ホビット 決戦のゆくえ
どうしても大傑作「ロード・オブ・ザ・リング」3部作と比べてしまうのでなんか「ホビット」には申し訳ないのだけれど、正直このシリーズに対しての評価は高くありません。
いや映像的には相変わらずの超スーパークオリティだし、アクションシーンもさすがの迫力。世界観もこれ以上ないほどの作りこみ方ですっきり入り込めるし、スマウグはもはや本物としか思えないほどの存在感。部分部分を取ってみればほんとめちゃくちゃレベルの高い映画なんですけど(特に3作目の冒頭10分間は大興奮。今年度ベストアクションシーンです)。
でもどうにも面白くない。というか興奮しない。というか燃えない。
で、いろいろ原因を考えてみたわけです。
そして気づきました。
あー「ホビット」にはアラゴルンとサムがいないんだと。
これって原作がそうだからしょうがないのだけれど、「ホビット」って全体的に人間ドラマがものすごく稀薄というか幼稚というか重厚さがないんですね。悪くいってしまえばお子様向け。もちろんそもそもが児童向けのお話なのだからそういうものを求めてもいけないのかもしれないけれど、「ロード…」で人間の業や宿命を一心に背負い悩み戦ったアラゴルンはヴィゴの一世一代の名演と重なって圧倒的な存在感と物語のしっかりとしたラインを作りだし、またサムは我々がただただ応援・感情移入できるキャラとして、その役割を十分に果たしてくれたわけで(まあ実質の主役はサムだったわけですが)、要はこの二人(プラスゴラムの存在感)が「ロード…」を傑作足らしめているわけです(もちろん他にもたくさんの要素があるわけですが、基本的には人間ドラマの層が異様に厚いっていうのが「ロード…」最大の魅力なわけで)。
で。「ホビット」。
これはもうビルボとトーリンの魅力のなさに尽きると思います。ビルボ、マーティン・フリーマンの個性のせいかもですがどうにもふわふわしすぎというか何を考えているのかさっぱりわからないというのはやっぱり主役としてはどうなのかと。こういうお話の場合、主役は絶対に感情移入できるキャラでなくてはいけない(もちろんそうじゃない物語もたくさんありますが)のに、ビルボの飄々としすぎる個性はどうにも馴染まないというかあっていない。まあそれはフリーマンだけのせいじゃなくて物語上、ビルボにはこの旅における明確な目的がないんですね。だからビルボにはなんというか危機感というか存在感がない。なのでどうしても物語にのめり込めないんですね。
それとトーリン。彼結構いやな奴ですよね。王様のくせに自己中でわがまま。いやそれも一族の事を思ってっていうのはわかりますが、彼ドワーフのせいか気品というか威厳が感じられない。これはまあ役者の裁量にもよるんでしょうけれど、演出のせいもかなりあります。特に3作目。彼は金の魔力に取りつかれ閉じこもってしまうわけですけれど、そこからの復活が結局自問自答って!それはもう映画というか物語として最悪の展開なわけです。それを納得させるのが演出だと思うのですが、結局そのまま内面を映像化したのみ。そこはやはりきちんと部下のドワーフたちと絡めての人間関係上での解決を見せてこその映画だと思うのですが。結局実質の主役であるトーリンに魅力がないというか、ビルボとトーリンのどちらにも感情移入できないっていうのはもはや映画として完全に失敗だと思います(そういう演出というか場面を作っていない監督のセンスの無さは結構失望です)。
結局「ホビット」の欠点は原作に引きずられすぎたことだと思います。もともと2部作だったのを強引に3部作に持っていったせいか前2作はものすごくテンポが悪いし無駄も多い。そのくせ3作目は様々な要素を突っ込みすぎて全体の駆け足感がすごいしそのため全体に食い込み不足という悪循環。たとえば「ドラゴンスレイヤー」バルトなんてもっとしっかりと描かなければいけないキャラなのにあっさりと脇で終わらすのはいかがなものかと(彼とスマウグの扱いの温度差はホビットの欠点の一つだと思います)。正直レゴラスのドラマがこの映画に必要だったのかも大いに疑問だし、なんというかシナリオの戦略面でいろいろ失敗してるような気がします。それはやっぱり監督がジャクソンで「ロード…」に対する愛情っていうか思いがかなり大きくて、かなり「ロード…」に寄ったというか6作全体で「指輪物語」っていうシリーズ構成に執着したことの弊害なのかなあって思います。
結局、当初の予定どおり2部作でしかもデルトロが撮っていたらどういう映画になったのか、細部はともかくここまで「ロード…」に引きずられる映画にはならなかっただろうし、もっと独立したシリーズとして完成度は高くなったのではないかと妄想してしまいます。
とはいえ20年近く続いたこのシリーズもついに完結なわけで、もうあの中つ国の新しい物語は語られないって思うと、そこはやっぱり悲しいというか切ないです。
「ホビット」は全体的に…な出来でしたがやっぱりこの世界を堪能させてくれたピーターには感謝の気持ちとご苦労さま&やっと解き放たれましたねって言いたいです。
★★