「〇〇ちゃんて、お父さんのいない子だと思ってた」
学生時代、仲良くなった子たちから、必ず言われた言葉だ。
私は、お父さんについての話を一切しない。
母については、みんなと同じように、屈託なく話す。
やはりいくら愛情不足だったとはいえ、これが実の母娘たる所以だろうと思う。
新しいお父さんは、中学卒業後にすぐに近所の鉄工所で働いた。
母一人、弟が二人の家族構成で、父親はいなかったので、長として自分が働き、弟たちを養ったのだ。
いわゆる職人で、まさしく職人気質。
若い頃は、鉄工所の勤務が終わり、夜スナックでバイトをした。
バーテンダーだ。
そこで母と知り合い、結婚した。
私の前に突然「りんご男」として初登場した時には、ロイヤルブルーのスポーツカーに乗っていた。
おそらく夜のバイトで貯めたお金で買った物だろう。
結婚してからは自由になるお金もなくなり、ボンゴという家庭仕様の車に代わっていた。
お父さんはモテた。
背が高く、外見がいいのだ。
その外見の良さは、自分の父親から譲り受けたものらしい。
お父さんの家庭環境も複雑だった。
小学生くらいで、自分の父親と離れる事になった。
こちらも離婚だ。
お父さんは、小学生の時に離れ離れになった自分の父親に会うため、片道1時間かけて歩いて会いに行ったそうだ。
そしたら、こう言われたという。
「もう二度とここには来るな。」それだけ言って、門前払いされた。
小学生の足で、また帰り道を一時間かけて、どういう想いで帰ったのだろうか。
想像に難くないが、そんな話さえ交わした事がない。
お父さんが死んでから、そんな後悔ばかりだ。