静岡県三島市にある佐野美術館にて開催中の
「きもの•装いの美 百選会•上品會の歴史 ~髙島屋コレクション~」へサーチ
(2013年10月12日~12月23日まで。展示替えあり。11月22日~より後期展示)
きもの カンタービレ♪

1831年(天保2年)に飯田新七が創業した「たかしまや」は当初は古着木綿商。
蛤御門の変にて店舗を焼失したことをきっかけに古着屋を廃業して木綿呉服商となります。
その後、1888年(明治22年)バルセロナ万国博覧会を皮切りに、優れた技の染織作品を
発表し数々の賞を受賞。下絵を竹内栖鳳はじめとする京都画壇の画家に依頼し、卓越した技
を持つ千總や龍村などとの親密な関係を築き、素晴らしい染織作品を残していきます。

染織文化講座での髙島屋呉服DV部長 池田喜政さんによるお話にもありましたが、
髙島屋は松坂屋、白木屋、三越、大丸などと比べると後発だっただけに、新しい感覚の
デザインを打出していて、「ウルトラモダン」「アバンギャルド」とも評されます。

それはどんなものだったのか?  
昭和30年~50年頃につくられた百選会の作品群。私的にはストライクど真ん中の好みドキドキ
きもの カンタービレ♪

百選会は1913年(大正2年)にはじまり戦争で一時中断した後、1994年(平成6年)まで
つづいていました。今はもうないのが本当に残念…(_ _。)
美術史家の中井宗太郎をはじめ、与謝野晶子や堀口大學文化人を顧問とし、毎回流行色と
テーマと標準図案を提示し、全国の産地から染織品の新柄を募集して、髙島屋が審査し、
展示即売する会でした。これによって髙島屋は新しい意匠の流行を仕掛けていきます。

今展示会では、百選会の歴史を写し出した写真やテーマと募集する新柄傾向が解説
された趣意書、標準図案なども展示されていました。
流行の変遷と時代背景を照らし合わせてみるとさらに面白いです。
きもの カンタービレ♪

歌人の与謝野晶子は1818年(大正7年)から百選会に関わり顧問となります。
歌心を触発されたのか、きものや染織の技などを題材に読んだ歌453首が今年になって
明らかになっています。これらはどの歌集にもおさめられてません。

春の衣 京の工人 色糸に たそがれを織り あけぼのを織る
ひんがしの 日の出の色を わが帯の 一端にだに 置かまほしけれ
花いかだ 花ぐしのごと 美くしき 京染の袖 誰れ振るならん
わたつみの うしほの色を 上に着て 風流男(みやびお)たちに もの云ひてまし


百選会の選定色にも「平和色」「聚楽紅」「慶長紫」「月の出色」など286色に名前を
つけています。平和色は淡い緑色、月の出色はマスタードのような色でした。

百選会の最大の特徴は、髙島屋が色とデザインのテーマを設定したことにあります。
そのテーマや趣意書の内容は大正末期より「婦人画報」に掲載されています。
作品の制作側だけでなく雑誌媒体をつかって着る側にもアピールすることによって、
百貨店が流行を牽引していました。

【百選会審査の流れ】
•三都(東京•大阪•京都)の髙島屋が顧客の意向持って。
•髙島屋の海外視察員は(巴里•紐育•倫敦•伯林)から世界の流行を報告、
•当代の文芸家、書家、学者、詩人、流行評論家、などから意見をもらう。
●「百選会趣意書」がつくられます。
選定色(流行色)の見本裂が添付された小冊子で、公募対象になる染織業者に配布。

•全国各産地に係員が出張して流行趣意の徹底を図る。
•京都において「趣意書発表会」が開かれる。
●三都の髙島屋衣装部を通して「標準図案」がつくられる。
設定されたテーマ、趣意にそって髙島屋社員が制作。社外からの公募図案を含め千点に
及ぶ図案、入選図案を改めて標準図案として発表。標準図案集を配布。

•そして公募作品作品は全国から京都へ。
●百選会の顧問、三都店舗の代表審査員によって「百選会審査」。

●三都の髙島屋にて百選会が開催され、お客様のもとへ。
きもの カンタービレ♪


訪問着「新車試乗」 1960年(昭和35年) 第96回秋の百選会
自家用車が国民に普及していくころです。テーマは「第二の自然」
スバル360の発売がこの頃だそう。そういえば車もこの頃の形が好みだなあσ(^_^;)
きもの カンタービレ♪

訪問着「近代設計」 1958年(昭和33年) 第90回秋の百選会
高度経済成長登り坂の頃です。この年の百選会のテーマは「第三の美」。
これは、「第三の火」といわれた原子力にかけた言葉で、当時は未来への希望であった
あたらしい原動力たる第三の火に相応しい創造力が求められたようです。
「未来といえども現在の継続であり、創作といえども熟練の成果である」
科学的事象も染織で表現することが提唱されています。
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訪問着「スリーランホーマー」 1961年(昭和36年) 第99回秋の百選会
テーマ「イルミナション(発光調)」
スリーランホーマーって野球用語ですよね…・長島や王が現役で活躍したころでしょうか?
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絵羽羽織「野の娘」 1976年(昭和51年) 第142回春の百選会
テーマ「リナシータ きもの 対比の美」
きものらしいきものからの脱却の時代だったと注釈されていましたが、保守的ではないも
のの美しい。
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訪問着「スーパーカー」 1978年(昭和53年) 第150回秋の百選会
スーパーカーブームの頃でしょうか。スーパーカー消しゴムをボールペンのノック力をつかって
進ませる遊びが流行ったなあ…っと沁沁。
テーマ「美しきメッセージ あなたによるあなたのためのあなた自身のきもの」
きもの カンタービレ♪

百選会は1994年(平成6年)をもって最後となってしまい、とっても残念なのですが、きもの
を着るだけで特別感?のようなものが生まれてしまう今では、モダンで革新的な新柄意匠と
いうのはムズカシイのかもしれません。
きものを着ることが自然であったら、時と場合に応じて古典的なものからモダンなものまで
装いを着分けるという楽しみがあるのですが…。
きもの カンタービレ♪

呉服の髙島屋がもつ、もう1つの柱。今では大黒柱となっていると思います「上品會」。
長くなり過ぎましたので、別記事でご紹介します(^-^)/

※展示会場内での写真撮影及び「きものカンタービレ♪」への掲載は佐野美術館さまより
許可をいただいているものです。

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