トゥ・ザ・ワンダー
天才マリックの超問題作「ツリー・オブ・ライフ」に続く最新作。
今更マリックについてどうこう語るのも…もう「地獄の逃避行」「天国の日々」ほんと大傑作です。ここまで映像と物語のバランスが素晴らしい監督はほんといません。美しるぎる映像美と物語がそれぞれ絶妙に組み合わさって深い余韻を残す素晴らしい作品を生み出す。まあ20年たった後の「シン・レッド・ライン」と「ニューワールド」はさすがにブランクあけだったからか映像のほうに力入れすぎてて微妙にバランスが崩れてましたが。それでも凡百の映像美だけの監督たちとは一線を引く素晴らしい映画を作ってます。トンデモ映画「ツリー・オブ・ライフ」も凡百なボクには確かにすべてが理解できることができない映画ではありましたが、と哲学的思想に裏打ちされた映像の力強さ、美しさには圧倒されたし、観れば観るほど実はすべてのシーンに意味と意志があり、計算されていることがわかるという、良質の抽象画を見ているような気分になったりします。さすが哲学科教授。一筋縄ではいかないです。
そんなマリックの最新作。ひとことで言うなら「安手のラブロマンスを圧倒的な映像美と”愛”への哲学的思考でコーティングした唯一無二の映画」。
物語だけを追うならばほんとどこにでもある凡百なお話。
エンジニアのニール(ベン・アフレック)は旅行で訪れたフランスのモン・サン・ミッシェルで、シングルマザーのマリーナ(オルガ・キュリレンコ)と出会い付き合うことになる。アメリカで一緒に暮らし始めた二人だったが、やがて心が離れていくように。そんなある日、ニールは学生時代の友人ジェーン(レイチェル・マクアダムス)と久しぶりに会い、やがて彼女に心の安息を感じるようになり…。(Yahoo映画より抜粋)
これ、ほんとよくある恋愛ものです。それがマリックにかかると。
ありきたりな話法を一切排除し、祈りにも似た心の声と圧倒的に美しい詩的な映像の洪水の中に観客を引きずりこむ。ありきたりなラブロマンスと、人と神、新世界と旧世界の対立と共存、自然界における生物としての人間の存在意義などの崇高かつ哲学的な命題を均等に描いてしまうというその手法はまさにマリック節。男と女のなんてことないじゃれあいの中にしれっと自然界における人間の立ち位置を表現してしまうなんて離れ業はマリック以外には到底できないこと(というかやらないこと)。そしてそんなマリックが追い続ける命題の表現をこの映画の中で背負わさせるオルガ・キュリレンコの美しさと存在感。
ある時は愛の喜びに充ち溢れ、ある時はその愛の重みに耐えきれず、そしてまたある時は愛のままに感情を爆発させる、その行動のすべてがマリックの追い求めてる命題を表現している。そんな重責をオルガ・キュリレンコは飄々と見事に演じきる。そんな彼女の一挙手一投足がすべてマリックの作家としての表現方法になっているのだ。だからこそ一見プロモーション映像のようなシーンにも実はすべてに(物語を語る以外での)意志と意味があり、物語だけを追うのではなく、その世界に五感すべてを集中し、さらけ出さなければこの映画を観たことにはならないのだ。ただ観るだけではなく、入り込み、浸り、生きる。そんな唯一無二の映画体験を味あわせてくれる、それが孤高の天才マリックの作家性なのだと思う。
とまあ難しいことをつらつら書いてきましたが、この映画の鑑賞にあたり、偉大なる先人からひとこと。
「Don't think Feel」
★★★