唐突に母が言った。
「お父さんが海外の仕事から帰ってきたから、一緒に暮らす事になるよ。」
私はとにかく驚いた。
父親という人が実在した事、その父親というものが「海外で仕事」という何やら輝かしいものを持っていた事にだ。
そう、私はこの時、りんご男が家に訪れた意味など一切わかってなかったのだ。
ここから不思議な事に、私の記憶はすっぽりと抜け落ちる。
どう思い出そうとしても、思い出せない。
引っ越しや、祖母や叔父や叔母との別れ、色々あったはずなのに、全く記憶にないのだ。
昔の写真を見てみた。
何やら結婚式らしい会場で、マイクを持ちニコニコとしている。
これはまさしく、自分の母親の結婚式だと、後から教えてもらったのだが、一切記憶にない。
ただただ、叔母の膝の上で、無邪気で明るく、ふくふくとした表情をしていた。