紬織の重要無形文化財保持者でいらっしゃる佐々木苑子先生のお話
きもの カンタービレ♪
平成23年に文化庁が企画した工芸技術記録映画である『紬織 ~佐々木苑子のわざ~』。
第59回日本伝統工芸展に出展された絵絣紬着物「細月明かり」の図案制作、絣の種糸づくり、
絣括り、植物染料による染色、綜絖通し、機織と気が遠くなるような全工程を取材された
映像を鑑賞し、その後佐々木先生より制作についての貴重なお話がありました。
きもの カンタービレ♪
どの工程も精密で計算し尽くされたもの、改めて佐々木先生が丹誠込めてつくられる作品の
美しさ、素晴らしさを再認識し、織物に対する真摯な姿勢を知ることとなりました。
中でも絵絣の特徴的な絣糸づくりの工程と佐々木先生のお話から。

図案づくり◇方眼紙に書き込む線が絣の文様となり余白が地色となる。
図案を写して着物の形にし絣文様のバランスが検討される。

種糸づくり◇着尺と同じ幅の種糸台に木綿の糸を掛けていく。
この糸の上に型紙をのせて固定し墨付けする。
この絵絣の種糸つくりの方法は弓浜絣の産地で学んだことを自分の表現に生かしたもの。

糸の整経◇弓浜の職人から譲られた整経台に種糸を掛けていく。
整経台は弓浜の職人から譲り受け、先生が自ら車を運転して運んだのだそう。
種糸に写された模様の一筋、種糸にたるみがないかハリを確認し、絵絣のための玉糸は
4本の絣糸を竹筒に通して束ね、種糸と同じ軌道で一定のリズムとテンポで一気に掛けていく。
1柄が80本しかできないとのことで、算盤で数をカウントされていました。

絣括り◇張り終えた糸束は括り台に移され墨付けされた糸印をナイロン紐で縛りつける。
全ての模様を括り終えるまで2ヶ月の時間がかかったとのこと。

植物染料による染色◇自宅の井戸水を利用。経験と感性が様々な色を生み出します。
この作品は梔子で染め藍による重ね染め。
括りの境目までしっかりと染め付けるために、タオルで糸を挟んで足で踏む。
これによって絣に染料が入ってしまう泣くことを防ぐ。
完成時の思い描いた色を再現する為に二度三度と染めを繰り返すのだそう。

糸つくり◇水洗いした後、布海苔をつかって糸を保護する。そして糸道をつくる。
ビニール紐を解いていくと絣の部分が白く残っている。種糸は役目を終えて切り離されます。
括りを解いた糸を絣台をつかって1本ずつ分けていく。この絣台も産地から譲られたもの。

織りには集中力と注意力と根気とガッツがいるとのこと。
頭ではなく五感を磨いて積み重ねて、この世にはじめて生まれる形、色をつくりだす。
あくまでも素材が主役であり、糸がどうして欲しいのか、染料も五感で判断する。
きもの カンタービレ♪

絵絣の題材に鳥が多いのは、一つの場所に留まらない永遠性と大陸を渡るエネルギー、
そういうものに託す気持ちの現れなのだそう。
きもの カンタービレ♪
こちらは絵絣の図案となった型紙
きもの カンタービレ♪

重要無形文化財「紬織」保持者(人間国宝)に認定されてから、まるで別の人生がはじまった
というお話がありました。お話があった時に、重荷でもあってお断りされたのだそうですが、
もう決まったことですからと言われてしまったとのことで、以来、保持者としての役割があり
大変忙しくていらっしゃるのだそう。
重要無形文化財保持者に認定され天皇陛下の茶会の儀に招かれた際の陛下からの
「国のため人のため、一筋の道を尽くしてくれてありがとう」というお言葉をいただいて
そこで覚悟ができたとのお話もありました。

大変印象的だったのは、「1作品織りあげると次はこうしたいと思って目の前のことを追いかける
ように繰り返し作品づくりをやっている。生涯できる仕事はかぎられているけれど、生まれ変わって
も織物を織りたい。」という、佐々木先生の深く熱いお言葉。
伝統の担い手として次の世代に繋げていくという高い志はその作品からも溢れていました。