アメリカのナパバレーにグレースファミリーというワイナリーがあって、そこのワインはなかなか手に入らず、自宅に大きなワインセラーがある愛好家の尾崎将司プロがたくさん保有しているらしい。そういう話を聞いたのは、いまから20年前だ。それ以来、「Grace Family」という名前は私の潜在意識の中で生き続け、いつか飲んでみたいと思っていた。
だからこのナパへの旅で「Grace Family」を飲むというのは、大きな目的だったのだ。
証券業界で成功した元海軍軍人のディック・グレース氏がナパバレーに移り住み、自宅前のわずか1エーカーの土地に植えた葡萄の出来が良く、妻と共に趣味で作り始めたワインが「Grace Family」。1978年に「ケイマス」のチャーリー・ワグナー氏の協力によって記念すべきファーストロットがリリースされたのだが、エレガントなそのワインはたちまち評判になり入手困難に。売り上げのほとんどを世界中の難病で戦う子供たちのために寄付しているという、夫婦の姿勢に対する共感も手伝って名声は高まっていった。
というわけでナパ2日目、われわれはまず「Grace Family」へ向かったのだった。29号線を走り、前日も訪れたセントヘレナの街を通り過ぎてしばらくしたところに「Grace Family」はある。地図を頼りにその場所に行くと、進行方向の左手に小さな坂道があって、何やら建物が見え隠れしている。車で坂道を登っていくと、白いアーリーアメリカン風の建物があって、家の前に緑のトラックが停まっている。よく見ると、トラックのドアに小さな文字で「Grace Family」とあるではないか。それがないと、そこがどこだかわからないような状態で、どうやら訪問者を歓迎している様子はなかった。
私と卓さんは車を降りて辺りをうろついてみたけれども、人が出てくる気配はなかった。不審人物に気付いて誰か出てくれば、ワイナリー見学の交渉をしようかと思ったが、何も起こらなかったので、仕方がなくわれわれは車に戻り坂道を降りてゆく。下り切ったところの左手に葡萄畑があったが、けっこう狭い。この畑で作られた葡萄のみで造るとしたら、確かにそれほど数は作れないな、などと思いながら、後ろ髪を引かれる思いで「Grace Family」を後にした。
すぐ近くにあるダッグホーンのワイナリーを見学してから、セントヘレナのワインショップへ。店の奥にはナパのカルトワインが並んでいて、思わず興奮。「Grace Family」もいろんな年代が置いてあった。しばらく悩んだ末、2001年をチョイス。お値段は500ドル也。レジに持っていくと、店員の女性が「そう来るのね」と言いたげに私を見る。包装してもらうと、私は赤ちゃんを抱きかかえるようにして店を出たのだった。
その夜、「Auberge de Soleil」にボトルを持ち込み、念願の初「Grace Family」となった。小高い丘の上にある「Auberge de Soleil」のダイニングはテラスになっていて、ムード満点。ここでも男二人がテーブルに並んでいる様は、異様だったかもしれない。でもスモールポ―ションで始まる料理は繊細で美味しかったし、何よりも「Grace Family」は、しっかりとした果実味がありながら、それでいてキレもあり、とにかく旨かった!
かなり端折っているが、この旅の顛末は昨年の「Go!gol」に記事として書いたので、いつか公開できたらいいな、と思う。





