり評論なりが出回り、かついままた御大の回顧がやたら書かれたりしてるので、この映画に対しての自分なりの評論ていうのが今ひとつ意味がないというか、分析に関しては正直勝てる要素がない(というか勝ち負けではないけれど笑)ので、本当に個人的な感想を書き連ねていこいうと思います。
観終わった後の正直な気持ちは「うーん、どうなんだろう」でした。
と同時に「これは簡単な映画ではないなあ」とも。そして「正直どうしたもんか」っていう戸惑いも。
いや決してつまらないわけではないし、映画としての完成度はさすがの一言。余計なものを一切省き、研ぎ澄まされたナイフのようなシンプルさは円熟期の御大の特徴だけれど、今作でもそれは健在で、一切の装飾を施さないそのスタイルは自然を捉えたドキュメンタリーのようにシンプルな感動を持たらせてくれます。
この映画、クリス・カイルの半生を描いたノンフィクションなわけで、人生には映画のようなドラマティックなシーンがあるわけでもない(現実に編集があるわけじゃなし)。人生の場面場面を切り取って構築されるこのような映画の場合、こういうシンプルなアプローチは退屈しがちになるのはある意味しょうがないこと。その体躯さ加減を演出や編集、画面構成や語り口でどういう風に解消すのかが監督の腕の見せ所なわけで、そういう意味ではさすがの御大、そんな中でも映画全体に流れる緊張感と狂気は見事に表現されてます。しかも御大の達観はもはや神レベルで、クリス・カイルというまさにザ・アメリカンな人物が戦場で狂っていく様をなんの誇張もなく、ただ淡々と描くことで、逆にアメリカのこの40年の苦悩と迷走と衰退を表現してます。またその中で自分のメッセージを声高に叫ぶのではなく、しみ込むように表現し、かつ観客にその意味について考えさせるその方法がここまで許されるのは御大の今までの経験と年齢からくる達観のおかげ。
要はこの映画、一人の兵士の生き様を通して、「アメリカええ加減目を覚ませや」っていう御大の母国への提言(とうか苦言?)を表現する映画であってそれ以上でもそれ以下でもないわけで。そういう意味においてこの映画には無駄が多い。だからこそ逆に敵の狙撃手は必要無かったと思うし(テーマを明確にするためのキャラってのは十分承知ですが、それならある意味スターリングラードみたいな分かり易い映画にするべきかとも思う)、西部劇のような設定や展開は正直無意味。それを嬉々として描いてる評論は論外かと)戦闘シーンにもここまでの派手さは必要なかったのかも。ブラッドリー・クーパーは確かに名演だけど(特に死んだ魚の目状態は見事)あまりに繊細かつシンプルすぎる(正直それを印象づけられるほどの演技ではないと思う。抑揚がないから大事なところが印象に残らない。そういう意味でまだまだデニーロとかには叶わないかなあと。あと彼がなぜ伝説になるくらいのスコアを残せたのかという説明がない以上、そこに説得力を持たせるのは役者の仕事だと思うのだけれど、どうにもそれがわからないのは役者の力不足ですよね)どうにもこの人のキャラ立ちの無さはいかがなものかと。どうも御大の狙いとブラッドリーの狙い(彼はもう少しエンタメよりにしたかったんだろうなあ…)ズレが前述したようなこの映画のちょっとしたアンバランスさの原因なのだろうけれど、まあ御大のことだからテーマを明確にするためのある意味狙いかもですが(そしてそれは成功してます)。
結局、戦場のリアルなら「ブラックホークダウン」の方が遥かに迫真だし、戦場の狂気とPTSDならほかにもたくさんの名作があるわけで(「西部戦線異状なし」から脈々と受け継がれてます)、今あえてこのような表現方法でこの映画を製作した意図は、やっぱり御大の(ある意味)祖国への遺言なわけだと思います。その実、御大のアメリカへの複雑な思いも関係しているのかも。苦言を呈しつつも実はそれほど愛してないアメリカへの想いの無さというか興味の薄さというか諦めが底の方にあるように見えるのは穿った見方なんでしょうか。でもラストのクリスの葬儀の様子を物凄く怖く感じたのは僕だけではないと思います。そういう意味では御大の意図はしっかりと伝わってきました。
ただ。正直前作「ジャージーボーイズ」のような、これぞ映画!!っていうエンタテインメントの方が遥かに御大の腕の冴えが見えると思うのは僕の個人的趣味なんでしょうかねえ…(泣)
★★★