ついにプレミアリーグが開幕しました。昨シーズン3冠を達成したグアルディオラ監督率いるシティに対して各クラブがどのように挑んでいくのか、毎週末が楽しみです。第1節は2008から2019シーズンまでシティでプレーした元ベルギー代表、ヴァンサン・コンパニ監督率いるバーンリーです。両者お互いをよく知るからこそ、試合中の修正により戦況が変化していくという非常に興味深い内容となりました。
目次
・総括
・M・シティ戦術
シティは4-3-3の布陣です。
ショートパスを中心に攻撃を組み立てていきますが、敵が前線からプレスをかけてきて後方が手薄になる場合は、FWのハーランドに対してシンプルにロングボールを放ってきます。前半立ち上がりで特徴的だったのは右と左で攻撃の作り方が異なる点です。右サイドはウォーカーが幅を取ることが多いですが、左サイドはルイスが中に絞ってきてDMF、IHのような役割を果たし、左WGのパスコースを空けます。
三苫選手のようにワイドに立ち位置を取り、1対1を仕掛けるのが得意な左WGがチームにいる際によく用いられる手法ですが、おそらく、バーンリーのシステムに対し中盤での数的優位を確保する目的があったのではないかと思われます。(後述しますが、この立ち位置はバーンリーの守備戦術によりあまり機能しなかったため、グアルディオラ監督により前半で修正が加えられます。)
・バーンリー戦術
それでは、バーンリーの戦い方を見ていきましょう。バーンリーは攻撃時には3ー4ー1ー2の形を取ります。
守備時にはFWのフォスターが右SBのウォーカーをケアし、5ー3ー2の形から、マンツーマンをベースにしたハイプレスで人に対しプレッシングをしていき前線からボールを奪いに行きます。後方を5バックにしているのでCBもどんどん前に出ていきます。特に秀逸なのが前線2枚の守備の仕方です。中盤へのパスコースを切りながら、チームでボールを奪えるようにシティCBを追い込んでいきます。チャンスと感じた場合はシティGKエデルソンに対してもプレスをかけていきます。
マンツーマンをベースにパスコースを塞ぐ
CBにプレスをかけながら追い込む
相手の縦パスを奪いカウンターへ
また、マンツーマンの守備により自陣後方が数的同数になるため、ロングボールを放られた場合は中盤が素早くプレスバックし、セカンドボールを拾いに行きます。
中盤の素早いプレスバック
それでも自陣まで押し込まれた場合は5-4-1のブロックを敷き、コンパクトな陣形を保ちながらゴールを守るという3段階の戦い方です。前半3分でのセットプレーの失点は残念ですが、グアルディオラ監督が修正を加える前半途中まではこの守備戦術がハマりショートカウンターに持ち込める場面が複数回見られました。もしここで得点を奪えれば、また違った試合展開になったと思いますので、バーンリーとしては前半早々の失点に加え、ここで決めきれなかったのが結果的に勝負の分かれ目となったと思われます。
・グアルディオラ監督による修正
前半20分でデブライネの負傷によりコバチッチを投入します。この際にB・シウバを左IHに入れ替え、全体に修正を加えました。具体的には、後方での数的優位の確保のため、ロドリ、B・シウバが自チームディフェンスライン、あるいは相手2FWの脇まで降りてきて、右SBのルイスは少しワイドな位置に立つようになりました。特に顕著なのは2CBの間に2枚が落ちてきた形です。
それまでのシティは全体的に高い立ち位置を取っていましたが、低い位置で数的優位を確保することにより、バーンリーは誰がつくのか、どこまでついていくのかという迷いが生じるようになり、フリーの相手選手を作り出すことになってしまいます。
マンツーマンでマークを受け渡すことなくついていけばCBが高い位置まで釣り出され後方に大きなスペースを空けてしまいますし、受け渡すにしても前線も元々誰かのマークをしていますので、誰にどのように行かせるのか、対応が困難になりました。シティの2点目は、そのような後方での数的優位→ボールを保持しながら前進する中での相手の隙をついた得点となりました。
全体的に高い位置を取っていたため、フリーの選手ができない状況。左WGが下がってもバーンリーのDFがついてくる。いわゆる守備がハマっていた状態
左SBルイスが高い位置を取りバーンリー右WBを留め、そのスペースに左IHのB.シウバが落ちてくる
CBがややワイドに開き、ディフェンスライン中央に2枚落ちる。バーンリーDFに生じる迷い
・コンパニ監督による修正
前半を0-2で折り返したため、最低でも引き分けに持ち込むためには2点取る必要がありました。そのためハーフタイムの修正は、前線からの守備をより求めるものでした。具体的には、自チームディフェンスライン5枚の両端WBを、より高い位置へ押し上げ、3-4-3のような形にしました。後方での数的優位を確保させずに再度高い位置からのマンツーマンプレッシングでボールを奪いに行くというものです。
しかしシティもB・シウバだけでなく状況に応じてコバチッチも後方で数的優位の確保に参加したことと、前に圧力をかけたため手薄になった自陣へロングボールを放り込まれたことにより、なかなかプレスがハマらない展開となりました。前半からの激しいプレッシングよる疲労も見られたため、選手の交替によって試合の流れを引き寄せることを試みましたが、手薄になったバーンリー後方へのロングボールを収めたハーランドに対して犯したファールにより、セットプレーを与え、失点してしまいました。試合を決定づけるゴールだったと言えます。
・失点シーン
1失点目、3失点目はセットプレーによる失点、2点目は流れの中からクロスによる失点でした。バーンリーのクロスに対する守備はGKとディフェンスライン間のスペースを埋めることを意識した対応でした。これによりGK-ディフェンスラインの大部分のスペースを埋めることが可能になりますが、デメリットとして、マークがハッキリしなくなる、ディフェンスラインの前方のスペースを空けてしまうという現象が生じます。
GK-ディフェンスライン間のスペースを埋める
ディフェンスライン前方のスペースが空く
その特性を理解した2点目のハーランドの動きは見事としか言いようがありませんし、ゴール前で少しでもスペースを与えてしまうと失点に繋がるという脅威を知ったシーンでもありました。強豪相手に勝つにはやはりゴール前で一瞬でもスペースを与えてはいけないことを思い知らされました。
ハーランドがマイナスのクロスに対し動き直し、ディフェンスライン前方のスペースを活用
・総括
結果的には0-3となり、ジャイアントキリングとはなりませんでしたが、前線の献身的な守備、中盤の素早いプレスバックは前半、相手をかなり困らせていましたし、何より引かずに前線からボールを奪いに行くというコンパニ監督のポリシーを感じました。しかし、立ちはだかったのは名将グアルディオラです。前半早々に修正を施してきた対応力は圧巻でした。それだけに、前半早々の失点がなく、修正される前にゴールを奪うことができればかなり違った結果になったのではないでしょうか。今後のバーンリーの戦い、シティとの後半戦に期待です。
ジャイアントキリングのための教訓
・前線の献身的な守備
・中盤の上下の運動量
・流れが向いている間に決めきる力
・自陣ゴール前での守備の整理
・自陣での不必要なファールをなくす
次回は第2節シティvsニューカッスル戦をお届けします。