ラストスタンド


似合わない州知事からようやくスキャンダルとともに復活したシュワルツェネッガー待望の(のというかやっぱり)の主演アクション。


いやもうこの映画、傑作です。


逃亡する凶悪犯を迎え撃つ田舎の保安官。FBIも太刀打ちできない最新鋭の火器と時速400キロで爆走するスーパーカーに対抗するのは平和ボケした保安官助手と武器マニアのボンクラとかつての栄光を引きずる街のチンピラ…


そうこのストーリー、完全に西部劇です。アメリカ映画に脈々と受け継がれる伝統工芸。そんな王道をこのご時世堂々とやってしまうところにまず拍手。

しかもそんな王道に、過激なドンパチやド派手なカーチェイスなど80年代テイストをぶち込み、さらに時速400キロで疾走するスーパーカーや旧ドイツ軍使用のガトリングガンなどの中2病全開のおバカなギミックを盛り込みつつ、ド田舎の住人たちののんびりしたユーモアをおりこみつつ、かつ志半ばで倒れる保安官助手の若者の運命にほろりとさせ、また昨今はやりの過激すぎる切り株描写まで網羅…もうここまでやればおなか一杯。ある意味アメリカアクション映画の歴史を1本に詰め込んだまさに「アメリカアクション映画の歴史教科書」。

もちろん作り手側にそんな高尚な意図はなかったでしょうが、とにかく楽しませようという過剰かつ真摯なサービス精神がこんな満漢全席みたいな奇跡の1本を生んだのかと思うと感激もひとしお。

もちろんいろんな欠点はあります。シュワルツェネッガーのキャラは掘り下げ不足だし(たぶんここをもうすこし掘り下げたらシリーズ化できたのに)、前記したアクションも実は盛り込みすぎで、バランスが取れてなかったりもします。盛り込みすぎて全体に中途半端感は免れないし、全体にもう少し丁寧に全体を構成すればもっとよかったのになあとは思ったりします。まあそれはひとえに監督の力量不足で、たとえばイーストウッドが若い時にこの映画を撮ったら一大傑作として歴史に残ったかもなあとか思ったりもします。というのもこの映画、シュワルツェネッガーのイーストウッドへの憧れというかオマージュが映画全体にあふれ出て、シュワルツェネッガーの演技がイーストウッドまんまのシーンがたくさんあります(こういうキャラクター自体が往年のイーストウッドへのオマージュですね)。もちろんイーストウッドとシュワルツェネッガーでは映画偏差値がだいぶ違うのでシュワルツェネッガーではこの映画が限界というかこふぇしかできないのですが、そんなシュワルツェネッガーの無邪気な愛情(と限界)もなんだか愛らしく思えてしまいます。


まあそれはともかく、アメリカアクションエンタメ映画においてもっとも重要なことはいかに主人公に感情移入して映画に没頭し、そして観た後いかにすぐに忘れることができるか、これに尽きると思います。

そういう意味でこの映画、近年稀にみる傑作です。


★★★★