母が親子心中しようとした日
ギャンブル依存症の父と離婚した母は、赤ん坊だった私をおんぶ紐で背中に括り付け、実家近くの池に入ろうとしたらしい。
子連れで離婚など、今の時代ならさほどめずらしくもなく、そんな事で?と聞かれそうだが、昔は違ったという。
母は7人兄弟の上から数えて、5番目の三女だ。
祖父は戦争から戻り病気になり、長い入院生活の末に亡くなった。
祖母はいわゆる土方と言われる力仕事をしていた。
もちろん、そんな家庭で裕福なわけはなく、母の最終学歴は中学卒業だ。
そして中卒をいまだにコンプレックスに感じている。
母を表すぴったりな言葉は?と聞かれたら即答できる。
「働き者」だ。
仕事をさせればすぐに要領よく覚え、とても気が利き、働くのを惜しまない。
私は知っている。
下手な大卒より地頭の良いパートさんの方がよっぽど頼りになる事を。
「もしドラえもんのどこでもドアがあって、一回だけ使用できるとしたら、いつどの場所へ行きますか?」
という問題があれば、ここも即答できる。
その場所だ。今にも池に入ろうとする母に私は言いたい。
「ちょっとそこの死のうとしてるあなた、これからの時代は女性が活躍し、あなたの能力ならどこで働いても最低限の生活が出来ますよ。」
あともう一つ。
「その農業用のため池、腰の深さがせいぜいですので、簡単に死ぬの無理です。」