三人の愛情
りんご男は去って行った。
祖母は、「いい人だね」と言った。
叔父は、特に何も言わなかった。
祖父は私が生まれる前に亡くなっているので、この家の長は、当時独身だった叔父だ。
叔父が何も言わないという事は、まぁ合格といったところだ。
何かある時だけ、ハッキリとNOと言い、後は一切受け付けないというような昭和人間だ。
ここからが私の人生の大きな分岐点となる。
振り返ってみても、ここまでは幸せだった。
母が夜居らず、昼間もほとんど構ってもらえず寂しかったが、幸せだった。
それに余るあるほどの、愛情をくれる人たちが周りにいたからだ。
夜はあたたかな布団で祖母と毎晩一緒に寄り添って寝た。
祖母が勝手に考えた変な昔話を聞きながら、安心して心が穏やかなまま眠りに落ちた。
なぜか祖母の作る味噌汁はドボドボとした物だったが、それが大好きでご飯にかけて毎朝食べた。
叔母は幼稚園のお弁当を作ってくれた。
買い物に行く時も、彼氏とデートでも、ところ構わずどこに行くでも、私をいつも一緒に連れて行ってくれた。
叔母が初めて買った、赤いシビックの助手席は私の指定席だった。
一般的に父という存在が人間の心にどんな影響を与えているのか、いまだにわからない。
だけど一番近い存在だったのは、今でも叔父だったろうと思う。
週に一度しかない休みは、毎週必ず近所の駄菓子屋さんに連れて行って、好きなだけ買っていいと言ってくれた。
毎晩わたしを膝の上に乗せて晩酌し、近所のグラウンドでキャッチボールをして遊んでくれた。
この三人といる時、私は幸せだった。
子供ながらに、三人の愛情を確実に感じ取っていた。
それはそれは居心地が良く、とても「あたたかな場所」だった。