文化学園服飾博物館で開催中の「時代と生きる ~日本の伝統染織技術の継承と発展~」にあわせて、染織の技を生かすために不可欠である道具の現状、そしてこれからについての東京文化財研究所と文化学園服飾博物館による共催による研究会。染織技術者と研究者によるパネルディスカッションが開催されました。


東京文化財研究所は美術館、博物館の修復組織だと思っていたのですが…、技術を伝えるための調査、研究もされる機関であることを今回知りました。その調査の中で、伝統技術を伝承するうえで欠かすことのできない道具の保護が十分でないこと、高齢化が進み後継者問題によって廃業し、いらなくなった道具が破棄される一方で、道具が手に入らない若手の作家は充分な仕事ができないことも明らかになったのだそうです。
和棉を織る作家さんで竹筬を探している人とかいますね…。道具をつくる職人さんは、きものをつくる職人さんよりもさらに裏方なので、あまり知られてはいません。きものが衰退すると共に需要も減り、廃業に追い込まれるところもあるそうです。

コーディネーターをつとめられた、東京文化財研究所の菊地理予さんのお話の中では、1952年(昭和27年)に刊行された「染織美術」の中での「無形文化財と染織技術」の座談会のページについてふれられています。

座談会の中で、主要資材と副資材、環境や背景も保存していかなければ…という話があります。60年前に問題提起されたことが現在さらに深刻な問題となっている状況。この座談会は1950年に文化財保護法が制定され、1954年に改正される前に行なわれたもの。現在、重要無形文化財には各個認定(人間国宝)と保持団体認定があります。
人間国宝は芸術活動支援なので、指定条件はありませんが、保持団体は技術枠なので、その技術を保持するための材料や道具が手に入らなくなると規定外となってしまうということに改めて気づかされました。


パネルディスカッションは染織の現場の職人の方々の工程の動画をみせていただき、現状をお聞きしていくという形で行なわれました。
コメンテーター◇藤井健三 (西陣織物館顧問)
コーディネーター◇菊池理予(東京文化財研究所)
パネリスト◇中山俊介 (東京文化財研究所)/吉村紅花 (文化学園服飾博物館)
新井教央(新啓織物)/瀬藤貴史 (三八染工場)/松原伸生(藍形染まつばら)/横田透(横田伊三郎)


長板中形の松原伸生先生。
長板は元々は「型付け」と「染め」は分業であり、染めは紺屋の仕事だったが、祖父の代から一環してやっている。篦は手づくり。糊の糠も精米のものでなくつくりかえてたもの。


小紋染の横田透先生
染色教室を開催し染めることの楽しさを伝える活動にも取り組んでいらっしゃいます。


秩父銘仙の新井教央先生
仮織りした経糸を型紙による捺染で織りだす銘仙。


友禅染の瀬藤貴史先生。桜美林大学の講師の先生だそうです。
表現にあわせて、型染めから手挿しまでされるそう。型紙の絹紗を生産するところがなくなり、テトロン紗をつかうが漆とあわない。


文化学園服飾博物館学芸員の吉村紅花先生の報告はパネルディスカッションの前だったのですが、総轄してまとめます。

きものの購入は1970年代がピークで、1人当たり2年半に1枚はつくっていた。結婚、お宮参り、入学式など行事とあう。現在2008年では30年に1枚との統計。


※以下の3点の写真は、文化学園服飾博物館学芸員の吉村紅花先生の発表より。

着物を過去の遺物としないために、服飾博物館としてできること。

「時代と生きる ~日本伝統工芸染織技術の継承と発展~」の展示について。
•どのようにしてつくられたのか知ってもらう(工程の動画展示あり)
•伝統的技法と近代的技法によるものを実物で比較する

•人の作業と道具、機械の携わり方を実感してもらう(工程の動画、道具類の展示)

•古くさいものにみえないように(動画、画像は最近撮影したもの←これ重要!)


これからきものの需要を増やすために
•小学校の授業で取り入れる(親が教えられないのです。義務教育としてやるべきでしょう)
•ネットワークの再構築。伝産法、文化財保護法の見直し。
•道具バンク(いらない人、いる人を結びつけるところがあるとさらに良いと思います)
という提案がありました。いずれも具体的であり、大賛成です。

さらに、職人であるつくり手の先生方からは、つくり手と着る人(買う人)の直接的な接点。
きもの業界の中では異論がありそうですが、着る側が望んでいることを呉服屋さんが
理解できないとなると、最善策だと思われます。

「時代と生きる ~日本伝統工芸染織技術の継承と発展~」
文化学園服飾博物館にて(~2月14日まで)ですビックリマーク

工程の動画映像を見るだけで、半日はかかるかもしれません。
会期中にもう一度見にいく予定です(^-^)/

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