「紋紗」重要無形文化財技術保持者でいらっしゃる、土屋順紀先生のお話

公家の夏の装束につかわれる「紋紗」。
その生地は向こう側の景色が透けてみえてしまうほど薄く透明感があります。

土屋先生は紗と平織をひとつの機で約1ヶ月半かけて織りあげるのだそう。
この透明感のある色を生み出す染料はすべて植物から採取したもの。

土屋先生は高校生の時に日本画家の清水正一氏より日本画を、京都の美術学校では
テキスタイルを学びます。美術学校在学中に訪れた志村ふくみ先生の工房で、植物染め
の美しさに魅せられたことから、卒業後にすぐにし降らせん生に弟子入りされたのだそうです。
その時、24歳。工房の中では唯一の男性だったとのこと。
弟子入り初日に志村先生に連れて行かれたのは、桜のお花見。
「自然から色をいただく」ことを教えてもらったとのこと。

植物は同じものでも天候や場所によって微妙に異なる色が出る。
化学染料は「この色」と自分の頭の中で考えて染めることになるが、植物にはあらゆる色があり、
植物染料には無限に色があるということを知ったのだそうです。
色を勉強するなら植物を染めて、化学染料も経験し、また植物に戻るとのこと。

さらにその後、羅と経錦の重要無形文化財保持者である北村武資先生の羅の伝承者養成研究所で捩り織の技を学んだことから、織の技法と植物染めを生かし、独自の絣の技を融合させた紋紗を織りあげられます。紋紗は織物技法の中でも特に複雑ですが、透け感ある生地は古くから人々を魅了しています。

絣はズレて当たり前。染めては解きを繰り返し、4倍のことをやっているのだそう。
染めの回数が増えれば堅牢度があがる。
絣括りはビニール紐をつかい、5段階のグラデーションになっています。

篩にかけられる1300本の色糸

土屋先生が子どもの頃に見た春日神社の能装束の美に魅かれたお話、生まれ育った
岐阜の自然、長良川の川面のゆらめき。
それらが写しとられたような美しさが反映された作品を丁寧に解説していただき、その精神性の
豊かさと清らかさから生まれるものなのだと感動するお話でした。

着ても飾っても小裂になっても、良いものは良い。とのお話がありましたが、その通りだと思います。